行方不明

凛音の行方

咲希に凛音が彼女と嘘をついた日から1週間ほど経った日のこと。

俺はそろそろ咲希に真実を伝えようと思っていた。


あれから咲希に逢って弁解しようにも、無視されるし、送ったメールも全て既読スルー。こんな状態だと咲希に弁解の余地もない。

だから凛音にも事情を説明してくれるように頼もうと考えたのだ。


《凛音、この前の件、咲希に伝えたいんだ》

そうメッセージを送る。

俺の中でもレンタル彼女を彼女として伝えてしまったことは悪いことだと思うし、咲希に誤解されるとこれからいい関係を築いていけない。

一応、咲希とも凛音とも幼馴染という古くからの関係だ。

凛音においては、凛音の家の鍵を俺が持っているくらい、親絡みでも関係がいい。そこに自分の行動だけで亀裂が入るのは嫌だった。

そして、どちらかを選ぶことに数年を費やしても、片方を取ることの出来ない魅力が2人にあるからこそ、絶対に幼馴染という関係だけは死守したいという、下心も少し混ざっていると思う。



決心をしメッセージを送ってから数日が経ったが、一切俺に返事は来ない。

既読すらつかずに、放置されたままだ。

凛音がスマホでも落としてしまったのかと思い、「小瀬川 泉」と書かれたレンタル彼女用のアカウントにもメールを送っておく。


すると

「え?」

すぐに既読になったのだ。

不思議に思い、凛音に《スマホ見てよ》と送る。

しかし、既読になったまま返信が返ってこない。



「もしかしたら、レンタル彼女の事務所が見ただけなのかも」

たぶん、そうだ。

レンタル彼女のスマホは事務所が管理しているはずだ。メイド喫茶とかになると、熱心な客は、自分とのやり取りのためだけのスマホを購入してあげるというレベルまでする人がいるらしいが、レンタル彼女はそういうプライバシーに踏み入るような行為を禁止しているため、凛音に近づこうと考える男性を防いでくれている。

そういう面ではいい仕事なのかもしれないな。


ただ、今はそんなことはどうでもいいのだ。

凛音と何故か連絡がつかなくなってから、もう3日も経っている。

流石に心配になり、俺は凛音の安全を確かめるべきだと考えた。




普通だったら「スマホが壊れただけ」と勝手に自分を納得させるが、この事実の裏には何かが隠されている。

俺の本能がそう判断した。

だから大学の講義の終わりに、凛音の家に寄ってみることにした。


久しぶりに実家の方まで戻ってみたが、相変わらずの風景だった。

昔3人で遊んだ公園も、あの時の遊具はほとんど変えられているし、かつてペンキが塗られていた遊具も色が剥げている。


数年経つだけでこんなにも変わるものなのか・・・考え深いな

と考えつつ、俺は凛音の家に向かう。


俺たちが公園でよく遊んでいたのには大人の事情が関わっている。

凛音の両親は小さい頃に離婚したのだ。


「お母さんが荷物をまとめて出ていってしまった!」と泣いて公園に来たことを未だに覚えている。

凛音のお父さんはいい人で、よく俺とも遊んでくれた。凛音の母は美しい人だったということは覚えているが、凛音とは正反対の理不尽な性格をしていた記憶がある。

そして俺の家も凛音の父と仲が良かった。そのため、離婚にも全面的に賛成したらしく、よく俺の家に凛音がご飯を食べに来たこともあった。


だからこそ俺は凛音のお父さんに懐いていたのだ。

今も凛音とお父さんとは関係がある。ただ貿易関係の会社に勤めているらしく、世界各国を飛び回っている。



そんなことを考えていたが、今は凛音の無事を確認することが最優先だ。

昔から仲がよかった幼馴染が倒れているかもしれない。

そんな不安が頭をよぎり、家に向かう足を早める。


凛音の家に着き、持っている合鍵で鍵を解除する。

そこには...





誰もいなかった。


凛音の履いている靴も玄関には置いてなかったため、今は外出中なのかもしれない。


本当は入ってはいけないであろう凛音の家に上がらせてもらった。怒られたら謝ればいいだけで、もしものことを考えた結果だ。


すると、そこには衝撃の光景が広がっていた。



凛音が毎日めくっているカレンダーが3日前から止まっている。このカレンダーは俺がプレゼントしたカレンダーで「毎日めくるのがルーティンなの」と言っていた。


冷蔵庫の中には3日前の朝作ったのだろう、ラップがかけられたサラダが置いてある。

近くからは、生ゴミが数日間捨てられていないからか、嫌な匂いがする。


水が与えられていない庭のミニトマトや、脱ぎっぱなしのパジャマ。


この部屋と、このカレンダーが、3日前から凛音が家に帰っていないことを物語っている。



凛音の身に何かあったのかもしれない。

本能が危険なサイレンを鳴らす。


俺は凛音の行方を探すことにした。

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