第2話 ハニースウィート ビタートラップ
一週間が経った。
探偵帳簿のチェックマークはまだ一つも増えていない。
飛ケ谷以外の客の返済計画も考えながら、俺はどこまでも広い校舎をゆっくりと歩く。
俺と幸良が通っているここ
特徴としては、県下での学校偏差値はトップクラスでありながら部活動にも力を入れており、全国各地から優秀な生徒を見つけては破格の条件でスカウトして学園に入学させていることが挙げられる。
文武両道を地で行く校風のためか特待生制度も充実していて、俺も選出されている学業特待生なんかは授業料や寮費が免除されるほか、学食さえも無料で飲み食いできるという神のようなシステムが適応されている。
敷地内にある建物は大きく分けて四つ。生徒が普段勉強をする一般棟、理科室や調理室などが並ぶ特別棟、謎部も置かれてある部室棟、そしてバカでかい体育館。
一般棟はなんと七階まで存在し、三階までには中等部の教室や職員室や図書館が置かれ、それより上には高等部の教室や視聴覚室などが置かれている。もちろんどのフロアにもエレベーターが通っている。
一般棟と特別棟は三階にある渡り廊下で繋がっており、学園を俯瞰して見るとアルファベットのHのような形状をしている。そこから少し外れたところに部室棟と体育館が置かれている形だ。
俺が生活拠点を置いている寮は学園からほど近い駅のすぐ傍に建てられている。そのため学園までの通学時間は徒歩五分にも満たない。
マンモス校であるが故に当然すべての規模は尋常ではなく、部活動だけに限っても、野球部には専用野球場、テニス部には全天候型対応のテニスコートが三面、バスケ部には専用体育館が二つも貸し与えられている。
旗雲高校は、文字通り規格外の中高一貫校なのだ。
そんな学園の高等部一年生であり、学年に男女一人ずつしかいない学業特待生に選出されながら、非公式部活動『謎部』の部長も務める俺こと
俺が現在いる場所は一般棟一階、つまり中等部一年生の教室が置かれているフロアだ。
どうして高等部生の俺がこんな場所にいるのかというと、今年から旗雲学園の中学一年生となった妹の
旗雲学園は給食制度を導入していない。そのため学園の生徒は昼食を摂る際には学食を使うか購買部で買うか弁当を持参するかの三択から選ぶことになる。俺は特待生制度を利用しているので普段は学食だが、幸良は一般生なので節約のためにいつも弁当を持参している。
ところが今日の幸良はそれを忘れてしまったらしく、保護者から俺のもとへ弁当が届けられた。なぜ俺のもとに弁当が届けられたのかは単純で、中等部では午前中に避難訓練が実施されていたせいで直接弁当を渡すことができなかったからだ。
要はいろいろな不運が重なった結果、俺がこんな目に遭っているというわけ。
しかし俺は妹のために働くのを苦としない。むしろ、自ら進んで社畜になりにいくレベルのファミコンである。
したがって、俺がこの状況に辟易している理由は、ひとえに周囲からの目線が痛いからだった。
痛い。というか冷たい。
それも尋常じゃないほどに。
まるで親の敵でも見つけたかのような苛烈さだ。男子生徒も女子生徒も分け隔てなく、俺に鋭い視線をびしばしと投げつけてくる。
彼らの気持ちはわからんでもない。高等部の制服を着た男子が中等部に来ればいやでも目立つし、その男の手に可愛らしいネコが描かれた謎の包みがあれば周囲から浮いてしまうのも頷ける。
持っているのはただの弁当箱なのだが、端から見れば怪しくも映るだろう。どうやら最近隣町で通り魔強盗も多発しているようだし、見た目不審者の余所者を忌避しようとする心理が働くのも無理はない。
ただ――。
「ねえ、あの人ってもしかして……」
「ああ、例のアレだぜたぶん……」
こうもあからさまに避けられるのは想定外だ。ぶっちゃけ過去最高レベルに居心地が悪すぎる。まるで針の筵。
怜悧な目線だけでなく、ひそひそと俺の存在を憚るようにして繰り広げられる秘密の会話も耳障りだ。時折ちらっと聞こえてくる会話内容も明らかに友好的ではない。
例のアレってなんだよ。俺の存在が「名前を言ってはいけない例のあの人」みたいになってんじゃねぇか……。
どうして彼らが俺をここまで敵対視しているのかは不明だ。俺は外部受験をしていないエスカレーター組なので去年、というか二か月前まで中等部に在籍していた。だが、その時にはこんな排他的な空気はなかった。
この二か月足らずで何が起きたというのだろう……。
俺はただ困惑することしかできない。幸良の居場所を訊こうとしても逃げられるし、かといって自分で探せば至るところで邪魔者扱いされる。どうしろっていうんだよ。
埒が明かない状態が延々と続く。昼休みも残り少なくなってきた。
もう校内放送で幸良を呼び出したほうが早いんじゃないかと考えなおし、俺が踵を返そうとしたそのとき、廊下の角から天使が飛び出してきた。
「あれ? お兄ちゃんじゃん」
間違えた。いや、正確には間違えてないんだけど、とにかく、飛び出してきたのは麗しの幸良だった。
「タッタラ~! こんなところでどったの?」
きょとんと小首を傾げるその様はまさに上級天使といったところで、この世の物とは一線を画す存在感を放っている。
俺を取り巻く異様な空気もなんのその。ヘッチャラな様子でとことこ俺に近寄ると、抱き着かんばかりの距離で顔を覗き込んできた。
うん。世界一可愛い。
おかげで居心地の悪さが吹き飛んだ。救いの天使に感謝をしながら俺は手元の包みを差し出す。
「弁当忘れたって聞いてな。ほれ」
「えっ、届けに来てくれたの? ありがと! 園まで遠かったんじゃない?」
「いや、学校まで届けてくれたのは
「そっか。じゃあ帰ったら育美お姉ちゃんにお礼を言わないとね」
「ああ。俺も来週には園に行くからそれも伝えといてくれ」
育美さんというのは俺たちの姉のような人だ。幸良はいま彼女と暮らしている。かくいう俺も去年まで一緒に住んでいたのだが、高校進学を機に今年から寮生活を始めていた。園と寮の距離は電車で五駅ほど離れており学校帰りに行くには遠すぎる。だから幸良に伝言を頼んだというわけだ。
幸良は元気よく手を挙げて応えた。
「ういー。タッタラ~だよ!」
うん。銀河系一可愛い。
ただ、さっきから言ってる意味不明な言葉が少し引っかかった。
「その『タッタラ~』ってやつは何? 暗号?」
それとも、テレビ番組でドッキリをばらすときによく使われるあの効果音だろうか?
