第5話:焦りとはすなわち欲より
発光が終わり、彼らの目に入ってきたのは青い光。昨日張った結界が破壊されずに残っている。照明スキルを起動し、辺りを見渡してみても敵の姿はない。安全に戻ってくることに成功した様だ。
「進むぞお前ら。探知入れろ。」
ミラックの号令でファルザとエーラが隠し通路への罠探知を開始する。昨日ミラックによって入口が破壊された後、塞ぐ様に設置した結界を通ろうとしたのか結界際に蛇が這った後がある。その様子を見て一層気を引き締めるファルザ。
一時間くらい幅5mほどの直線の通路を進んだだろうか。道中罠等は特に見つからず、蛇との戦闘が2度あったがミラックの炎弾とヌーレ水の刃によって沈んだ。何事もなくことが進んだと言ってもいいだろう。
そうして彼らの前に現れたのは、通路を塞ぐ巨大な扉。破城杭を阻むかのように等間隔に武骨な棘が付いたそれは、まさしく絵本の中の悪の大魔王城の最終局面といった風体だ。
「なにこれ。一応ここ、太古の人間が作った王城だか宮殿みたいな高貴な人間が住んでるところに魔物が住み着いて迷宮化した。って触れ込みじゃなかった?なんでこんなに禍々しい扉がついてるんだ?」
「大悪魔でもこの先にいるんじゃないの~?」
「いやいや…って!ちょっと待て、触るなってヌーレ。何かわからないけど罠が付いてるから、解除するまで待って。」
「りょーかーい。」
罠探知により扉や周辺を見てみるが、道中の罠の少なさに反してあちらこちらに罠が仕掛けられている。そんな中興味深々な心を抑えきれないヌーレが、迂闊に扉に触れようとしたので止める。
障害物の先も調べることができる空間探知スキルを飛ばしてみるが、罠探知よりも効果範囲が極端に少ないそれでは大空間があることしか判別できない。
「とりあえず罠の解除をしてみるよ。開けてみないことには撤退するかも判断つかないだろ。」
ひとまず周囲に危険はない。時間をかけてでも入口の罠を解除して侵入するべきだと判断して、エーラと共に扉へと罠探知を走らせる。
治癒魔法と強化魔法使いの後衛二人と、道中戦闘したミラックとヌーレは道中使用した魔力を回復する為に、扉から距離を取って壁や相方に体重を預けて瞑想に入った。物理無効結界も一時間使用すれば、それなりに消耗するので先を見越している。
それぞれアルミチャック創設からの6~7年程の経験あればこその慣れというものだろうか。必要あれば休む癖が付いている。そんな中、1年程の経験者がここにいた。
右と左にと別れて罠探知を起動し、詳しく調べようとしていたファルザとエーラの元へ、スランザが寄ってきた。
「おい雑用共、ミラックが言ってただろうが。こういう入口は破壊した方が手っ取り早いってな。」
「え?いや、あれそういう意味じゃなかったし、ミラックが瞑想入ったってことは待つつもりなんじゃ…」
昨日ミラックが語ったのは、幹から枝へと通じる隠し扉の話。扉の条件からして、罠の可能性も内容も薄いという噛みあった特定の状況でのみ行う時短行動だ。
目の前の扉は何かを守る為に強固に建造されている。罠であろう反応も、ジグザグで荒く探索しただけだが4つは見つけている。最低限解除しないとどうなるか分かったものではない。
「どけよエーラ。」
「きゃっ」
エーラの肩を引いて扉に触れたスランザ。勢い余って尻餅を付いた彼女を見て歪んだ顔をしたが、正面を向き魔力を腕に集めた。
「やめとけって。せめてミラックに確認してからにしとけよ。」
「私もやめたほうがいいと思うな…何が起こるかわからないよ…?」
「うるせえ、雑用如きが俺に指図すんな。お前は黙って俺に従ってればいいんだよ。」
