第三章

第29話 妻の為に ~テオドールSide~


 ロザリーと想いが通じ合い、何気ない日常がとても幸せなものに変わった。



 ステファニーとも仲良くなったロザリーは、一緒に城下町のバルーンアート祭りに行き、そこでヒルドとも出会う。すぐに二人の関係性を見抜いたところは驚いた……後日ヒルドがロザリーに相談しに来て、ロザリーのアドバイスの通りステファニーにアプローチし、二人は想いが通じ合った事を知る。



 二人の関係が拗れてから、かなりの年月が経っていたので、友人としてもとても嬉しく感じた瞬間だった。



 ロザリーは幸運の女神のようだな――



 最初から惹かれ合っていた二人だ……このまま不幸なすれ違いで壊れてしまっては勿体ない。


 私の誕生日会の時はまだそんな雰囲気ではなかった気がするが……その辺は二人のみぞ知ると言ったところか。




 年が明けてロザリーの16歳の誕生日がついにやって来て、教会で二人だけで生涯の誓いを立てた。ロザリーの誕生石であるガーネットをあしらった指輪を贈り、永遠の愛を誓う――――あの時のロザリーも聖女のように美しかったな……


 その後からロザリーは、一生懸命に舞踏会に向けて準備を頑張っていた。



 入念に体をマッサージしたり、肌の手入れをしたり、爪や髪の手入れ…………一緒のベッドに眠っていてもいい匂いがして、耐えるのが大変だった記憶しかない。



 でも初めての夜会だし、きっとロザリーの事だから私の為に真面目に一生懸命頑張っているのだろうなと思うと、手を出してはいけない気持ちの方が大きくて、理性を保つ事が出来た。



 ダンスのレッスンを少し覗いたら、ロザリーを気遣う講師にもっとレッスンをしてほしいと言うロザリーを見て、芯が強く、負けず嫌いなのだと感じた。でもそうでなければ、あのような国で生き残る事は出来なかったのかもしれないと思うと…………複雑な気持ちだった。



 私はロザリーの為に最高級のドレスを用意した。デザインにも関わって、彼女を女神のような装いにするべく密かに着手していたのだ。




 そのドレス姿を見た時、目が眩んだ――――――私の妻はなんて美しいんだろう――――本来ならドレスなど着ていなくても十分美しいのだけど、それでも…………自分が制作に関わったドレスを着ているという事がより一層美しく思わせてくれる。



 そんな美しい妻を誰にも見せたくない衝動に駆られる。



 ロザリーに窘められ、何とか踏みとどまったが、ドレス姿というのは危険極まりないと痛感した。




 舞踏会に到着し、ホールに入ると、国中から集まった沢山の貴族たちがすでに到着していた。ロザリーは敵国の王女だった為、貴族たちの視線が一斉に彼女に集まる…………そんな視線に負けず、凛と立つ姿がまた美しくいじらしい……



 私は自分の知り合いたちに彼女を紹介して回った。私の知り合いは事情を知っているので、変な態度を取る者はいなかった。



 陛下への挨拶をする順番が回ってきた時も物怖じする事なく、自身が思っている事を述べて陛下に感謝の意を述べるロザリーを見て、とても誇らしくなった。やはり彼女は王女なのだな…………陛下も優しく微笑まれ、私はホッとしたのだった。




 一緒にダンスをして、楽しい時間を過ごした後、ロザリーが喉が渇いているようだったので飲み物を取りに行った。しかし戻ってくるとどこにもロザリーの姿が見えない……ステファニーとヒルドのところに行き、ロザリーの行方を聞くと、ステファニーと一緒にお喋りをする為にサロンに行ったのだと言う。



 ヒルドに言伝を頼んだが私が戻ってきたらしい…………そういう事なら仕方ないな。社交界では友人関係も大事だ、ステファニーとサロンでお喋りをしているうちに人が集まってくるだろう。そうしてロザリーに友人が出来ればいいな、くらいに思っていた。




 しかし、ヒルドがステファニーに会いに行き、私もロザリーの顔を見ようと後に続いていたところ、状況が一変する――――



 「テオドール!ロザリアが!!」


 「?!」



 私は急いでホールの扉から出ると、ステファニーが倒れ、遠くに男が走り去っていくのが見える。まさかあの男がロザリーを……!



 無我夢中で追いかけたが、男の姿は闇夜に消えて行った………………しばらくその近辺を探したが見当たらず、このまま探していても時間の無駄だと判断した私は舞踏会に戻り、陛下に今起こっている事態を告げる事にした。



 廊下ではヒルドがステファニーを抱き上げ、客室に連れて行こうとしていた。



 「ステファニーは大丈夫か?」


 「テオドール…………ロザリアを助ける為に戦ってくれたけど、幸い打ち身で済んでいるみたいだ……ステファニーを休ませてくるよ。すぐに手伝えなくてすまない……」


 「気にするな、ステファニーに付いていてやってくれ。きっと恐ろしかっただろうから……こちらは私が動く。私の妻に手を出した事を必ず後悔させる――」


 「……テオドールには勝てる気がしないな。何か手伝える事があったら言ってくれ」


 「ああ…………」



 ヒルドを見送ってから、陛下の元へ向かった。そして先ほどの事態を伝えると、陛下は目を見開き「今しばし、動くのは待ちなさい」と告げてきたのだ。



 「……理由をお聞かせください」


 「…………レナルドが跡を追っているだろう……」


 「……………………なぜ彼が?…………まさか彼は……」



 「隣国の不幸な王女を気にかけていたのは、何もそなただけではない、という事だ」



 私は陛下の言葉にただ驚き、立ち尽くしていた――――


 そこに小さな伝書鳩が届く。足には小さな手紙が括り付けられていて、陛下はそれを読むと私に内容を伝えてくださった。



 「………………ロザリア嬢が連れて行かれたのは、やはりリンデンバーグ国のようだ…………」



 

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