第40話 最終回:皆に見守られながら…
応接間の中には陛下だけではなく、王妃殿下も隣に腰をかけていた。お二人は私の顔を見ると立ち上がり、わざわざ私の元へ来て挨拶をしてくれる――
「よく来てくれましたね、あなたの事は陛下から聞いていますよ。ベラトリクス様の事も知っています……今までよく頑張ってこられましたね」
王妃殿下は私の頭を撫でながら、とてもお優しい言葉をかけてくれて…………気付いたら涙がとめどなく流れていた。お母様に言われているみたい。私の涙に皆が慌ててしまったので、私は泣き笑いのような表情になった。
「お会い出来て嬉しいです」
その日、リンデンバーグでの暮らしやお母様の事、私の事など、沢山の事をお二人にお話しした。
お二人は時折お母様の話で険しい表情になる事もあったけど、話を聞けて満足していらっしゃる様子だった。リンデンバーグの王族はおそらく国王、王妃、側妃たちは処刑され、その子らは離島に流され、幽閉される事になると伝えてくれる。
実の父親と兄弟姉妹たちは血が繋がっているので少し胸が痛むけど、もうこんな事を繰り返さない為には、これで良かったのだと思う。
リンデンバーグ国は国として機能していないとは言え、このままでは無法地帯になってしまうので、ベルンシュタットで管理するという形はどうかと提案された。私は自分が生まれ育った国でもあるし、あそこで生活している民が少なからずいる事を知っているから、そうさせてもらいたいとお願いした。
領地の経営学などを学んで、住みやすい土地にしたい…………そんな思いが私の中で湧いてきていたのだった。
そして私はお母様の日記を陛下に渡そうか迷っていた……その話をすると、やはり陛下は迷っておられて――
隣に座っておられる王妃殿下が私が預かりましょう、と言ってくれた。陛下のお心次第ですぐに読めるようにと…………素敵なご夫婦に私は目を細める。
お母様がいなくなってから、王妃殿下はずっと陛下をお支えしてきたのだろうなと思うと胸が温かくなった。
私の事を国に広めるか、という話になり私はお断りしたのだけど……お母様の事を案じていた民にどうしても伝えたいと陛下が仰るので、それならばと了承した。
失踪した王女の生涯と、その娘として私の事はたちまち国中に広まり、多くの民の反響を呼ぶ事になる。王宮前に建てたお母様の慰霊碑には、毎日沢山の献花が後を絶たない――
そして私のお披露目も兼ねて、テオ様との盛大な式を王宮で行う事になったのだった。
~・~・~・~
リンデンバーグが消滅してから3ヵ月経った晴天の良き日に、私はテオ様と本当の夫婦になる。
純白のドレスを身に纏い、肌は磨かれ、髪は襟足を少し残して緩く巻き、残りは全てふんわりと結い上げている。頭上には光り輝くティアラをいただき、お花などの装飾に長いベールが後ろに流れていた。そんな私にエリーナが綺麗にお化粧をしてくれている。
純白のドレスはテオ様が私の為にデザインしてくれた。
舞踏会の為にせっかく贈ってくださったドレスが、攫われた事で汚れたり破れてしまったりで、私がとても落ち込んでいたので……それならば式でのドレスを贈らせてほしいと言ってくださった。
私は落ち込んでいたのも忘れて喜び、私のそんな姿にテオ様は張り切ってドレスを贈ってくれたのだった。
純白のドレスは本当に美しくて…………腕の部分はパフスリーブで余裕を持たせ、手の甲までイリュージョンレースが施された長袖になっている。首にはティアラに負けないほどのダイヤモンドのジュエリーにハートカットの胸元にはシンプルな刺繍とビジューで装飾されていた。
スカートの後ろ部分のトレーンはとても長くて、お化粧の間、座っているのがとても大変だった。スカートの前側はシンプルな作りだけど、トレーン部分は素晴らしいレースと刺繍で…………お姫様をイメージしているのが伝わってくる。
このドレスを来ているだけで、テオ様の愛を感じて胸が温かくなるわ――
「ロザリア様、全て準備が整いました!とってもお綺麗です~!!」
「ありがとう、エリーナ…………今までも今日も」
「幸せになってください、姫様…………あ、ロザリア様!」
エリーナは興奮すると姫様に戻ってしまう事があるらしくて、その度に訂正している姿が面白くて笑ってしまう。
「ふふっどちらでもいいのよ」
「いいえ!明日からは絶対に奥様にします!ロザリア様とお呼びするのは今日で卒業です」
明日から…………それは今日の式が終わった後………………
「……ふふっロザリア様、真っ赤ですわ。何をご想像されたのです?」
「だってエリーナが変な事を言うから!」
エリーナはとっても意地悪な顔をしてからかってくる。そうだった……今夜………………テオ様と本当の夫婦になるのよね……せっかく考えないようにしていたのに!