心配そうな顔をしているエーラに対してもこの反応だ。魔力が集まるにつれ、口角が上がっていく。止めるべきだとファルザが寄るが、それすらも睨み付けて手を弾く。
聞く耳持たずと諦めてミラックの方を見るが、彼もこちらの異常に気付いたばかりなようだ。ミラックの肩に体重を預けてウトウトし始めていたであろうヌーレが、急に動きだした土台のせいで倒れかけていた。
「【崩爆・充填】!!!」
手をこちらにかざして口を開きかけているミラックを尻目に、スランザの右手から放たれた魔力が扉を走る。魔力がある一点に到達した時、ガチッガチチチチという動作音が鳴り響いた。
「おいスランザ!お前どういうつもりだ!」
「扉は破壊した方が早いんだろ!【|起爆(バースト)】!!!」
動作音に気付いているのかいないのか。ミラックの声掛けにも疑問は浮かべず、何を考えているのか。
結果を述べれば扉は砕け散った。扉に走った魔力の線を辿って爆破が起こり、扉の置くの大空洞が現れる。客席のない闘技場といえばわかりやすいだろうか。金属に見える壁面と、敷き詰められた土の地面。
「どうよエーラ、この俺の魔法の威力。にしても無駄にでっかい空間だな。」
「そうだね、すごいと思うよ。」
能天気にも、というべきなのか。扉の瓦礫を搔き分けてスランザは大空洞の中に足を踏み入れた。後方で未だに座り込んでいるエーラからしたら、魔法の威力よりも罠の類が発動していないかの方が心配で気が気ではない。
「スランザお前…」
ミラックは目の前の男の思考が読めず、その長髪を搔き分け、癖なのか頭皮を搔いている。数秒思案した後、諦めて周囲の確認に戻る。
大空洞の中は対面の壁は遠すぎて、天井は高すぎて。どちらも一番近い位置にいるファルザやスランザからも計り知れない。等間隔に浮かんでいる魔道灯と思わしき光源により、その空間が円形をしていることは理解できた。
さて、扉の近くにいた面々は扉の先にのみ意識を向けていたが、後方には明確な異常が発生していた。
ドドドドドドドドド、という何かの連打音が鳴り響いた。一番後ろで待機しようとしていた後衛二人が真っ先に正体に気付いた。
「足音多数!石同士がぶつかる音に聞こえるから多分|魔道傀儡(ゴーレム)!!!」
「とりあえず支援魔法掛けるけどどうするの!ミラック!」
ミラックが思考速度上昇、魔力生産上昇、重量軽減と、支援魔法を受けた証として色取りの魔力の発光をしている。一瞬、扉の残骸の前で呆けているスランザを見るが、放置して皆へと指示を出す。
「通路内で受けるぞ。エーラ、前に出ろ。ファルザ、罠探知を再開してこの罠の内容と他にも無いかを調べろ。ヌーレ!石製のゴーレム相手ならお前が主力だ!魔力増強薬を飲んでおけ!」
「はいは~い。」
指示を受けたメンバーはそれぞれ作業に取り掛かる。
エーラは背中に抱えていた盾を装備しつつ、後衛二人と位置を入れ替える。すれ違い様に支援魔法を受け取り、自分の発動型の固有スキルも起動させていく。
ファルザは破壊された扉付近の壁に手を当て、罠探知を大急ぎで走らせる。事前に把握していた罠4つの位置を探り、その先へと伸びていく自分の感覚を頼りに罠の実態を調べていく。
ヌーレは自分のアイテムボックスを開き、中から掴んで来たのは赤黒い液体の入った瓶。血を煮詰めたと言われても信じてしまいそうな容貌をしたそれを、躊躇なく飲み干した。瓶を投げ捨て、唇に残った液体を艶めかしく舐め上げる。
「ミラック、俺は…」
「ヌーレの支援に付け。ヌーレの砲撃を抜けた個体だけを撃て。」
それ以外の話はないとばかりに、寄って来たスランザを一蹴する。かくしてアルミチャックの戦闘が始まった。
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