ベタベタ

見鳥望/greed green

「遅刻遅刻ー!」


 トーストを口に加えながら猛然と私は走る。ほぼ遅刻確定だが希望はまだある。スピードを一切落とさなければギリギリ滑り込みの可能性はまだ残っている。


 ーーくそっ!


 目の前に90度の曲がり角が迫る。だがここで減速は出来ない。勢いを殺さず私はトーストを噛みしめながらぐっとカーブに切り込む。

 しかし瞬間、がつんと頭部にとてつもない衝撃を受け目の前に小さな無数の星が散らばる。


 ーーいったぁ……。


 思わず尻もちをついてしまう。頭が痛い。痛すぎる。

 いやそんな事よりまずい! これはとんでもないタイムロスだ!

 私は勢いよく立ち上がり駆け出した。ぶつかった相手はどうやら女の子だったようだが目もくれず全力で走る。おかげでなんとかギリギリ間に合った。


「やっと来たか、さあこっちだ」


 担任の吉林に何故か丁寧に引率されて教室に入る。皆の視線がこちらを向く。


 ーーあれ、何これ? 何かおかしいぞ。

 

 ってかそういえば、食べてたトーストがどこにもない。私まだ食べ終わってないんだけど。

 

「すみません遅れましたー!」


 快活な声と共に勢いよく扉が開いた。そこにいた女子と目が会う。


「はぁ?」


 驚きの低い声が自分の喉から漏れた。思わず喉仏を手でおさえる。

 目の前にいる女子が目を真ん丸にしてこちらを見る。

 彼女の手には、今朝食べたトーストがまだ握られていた。

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