修羅場

咲希から《そろそろ着く》と連絡が来てから5分ほど経った。

俺の心の準備は出来ていたが、いざ咲希が来るとなると怖いものがある。


凛音と彼女になった経緯、どういうところに惚れたのか、そして凛音とどこまでの関係までいったのか。


事細かに設定をしておかないと面倒なことになる。

もしも凛音の演技がバレてしまったらもう最後、レンタル彼女の話をしなければならない。


それだけは、凛音の目標を邪魔したくないという理由から避けなければいけないだろう。そのためにも凛音とどうにか話を合わせないといけない。


他の人から見たらただのラブラブカップルだが、その真相は、今からくる幼馴染に、もう一人の幼馴染が彼女であるという嘘をつかないといけないのだ。


こんなにも辛いことがあるのか...。

俺は頭を抱えていたが、そもそもこの問題を引き起こしたのは俺自身だし、凛音にだって迷惑をかけている。

凛音は全力で俺の彼女を演じてくれているのだ。


その笑顔は愛に満ち溢れた笑顔ではなく、偽りの笑顔だ。


それでも、咲希から見たら俺たちはカップル。



これで少しは俺のことを見直してくれるはず...。

そして機会があったら嘘だったと伝えればいいのだ。それくらい咲希だって許してくれるよ、きっと。



そう楽観的な考えを自分に押し付け、咲希が来るまでただ、耐え忍ぶ。

しばらくすると、


《今、駅についた。お昼時で注文殺到するから、私の分も頼んでおいていいよ》

と来た。


「咲希は駅に着いたって」

「そう!楽しみだね!」


店員さんにふんわりワッフルと、飲み物を注文し、入り口に目を向ける。

すると、



咲希だ。


高校の時は「可愛い」という言葉が似合う女子だったが、少し大人になって「奇麗」という顔や姿、性格までが美しい。


少しお酒を飲むと本音を吐くようになるが、それは許容範囲。彼女の美しさは大学生になった今でも健在だ。

少し俯いた様子で、悲しげな表情を浮かべているが、顔を上げ店の中を覗くような仕草をしたと思えば、俺の存在に気づいたらしい。


咲希は驚きが隠せない様子だった。

目を細め、俺の隣にいる女性を凝視すると、ショートボブでスタイル抜群の女性が俺の隣に座っているのが見えたのか、開いた口が塞がらない様子だった。


外からだと、ちょうど凛音の顔が見えないので、咲希は少し力強くカフェの扉を開いた。きっとどんな人か一刻も早く見てみたいという一心だろう。


店員さんに案内され、咲希が席に通される。

少し駆け足気味でこちらへ向かってくる咲希が見ることになる俺の彼女は小瀬川 凛音。

俺と、咲希の幼馴染だ。




すまん、咲希。今日ばかりは俺の嘘を許してくれ。



咲希が席に着いたとき、俺の隣を見て、目を大きく見開いた。




「え、涼の彼女って凛音?」

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