凛音はレンタル彼女
「私ね、記憶喪失したらしいの」
「え?」
咲希はいまいち理解できていないようだ。
それは俺もそうだが、普通に成立しているし、赤の他人と抱きしめ合ったりするようなことを記憶をなくした人がするわけない。
俺もそう思うのだが、凛音は元々頭がよくて雰囲気を読むのも上手だから、人づきあいが得意なのだろう。その才能は、記憶をなくした今も健在で、彼女が気を効かせ、咲希と話しているのだ。
「今こうやって咲希さんと話しているけど、私は記憶をなくしたの。だからこの横にいる涼っていう人のこともよく分からないし、何もかも忘れっちゃったみたい」
彼女の口から驚くべき事実が何個も出てくるため、咲希は理解が追いついていない。
俺から補足を入れないと、絶対に理解できない。
そう思ったので、俺は一連の出来事を言う。
「咲希に連絡を送ってた時に、友達からメールが来て、小瀬川 凛音が倒れたっていう話をされたんだ。それで病院に駆けつけたら、記憶をなくしたみたいで・・・。幸い大きな怪我はなかったらしいから良かったけど」
俺の言葉で状況をやっと理解した咲希は
「ええ、つまり今話している凛音は、私のことを覚えていないってこと?」
「そういうことになってしまったんだ」
すると咲希は「嘘でしょ...」と小さく嘆いたが、今足掻いても記憶が戻ることは難しいということを咲希も感づいていた。だからこそ、咲希は少し冷静だった。
「凛音が倒れたって送ってくれた友達ってどんな人?」
と聞かれたため、俺は「健っていう友達だよ」と言うと、
「その健っていう人に逢わせて。その時の状況を知りたいの。もしかしたら記憶を戻す手がかりになるかもしれないし」
と言われ、俺は気づいた。
健と逢ったら、凛音がレンタル彼女だってバレる・・・。
一瞬不安がよぎったが頭をよぎったが、ここに来た目的を思い出したのだ。
それは「小瀬川 凛音とは彼女じゃなくて、レンタル彼女の関係であること」だ。いずれは話さないといけないことだし、隠してもバレてしまうような嘘だ。
俺が今小瀬川 凛音との関係について話さないと、面倒なことになる。
健と小瀬川 凛音の関係について聞かれたときにはもう最後、俺は白状しないといけないことがある。
小瀬川 凛音がレンタル彼女をやっていた理由なんて未だに想像すらつかない。なぜ彼女がそんな危ないとも言える仕事をしていたのか。
そしてVtuberという新たなステージにも挑もうとしていたのか。
その理由すら俺には理解できなかった。
だけど・・・
咲希なら何か知っているかもしれないし、わかるかもしれない。
一緒に3人で過ごしてきた仲だ。咲希ならきっと凛音の気持ちを理解してくれるはず。
よし、決めた。
3人の間で隠し事は良くない。
凛音がレンタル彼女であることを告白する!
「「あ、あの!!」」
俺と咲希の声が重なった。
「涼、先どうぞ」
「いや俺は、その大したことじゃないからさ、咲希からお願い」
「実は、凛音から」と小さい言葉で嘆いたかと思えば、咲希は思いっきり叫んだ。
「『Vtuberのママになって』って頼まれてたんだ!」
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