第20話 ヒルド様の相談事


 お祭りの後、ステファニー様とブルンヒルド様はお帰りになられて、私とテオ様はお城に帰ってきた。


 

 お祭りではとても歩いたので、その晩はぐっすり眠ってしまい……目覚めたらお昼が近い時間になっていて、テオ様は…………もうお仕事に行ってしまわれたわね。



 お見送り出来なかった事を残念に思っていると、エリーナが「旦那様にはゆっくり寝かせてあげて、と言われていましたので!」と嬉しそうに言われてしまう。恥ずかしさと優しい気遣いに嬉しくなったり、朝から心臓がうるさくて幸せ――



 そんな事を考えながら遅い朝食を済ませて庭園に行こうと考えていると、エリーナがやって来て「ロザリア様に来客です」と告げるのでエントランスに向かう事にした。



 そしてそこには前日にお別れしたばかりのブルンヒルド様が優雅に立っていたのです。



 「やあ、ロザリア。突然の来訪でごめんね~テオドールはお仕事?」


 「ブルンヒルド様?こんにちは、テオドール様はお仕事に向かわれていますが……何かご用でしたか?」



 「うん…………君に相談があって来たんだ。少し時間をもらってもいい?」


 「?」



 ブルンヒルド様の様子が少しおかしい感じがして、私は相談に乗ってあげなければと応接間に案内した。



 「ロザリアはステファニーと仲が良いよね…………相談というのは彼女の事なんだ」


 「ステファニー様の事、ですか?」

 


 私はブルンヒルド様がステファニー様のお話をし始めて、ピーンときて…………これはきっと恋愛相談ね。ステファニー様との関係に悩んで私に相談をしてきてくださったのだわ。二人の恋を応援している私は、ドキドキしながらもブルンヒルド様の相談に身を乗り出した。



 


 「うん……昨日のお祭りでスカイランタンを一緒に飛ばして…………彼女の願い事がチラリと見えてしまったんだけど……」



 ステファニー様の願い事が?ステファニー様の願い事は、ブルンヒルド様と結ばれる事だと思っていたのだけど違うのかしら――



 「……………………良い相手が見つかりますようにって書いてあったんだ……」


 「え?それは本当ですか?」



 「うん……………………ステファニーが私を想ってくれているのは分かっていたんだ。でも昔にあった事件で彼女に触れる事が出来なくなって……今まで私が臆病なせいで彼女に近づけないでいたのだけど、昨日、彼女の願い事を見てショックで……もう私の事は何とも思っていないのだろうか…………」



 そんなはずはないと分かってはいるのだけど、ステファニー様のお気持ちを私が言ってはダメ、よね…………なぜ他の方との結婚を考えていらっしゃるのかしら………………



 「ブルンヒルド様とステファニー様の事はテオ様から少し伺っています。ブルンヒルド様はなぜ触れなくなってしまわれたのですか?」



 「言いにくいだろうからヒルドでいいよ。…………私にとって彼女は昔から女神のようであり、お姫様であり……とにかくそういう人だったんだ。彼女は勝気だけど繊細で、だれよりも優しくて…………自分よりも他人を優先してしまう、幼い頃からそんな人なんだよね。だから危うさもあって、私が守ってあげたいとずっと思っていた」


 「ヒルド様、よく分かります。ステファニー様は強さと美しさと儚さを全て持ち合わせた、プリンセスのような方ですよね!知り合ったばかりの私の事もとても気にかけてくださって……」



 「そうなんだよ~~君もそう思うんだね!嬉しいな…………あの時、そんな彼女が襲われていて、何としても助けたくて間に合ったんだけど、彼女の心の傷は深くて…………私ですら拒否してしまうほどに。その時は混乱していたのだと思う、その事自体はいいんだ。」


 「何がヒルド様をそんなに苦しめているのですか?」


 「…………あの時のステファニーの泣きそうな顔が頭から離れないんだ。手を振り払った事で傷ついたのは、きっと彼女の方だと思うから」


 「そうですね……好きな人を拒みたい人はいませんもの。でも恐怖から拒否してしまう自分がいる。それはとても辛い事です……」



 「…………………………」



 愛する人にはいつでも笑っていてほしい。私ならそう思ってしまうから、自分が触れる事で辛い顔をさせてしまうなら触れられなくなってしまうかもしれない――



 「ヒルド様はお優しい方です。きっとステファニー様もそんなところがお好きなのだと思います……だからこそ、ヒルド様が悩んでいる姿がステファニー様だってお嫌なのですわ」


 「だから自分から離れる事にしたって事?」



 私は返事の変わりに笑顔で頷く。



 「ヒルド様、今度はヒルド様が気持ちを伝える番だと思います。ステファニー様はいつもヒルド様に寄り添っていたと思うのです。大切な事は言葉にしないと、きちんと伝わらないものなのですわ……手遅れになる前に伝えてみてください」



 テオ様とすれ違った時の事を思い出して、胸が痛くなる。私はテオ様がちゃんと伝えてくれたから運が良かったのだと思う。



 「ロザリア~~~私よりもずっと年下なのにとってもしっかりしているね!今日は君に話せて良かったよ!」


 「ヒルド様、お役に立てて私も嬉しいです」



 ヒルド様はとても悩んでいたのか、自身のやるべき事、なすべき事が分かって嬉しそうだわ……そして私の両手を握って泣き顔をしている。


 私はお二人には想いが通じあって幸せになってくれたら嬉しいので、お話が聞けて本当に良かった。そこへ――――




 「………………ヒルド……………………私の留守中に……我が妻に何をしている?」



 執務室の入口には、鬼神の如く仁王立ちをしているテオ様がいた。



 「あ…………いや、その………………これは違うんだ………………」


 「こんなところにいる暇があったら仕事をしろ!」



 ヒルド様に怒りをぶつけた後、私を抱き上げてヒルド様から離したテオ様は、まだ怒りが収まらないでいる。


 

 「テオドールは厳しいな~~~ロザリア助けてよ~」



 私は二人のやり取りが面白くて、助けるよりも笑ってしまい……ただ見守っていたのだった。

 

 

 

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