第22話 16歳の誕生日


 

 秋になって庭園の方も菜園の方も寂しくなっていく時期だけど、まだ元気に根を張っている植物もあって、レナルドと一緒に植物の手入れをするのが私の日課になっていた。



 「葉物はもう終わりね……その代わり根菜類は土の中で根付いて実をつけるから、収穫はこれからだし楽しみだわ」


 「奥様は本当に畑仕事がお好きなんですね~こんなに毎日菜園の手入れをしに来る人はなかなかいませんよ。特に貴族の令嬢ともなると、まずやらないと思います」


 「そうかしら……きっと表立って言わないだけで、やっている人もいると思うのだけど。教えたら好きになる人もいると思うわ」



 自分が好きだからそう思うのかもしれないけど……でもエリーナにも姫様が畑仕事なんてってよく言われていたような――



 「ほとんどいないと思いますよ。まず汚れるのを嫌がりますしね。私は奥様とこうやって畑仕事が出来るのは、楽しくて好きですけど」



 レナルドがそう言って笑ってくれるから、ここの居心地がとてもいいのよね。



 「ありがとう、レナルドがそう言ってくれるおかげで、私もますます庭仕事が好きになったわ!先日テオ様のお誕生日会でここの野菜を使って料理をしたの。美味しいって沢山食べてもらえて嬉しかった……」


 「………………旦那様と仲良くしていらっしゃって良かったです。一時はどうなる事かと……」



 ステファニー様の事を誤解してしまった時の事を言っているのね……



 「あの時はレナルドにも沢山心配かけてしまって、ごめんなさい。エリーナから後で聞いたの…………レナルドも心配していたって。私が二人を連れて行ってしまったが為に嫌な思いをさせてしまったわね……」


 「そんな事は気にしないでください!それにエリーナさんの怒りっぷりには負けます」


 「ふふっエリーナはいつでも私の味方でいてくれるから」


 「私はロザリア様の為なら鬼にもなれますよ~でも誤解だったので旦那様には申し訳ない事をしましたが……」



 エリーナは本当に鬼になりそうで皆で笑ってしまった。こんなに皆と打ち解けて、穏やかな日々を送れるような人生が私に待っているなんて――



 「もうすぐ年が明けたらベルンシュタットに来てから二年が経つのね…………敗戦から二年が経つという事よね。お父様たちは元気…………にやっているわよね……」



 私はもうリンデンバーグの人間ではないし、あそこに戻る気持ちもない。でも時々ふと思い出す事があるのは、やはり家族としての情なのかしら――



 もうお会いする事もないだろうし、会いたくもないけど、死んでほしいわけでもない。



 「あんな人たちの事はもう忘れた方がいいのです!ロザリア様にとって害にしかなりませんよ。ロザリア様を旦那様に嫁がせた事で、国を取り戻したようなものじゃないですか……結果的にはここに来て良かったものの、ロザリア様の事なんて道具とかその程度にしか…………」


 「エリーナさん」



 「あ…………申し訳ありません、ロザリア様……」



 「……いいのよ、エリーナ。本当の事だし、今更傷ついたりしないわ。レナルドもありがとう。私は今がとても幸せだから、ここに来て良かったって思っているし……皆に感謝しかないの。私はとても運が良かったのかもしれないわね……」



 「ロザリア様~~旦那様に出会えて本当に良かったですね!旦那様はいつもロザリア様の事を想っていますし、ロザリア様が幸せそうだと私も嬉しいです……」


 「きっと神様がご褒美をくれたんですよ。今まで頑張ってきたから」

 


 皆優しいわね…………いつかここでの生活も当たり前になって、辛かった日々を消化出来るといいな……今はまだ思い出すと胸が痛む時もある。でもこうやって幸せを積み重ねていけば――――そんな事をぼんやりと考えていた。



 

 ~・~・~・~


 

 

 無事にテオ様のお誕生日をお祝いし、年が明けると、ベルンシュタットで迎える2回目の私の誕生日がやってきた。


 その日は朝からチラチラと雪が降ってきて、とても寒かったのをよく覚えている。



 テオ様にベルンシュタットの教会に連れて行かれて、私の誕生石であるガーネットが入った美しい指輪をプレゼントされ、左手の薬指にはめてくれて……そこで改めてプロポーズをされたのだった。 



 教会には私たち二人以外、誰もいない――――



 「ロザリア…………16歳の誕生日おめでとう。私は君のように気の利いた誕生日会などをしてあげる事が出来ないけど……この指輪を君に贈って、改めて君に求婚させてほしい」


 「テオ様…………私は十分幸せです。この指輪もとっても嬉しい……」



 この指輪をする事で私がテオ様の物になったのだと、その証のように感じて、指輪にキスをした。




 「ロザリア、デボンの森で君に初めて出会ってからずっと、私の心は君にしか動かない。私の世界は常に君が中心なんだ。これからもずっと、一生私のそばにいて笑っていてほしい…………愛している、私のロザリー……」


 「テオ様……私も愛しています、ずっと」



 神聖な教会で、二人だけで誓いのキスをした――――



 私はこの日の事を生涯忘れない――



 どんなに辛い事が起きてもベルンシュタットに来てからのキラキラした思い出が、私を奮い立たせてくれるから。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る