暴食スキルで全知全能!? そして創世へ……

境 仁論(せきゆ)

第1話

飢え死にだった。最後は誰からも見放され、路上のハエに集られながら死んでいったのさ。


だからこの、所謂異世界とやらに生まれ変わった時、俺は驚愕したよ。神様は俺を見捨ててはいなかったんだってね。

———「暴食」スキル。

モンスター等の肉を食うことでその能力を我が物にできる、というやつらしい。


確かに俺は死ぬ直前、こう願い続けていた。

なんでもいい。口に何か入れて、咀嚼したい、と。

それ以外はもう何も望まないから、と。


騙されてお金を取られ、じゃあせめて善きことのためにと募金したら詐欺グループの資金源にされていたりと、ふんだりけったりな俺の人生だったが、二度目の人生にこんな逆転の目を残してくれるなんて、異世界転生っていうのも中々悪い物じゃないみたいだ。



しばらく歩くと……


「やめて! 最後の食料なんです!」


女性の声が聞こえ、俺はすぐそこに向かった。すると大柄な男二人が、細見の少女を押さえつけて、手にたくさんの食料を抱え込んでいたのだ。


……まるであのときの俺じゃないか。


強い人間に簡単に利用され、奪われて……


見過ごすわけにはいかない。使えるかはわからないが、俺の中に眠っていた、

「暴食」スキルが……疼きに疼いていたのだ!


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「ありがとうございます……本当に」


彼女が涙ながらに手を取り礼の言葉を告げていた。


背後にはハエが集る骨が無造作に捨てられている。

口の中はぎとぎとで、正直心地いい味だったと言うことはできないが、それでもかつての自分を助けられたような気がして、なんとなく気分が高揚していた。


「私、セタって言うんです。あの、あなたのお名前は」


セタ。みすぼらしい服を着ていた彼女に対して俺は生前の名を教えた。


「そうなんですね……もしよろしければ、食べ物をいくつか差し上げます」

「いやいや、そんなことはできないよ。この食べ物は、君自身のためにとっておくんだ」


自分よりも一回り小さい彼女の頭を撫でる。

そしてセタはまたお辞儀をし、たくさんの食べ物を抱えてその場を去っていった。


後ろ姿を眺める。


———ああ。



俺はやっぱり追いかけて……


セタを美味しく喰らいつくした。


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何はともあれ職を手に入れなければ!

滞在していた国には騎士団があるそうで、そこの入団試験を受けることにした。


「いただき……ます!」


事前にモンスターを何体か食べていたおかげで多くの能力を駆使できた。

スライムの「液状化」、オークの「鬼人化」、フェアリーの「幻惑」……

これらを組み合わせて、なんと主席で合格!

晴れて期待の新人として正当な騎士になれたのだった。


入団後は多くの魔物と戦い、喰った。喰えば喰うほどスキルは強化され、使える技も多くなる。

「火炎」「流水」「雷」「疾風」「大地」「光芒」「漆黒」……あまたの属性を網羅し、そこに

「剣術」「弓矢」「槍術」「拳法」「砲弾」といった戦士としてのスキルも身に着けていったのだ。


これをもって俺はまさしく、騎士団最強の男として名を馳せるようになったのだった。



それにしても、腹が減った。


今日もまた、優秀な騎士を一人食べた。


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S級モンスター「フェニックス」を単騎で撃破し、その肉を喰らった俺は、

「不死身」の力も手に入れた。


王からは最大の名誉として「永劫騎士」の称号を与えられた。

以降は騎士ではなく賢者として、俺は国立大図書館の支配人の座を、


喰って奪った。


今まで食べてきたものの記憶も俺は保持している。食べれば食べる程知識も深まる。一石二鳥だった。


そんな俺が図書館ですることはただ一つ。


本を食べることだ。


もはや有機も無機も関係なく食べられるようになっていた俺は、

十数年かけて保存されていた全ての本を食べつくした。


俺自身が、図書館となった。


人々はみな食べ物と引き換えに知識を乞うようになり、俺はまさしく、あってはならない存在となったのだ。


後、王の座も喰い俺の物とした。


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王となった俺は先人たちの知恵を使い、全世界の国々に侵攻をかけた。そして王の身であっても俺は最前線に立ち、多くのモノを喰い殺したのだった。


東西南北、数多の国。

地上も深海も空中も、全ての帝国を、

大地ごと喰った。


喰えば喰うほど、新たな知識が増え、俺の身体はどんどん膨張していくのだった。


ある日のことだ。

優秀な臣下の一人がこう問いかけたのだ。


「あなた様はどこまで行くつもりなのですか」

と。


俺は返した。


「お腹が空かなくなるまで」

と。


ちょうど空腹だったので、その男も喰った。

その知識は既に手にしていたものだった。


古今東西、天上天下、遍くスキルを手に入れた俺には、神からボーナススキルを献上された。


その名は、「全知全能」

まさに、世界に存在する全てのスキルを手にしたもののみが手に入れられる最強の称号である。


わかる。何もかもがわかる。世界の仕組みも人の理も。


……ああ。


それでもまだ、腹は空く。


俺は神を喰った。


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それでも知らないことはある。

それは宇宙だ。どうしてこれが始まり、世界を作ったのか。

俺は無性に知りたくなった。

何を喰えばいいだろうか。もう全て食べてしまった。

次は誰の記憶を頼りに……あ。

そうだ。


この星を、食べちゃえばいいのか。



俺はやっぱり喰った。肥大になり、歩けなくなっても、喰った。


喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って。


そして———

誰もいなくなって、この大地すらも消えて、


この丸い青い星も、胃袋に納めた。


替わりに俺が惑星となり、以前の星よりも数倍大きい恒星として宇宙に浮かんだ。


ああ、わかる。どうして星が生まれたのか。

全ては虚無から生まれ出で、意味も無く積み重なったのだ。

その創世の理由を、俺は破壊することでようやく知ることが出来たのだった。


「……うっ」


食べ過ぎた。気持ち悪い。


なんだか、破裂しそうだ。





大きな音が聞こえた。


俺は、爆発した。


本当に全部、無意味に消え、全ては虚無へと帰したのだった。


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はてさて、破壊と創造は切っても切り離せない、表裏一体の関係であるとはいいますが、まさにこの男は、破壊を持って新たな真理を創造し、「ゼロ」を産み出したのでございます。


モノを作るには時間がかかりますが、破壊するのはあまりにもカンタン。

ご飯を用意する時間よりも、食べる時間の方が短いでしょう?


壊れて無くなったものはもう一度作り直される。

作り直されたものは消費される。

こうして循環し、繰り返し……私たちは生まれ変わるのです。


さて、今日という日は一体、何度目の今日なのでしょうか?


それではみなさま、この星が生まれ変わり、また次の今日がやってきたそのときに……

このお話の続きをしようではありませんか。

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