Vtuberデビュー

「ということで、天星 夏さんの情報を公開しますね」


小瀬川 凛音は「天星 夏」という名前で活動をすることが決まった。

サイトではデビュー当日の配信まで、天星 夏という名前は明かさないらしい。


他にも妹キャラということで、リスナーのことはお兄ちゃんお姉ちゃんという風に呼ぶことが決まった。

これも記憶を失う前の小瀬川 凛音の希望だったみたいだが、俺には全く真相が理解できない。


なぜ天星 夏という名前なのか。

妹キャラである必要はあるのか。


ますます小瀬川 凛音の謎は増えるばかりだ。




勿論、本当に「記憶をなくしたVtuber」だということ。そして本人の記憶がある時の要望、また記憶を失った当人がVtuber活動を望んだからデビューすることが決まったことも伝えた。


そして他にも絵師が咲希であることや、誹謗中傷や本人の記憶喪失に関して、軽視するような発言は控えるようにも書いてもらった。




そして新しいVtuberがデビューすることをゔいのじの公式サイトにて公表した。


「さて、最初はどんな感じかな?」

公式サイトにて更新して1時間ほど経ち、SNSを検索してみると、



「え、トレンド1位!?」

#記憶をなくしたVtuber

というワードがトレンド1位になっていたのだ。


その下のトレンドにも


#ゔいのじ新人

#記憶喪失系Vtuber


など様々な天星 夏に関係する様々なワードがトレンド入りしていた。それらのワードを含んだ投稿を調べてみると、色々な評価があった。


《記憶をなくしたっていう設定?でも運営ガチっぽいよね》

《マ?本気で言ってる?新人Vとか楽しみすぎ》

《記憶をなくしたのに、Vtuberやるってどゆこと?》


このように疑問を抱いた投稿が多かった。

確かに記憶を失ったにも関わらず、Vtuberとしてデビューするのは謎すぎる。だが、当の本人がやりたいと言っているのがまた不思議だ。



取り敢えずこのことを凛音に伝えると、

「人気が出てて良いわね」と楽観的な返事が返ってきたが、「逆の考えをすると...」と前置きすると、


「記憶が戻ったらどうしよう」と少しだけ不安をあらわにした。自分が記憶喪失したことを理解し、その状況を呑み込んでいる凛音の冷静さにはつくづく感心させられる。

だが、凛音の言っていることも一理ある。元々彼女は自分のスキルでVtuberデビューしたいと思っていたのであって、今は記憶喪失要素の方が強くなってしまっている。


これは本当に記憶を無くす前の凛音の望んでいたことなのか?と疑問を抱いたが、それは記憶が戻った後に凛音に聞いてみれば良い。

今は目の前にあるVtuberという職業に全力で挑んでもらえるようサポートするだけだ。



俺は考えるのをやめた。

そして、色々な準備を始めた。


当日に話す原稿を決めたり、凛音とどの話をするのかも決めた。

前職がレンタル彼女であったことは言わないと2人で決め、それ以外のことに関しては、別途、配信内で考えようという結論に落ち着く。



そして配信当日。

住み込みで凛音のお世話をしていたが、凛音の部屋を配信用に改造し、全ての環境が整った。色々な打ち合わせを済ませ、挨拶から終わりまでの全ての構成を考えた。


ネットに「夜9時から予定通り配信を行います」と呟くと、一気に数万いいねが付き、動画の同時接続数は配信が始まる30分前にも関わらず、10万人を超えていた。


俺は見たこともない数値に怯みつつ、冷静を維持しようと必死になる。


「凛音、本当に良いんだな?」

再確認を行うと、


「これは私が決めた人生。きっと記憶が戻った後でも後悔はしないわ」

と俺の目を見て、言い切った。


俺と凛音、そして咲希と物心がつく前から一緒に過ごしてきた。高校や大学の受験のような大きな壁も3人で乗り越えてきた。

きっと凛音にとってここが人生の大きな壁なんだろう。




俺がその手助けをすることが出来るなら・・・






「わかった」

俺は決意を口にして、公開ボタンを押した。

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幼馴染に「彼女ができた」と嘘をついたのでレンタル彼女を借りたら、もう1人の幼馴染が来た。 はせ @hase_hase

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