「変な事ってなんだい?」
「ひゃっ!」
「あ、旦那様!まだ来てはいけませんよ~~」
突然のテオ様の声が後ろから聞こえてきて、変な声が出てしまう。今テオ様に私の顔を見られるのはいけないわ…………私は最愛の人に背を向けた状態で固まっていた。
「ロザリー?肩まで赤いけど、体調でも悪いのかい?」
後ろから私を心配する声が聞こえてくる。今日という晴れの日にテオ様に心配をかけてはいけないわね。私は振り返って何でもないという事を伝えたのだけど、旦那様は私のドレス姿に夢中になってしまった。
「ロザリー…………天使みたいだ……とても美しいよ。私の花嫁は世界一だな……」
「もちろんです!ロザリア様以上のお方はおりませんわ。さあ、旦那様もロザリア様も、ホールに参りましょう。皆さまがお待ちですよ!」
テオ様が私の手の甲に口づけて「では参りましょう、ロザリア姫」と言ってくださる。
その言葉で、デボンの森で私を見逃してくれた時の事が頭に思い出された。私はエリーナを守る事に必死で……冥王と呼ばれるに相応しい威圧感と存在感を示し、去っていったその人と結婚する事なんて、その時は想像もしていなかったわ。
嫁いだ先でテオ様に沢山甘やかされて、愛されて、皆が優しくしてくれて、私の出自や国王陛下が伯父様だったという事が分かって……リンデンバーグからも解放され、今日最愛の人と本当の夫婦になる。
ここまでの道のりを思い出しながら、隣で微笑んでくれるテオ様の腕に手を置き、二人で式が行われるホールに移動した。
お母様、見ていてくれていますか。
ロザリアはお母様の国で生き、お母様の分も幸せになります――――
私とテオ様の式には国中の貴族が参列してくれて、そこにはもちろん国王夫妻のお姿もあった。ステファニー様やヒルド様のお姿も…………皆に祝福され、神の前で誓いの口づけを行う。
16歳の誕生日の時は二人きりだったけど、今日は沢山の方が祝福し、見守ってくれていた。
自分がこの国に認められた感じがして、身が引き締まる思いがする。
式の後、王宮の大きなバルコニーに出て民の前に姿を現すと、私とテオ様は割れんばかりの歓声に包まれた。
そしてそこへ国王夫妻が現れて国王は私の隣に、王妃殿下はテオ様の隣に立ち民に手を振ると、更に大きな歓声が沸き起こったのだった。
~・~・~・~
その後はお祝いパーティーが続き、夜遅くにベルンシュタットに戻ると、長い間お待たせしてしまった初夜を迎える事になる。
私は夜のそういう事の知識が全くなかったので、度々旦那様を困らせてしまったのだけど、緊張で何が何だか分からない私を優しく導いてくださって…………無事に結ばれる事が出来た……とホッとしたのも束の間、テオ様は朝方まで離してくれなかったのだった――――
夕方まで起き上がる事も出来ずにいた私は、エリーナに「お熱い夜でしたのね!」と冷やかされて本当に恥ずかしかった…………その事をテオ様に伝えても「また今夜も励まないとな」と言われて終ってしまう。
しばらくはベッドで離してくれないだろうなと諦めて、新婚気分を味わう事にしよう。
ようやく本当の意味で辺境伯夫人になれた私は、白い結婚を卒業し、テオ様や皆の愛を受けながら、ベルンシュタットで幸せに暮らしている。
やがて私たちに子供たちが生まれ、ここはもっともっと賑やかになるだろう――――でもそれは、まだ先のお話――――
END
【2/6完結】辺境伯様と白い結婚~敵国の王女のはずが旦那様の甘やかしが止まりません~ Tubling@書籍化作業中 @tub-novelsite
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます