第2話 少し世話になるか

 湯場から出ると、さっきの尼僧が待っていた。

 広い部屋に案内される。


「ザエン殿、さぁ、こちらへ」

 戦場で名乗ったホルンの手招きで、その席に座る。

「今日はザエン殿のおかげて、引き分けにできた。感謝する」

 上席にいた男が言った。

「たまたま居合わせただけですよ」

「いいや、貴殿の加勢がなかったら、我が軍は負けていた。これは失礼、私はコルムといいます」


 それから、こちら側はソルラン国で、侵攻軍はユンド国とか。

 ユンド国王は領土拡張主義で、我が国と停戦協定を結んでくれない。

 兵力も格段の差があるという。

 最初から負け戦を強いられ、停戦を願っての防衛だったとか。

「ザエン殿、暫く助力をお願いできないだろうか」

 とコルム中尉は頭を下げに来た。

「いいですよ、暫くお世話になります」

「本当か、感謝する」


 目の前の食事を頂き、部屋に案内された。

 相手側から素性を聞かれることはなかった。



 翌日、ホルン少尉に案内され、作戦室に入る。

「ザエン殿、加勢感謝します」

 コルム中尉が述べた。

 地図を広げて、戦況を聞く。

 文字も読める不思議さ。

 作戦の話を聞いて、ユンド軍の情勢を知った。


「単独で砦に潜入し、攪乱したいと存じますが」

「ザエン殿、危険ではないのか」

「もし攪乱が成功したなら、戦場のユンド軍は後退する筈です」

「危険な任務、本当に申し訳ない」

「いいですよ。それから剣と短刀を拝借したいです」

 武器が用意できると、ザエンは作戦室から出た。 

 なかには行動を疑う輩もいたが、コルムが一喝した。

 砦の出口まで、ホルン少尉は見送った。


 あゆみは近場にあるという農村で、強制的に古びた荷馬車を調達し、迂回路させて砦へ向う。

 途中、衣服を泥で汚し、武器を服に隠す。

 砦の正門は戦場に向かう兵士の列が途切れることがない。

 反対側の門からなんなく入れた。

 あゆみは道端で物乞いを演じたが、誰もが無視した。  

 やっと兵士が出て行った。

 いつもの平穏が戻ったらしい。

 あゆみは居場所を移動した。

 一角に軍事施設らしく、塀で囲っている。

 警護門は二カ所。それぞれ門番が二人づつ。

 あゆみの身なりが汚いらしいので、どいつもこいつも見下げた目つきをして、通り過ぎていく。

 裏通りを歩き、人気がないことを確認すると、火を熾してワラに火をつけた。

 板に燃え移ると、あちこちに木を放り込んだ。

 後は放火しまくるだけ。

 あちこちに火の手が上がり、混乱から大混乱になった。

 これほどよく燃えるもんだなとあゆみは感心する。


 軍事施設の塀にも火を熾した。

 面白いほどによく燃える。

 この世界の住宅は燃える木材を使用しているのか。


 門番に隙を見せた。

 あゆみは剣を抜いて、二人の兵士を斬り伏せる。

 それから、燃える板きれをあちこちに、放り投げるだけ。

 兵士も消火に夢中で、襲われる感覚がないようだ。

 何という無用心の危機管理なさ。

 面白いほど、兵士を蹂躙できる。

 骨のある兵士が斬りつけてくるが、燃える木を放り投げると怯む。

 その隙に、相手の首が落ちた。

 ドバーッと血吹雪が起き、あゆみの凶悪な感覚を呼び起こす。

 動く者を斬る、刺す、叩くと次から次へと、相手を倒していく。

 

 水飲み場で、桶で全身を被り、剣を洗った。

 全地域に火が回ったようだ。

 あゆみは群衆に紛れて砦をでた。

 

 小高い丘で待機していると、

 案の定、戦場から、砦へ向かう数人を確認する。

 一人は乗馬、後は歩兵らしい。

 あゆみはジャンプして、乗馬の兵士を斬り落とす。

 後は歩兵5人を切り倒すだけ。

 乗馬した騎士から剣を、兵士から弓具一式を奪う。

 乗馬経験がなかったが、乗馬して、手綱を引いた方向に動き、腹を叩くと動くと分かった。

 前世、こんなに運動力も対応力も適用力もあったかなと不思議に思う。


 迂回し、ユンド国軍陣地に接近する。

 指揮官らしき者と副官らしき者を確認すると、矢でそれぞれを射った。

 二人とも首筋に命中。

 急いで、その場を後にして、ソルラン国陣地を目指す。


 すでに戦場は、ユンド軍の浮き足が目立つ。

 後方の砦方面から、煙が上がっているのを確認できる。

 太鼓が鳴って、ユンド軍は撤退を開始した。

 ソルラン軍もラッパを鳴らして、追撃を中止した。


 あゆみは陣地に着いた。

「ザエン殿、本当に感謝いたします」

 コルム中尉が迎えた。

「戦場で3ヶ月間いましたが、これで帝都に帰れます」

 ホルン少尉は明るい表情を。 

「成功して、よかったです。このまま砦へ進軍しないのですか」

「国王より、あくまでも現状維持との命令があります」

 コルムは言いつらそうだったので、突っ込みはやめた。


 あゆみは乗馬で砦に着く。

 昨日と同様に尼僧らしき者に湯場へ案内された。

 衣服を着替え、会場に案内された。


「ザエン殿、本当に感謝しかない。兵士の死傷者数も少なく済んだ。本当にお礼しようがない」

「ただ運がよかっただけですよ。これを、借りた剣と短刀です」

「ソルラン国に仕官する気はありませんか」

 コルム中尉は聞いた。

「各国を回ってみたいなことを考えています」

「そうですか。本当に残念です。本来なら国王からお言葉をお願いしたい所ですが、これは些細な褒章です。受け取って欲しい」

 兵士から皮袋を渡される。

「遠慮なく、頂きます」

 暫く、雑談したが、あゆみは相づちをうつ程度に留まった。







 

 

 





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