【44】人形たちと旦那様を取り合う。

 そして夜。

 アベル様は眠り続けていた。

 私はベッドの傍に椅子を置いて、彼の様子を窺いながら本を読んだり、タオルを替えたり。


「熱あがってきたネ~」

「眠っててよかったよ。起きてたら、これしんどいやつだ。でもこれで熱はピークじゃないかな」


 私はタオルを絞ってアベル様の額にあてる。

 手を握るととても熱い。


「う……」


 うなされてる、大丈夫かな……。

 

「男の生足が……」


「!?」


 サメっちの夢を見てうなされてる!?


「旦那様、ひょっとして僕の夢見てる? キャッ」


 ヒレで自分の顔を隠して照れるサメっち。

 いくらサメっちが可愛いからしょうがないとはいえ……。


 ……なんだろう、この悔しさは。



「……アベル様。アプリコットがここにおりますよー。一応あなたの妻のアプリコットがここにおりますよー。夢には妻を出しましょう~」

 

 アベル様の耳元で私の夢を見るように清き一票を投じる。


「……リコ…」


 すう、と寝息が楽そうになった。

 よし。


「え、僕も旦那様に夢見られたーい! 旦那様ー! 僕だよーサメっちだよー」


 サメっちが負けじと自分を押す。


「う、うう……っ」

「あるぇー?」


「サメっち!! アベル様がうなされてるよ!! なんでサメっちの夢見たらうなされるのか、わかんないけどやめようよ!? ……ってニャン教授なにしてるの!?」


 見るとニャン教授がスッ……とベッドに入って、旦那様に添い寝しはじめた!!


「先程、アベル青年が寒い、と呟いていた。猫は人に寄り添ってベッドで眠るものだからな」


「アベル様、寒いの!? あ、ちょっと、ずるい! 私もあっためる!」


 私も負けじと、ベッドに潜り込んだ。


「う……あ……(青い顔)」


「わー旦那様、僕と顔色似てきたねー」


「少し温まり過ぎなのではないか」


「じゃあ、ニャン教授がベッドから出てって」


 私はアベル様にギュ、と抱きついた。


「断る。いま季節は初冬。温かい人間の寝床はアプリコットと言えど譲れん」


 ニャン教授が心地良さそうな糸目になって、アベル様の肩に顎をのっける。や、やめれ!


「普段はダンディーぶってるくせに、こういう時は猫としての主張が強いね!? あなた猫だけど、でも人形ですよね!?」


「にゃー」


 おい!!


「僕もいれてー」


 サメっちもアベル様の枕元に小さくなって転がる。


「ちょ、ちょっと」


 他の人形もワラワラ集まってきて僕も私もとベッドに群がる。


「やめなさい、あなたたち! わ、私のアベル様だよ!!」


 私はアベル様に抱きついたまま、思わず叫んだ。


「……え」

「あ」


 旦那様が目を開けた!!


「……今なんて」


 ボーッとした顔で質問される。


「な、何も言ってません。アベル様、喋らないでジッとしててください。安静第一です」


「(ぼ~……)……オレにとって都合のよい言葉が聞こえた気がする。ところでリコはどうして、オレに抱きついてる? どうせ、あなたのことだからロマンチックな理由ではないとは思うが」


 ロマンチック……? すみません! その通りです!!


 まさかの自分の使役する人形とアベル様を取り合いしたなどと、言えませぬ……というか、アベル様、私をどういう目で見てるんです!?


「……に、人形たちがアベル様に悪戯いたずらしようとしてたので、ま、守ってました」


「――ふむ。恐らくオレは熱を出して倒れ、ここにいると思うのだが……そうか、リコは安静第一とオレには言いながら、病人のオレで遊んでた?」


 アベル様の目がけだるげなジト目になる。


「そ、そんなつもりは!? さ、寒いとおっしゃっていたので!! あの、旦那様、お言葉が?」


 お言葉が素になってますよ!?


「まったく……」


 旦那様は、ボーッとした顔のまま、少しニコリ、と微笑み、


「……お転婆すぎる」


 そう言って、アベル様は片手で私の頬に触れ、親指で唇をなぞった。


 うっ!?


「リコ……オレは……」


「は、はい」


「……ぐー」(ぱたっ)


 ……寝た!!


 何を言おうとしたのよ!!

 気になるから、最後まで言ってよ!!




 ――その後、アベル様は顔色が良くなり、寒いとも言わなくなったので添い寝大会は終了した。


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