幸良はふっふっふとわざとらしく笑う。
「これはねお兄ちゃん。昨日私が作った魔法のマジックワードなの。これさえあれば世界中の挨拶は必要なくなるっていう優れもので、すでに一部の界隈じゃあバンバン飛び交ってるんだから。特にお気に入りなのが私の苗字を――」
そこまで聞いて俺は理解した。
「ああ。幸良がよくやってるいつもの造語か」
「ちがうの! これは魔法の言葉なの! 魔法のマジックワードなの!」
図星を指されて恥ずかしくなったのか、幸良はぷにぷにの頬をぷくーっと膨らませて不満を露にする。ついでに俺の胸もぽかぽか殴った。
ところがまったく痛くない。むしろ気持ちの良いマッサージみたくなっている。や~、こんなサービスされちゃあお金を払わないとなぁ。お兄ちゃん、千円あげちゃう。
とまあこのように、幸良には昔からオリジナルの言葉を作ってはそれを流行らせようとするクセがある。何てことはない一人遊びのようなものだ。タッタラ~はその新作らしい。
これは中二病患者が独自の世界観を作ってはそこでしか通用しない専門用語をさも世界の常識かのように語りだすあの現象とよく似ている。てか、魔法のマジックって意味かぶっちゃってるからね?
そういうところもアホ可愛い。やっぱり三千円あげちゃう!
「って、もうこんな時間か。早くしないと昼休みが終わるな」
スマホで時間を確認すると昼休み終了まで十分を切っていた。まだ俺も昼食べていないのに。
注文して料理が出てくるまでの時間を考えると学食を利用する時間はなさそうだ。しかたがない。特待生特権は使えないが今日は購買部でなにか買うとしよう。
そう算段をつけていると、幸良がずいっと体を寄せてきた。
「ね、お兄ちゃんもお昼まだなんでしょ。一緒に食べよ?」
う~ん、宇宙一可愛い。一万円あげちゃう!
「だったら購買部に行ってメシを買うからちょっと付き合ってくれ。幸良の飲み物も買わなくちゃいけないしな」
うちの学園はいろいろと規格外だが、購買部の品揃えが豊富すぎるせいで逆に自動販売機のラインナップは絶望的に少なく、ペットボトルの緑茶が数種類と缶コーヒーくらいしか売られていない。そのため幸良がいつも飲んでいる紙パックのイチゴ牛乳を買うには購買部に行くしかない。
「うん。ありがとお兄ちゃん」
にこぱっ! と華やぐ幸良の笑顔が咲き誇る。それだけで俺を取り巻いていた生徒たちの負のオーラは雲散霧消し、代わりに薔薇園のごとき高貴さが中等部を包み込んだ。
誰か早くこの子を人間国宝に指定してくれ。なんなら世界遺産でもいい。
「よし、じゃあ行くか」
俺は幸良を連れ立って歩く。
旗雲学園の購買部は一般棟と特別棟を繋ぐ渡り廊下の真下にあり、ここから歩いてすぐの場所だ。中庭のようになっているそのスペースには大きめの平屋が設営され、そこの売店でおにぎりやらパンやらジュースやらが売られている。
向かう途中、俺は中等部に漂っていた謎の緊迫感のことを幸良に訊いてみた。
すると、なぜか幸良は棒読みでこう言った。
「え~、そんなことがあったんだ。みんなひど~い。でも、気にしないでねお兄ちゃん。お兄ちゃんは幸良のことだけ気にしてればいいんだから」
「そ、そうか」
なぜだろう。一瞬、幸良の瞳が怪しく光ったような気がする……。
まさかあの冷たい空気の出所って……いや、そんなはずはない。
俺はそれ以上の追及をやめて、半歩ほど幸良より先に購買部へ急いだ。
× × ×
購買部に着くと、そこにはまだ数名の生徒が列をつくって並んでいた。生徒の総数が総数なだけにこの時間帯でも混んでいるらしい。
うちの学校の購買部は品揃えが抜群で、食べ物の種類はぜんぶで五十を超える。
なかでも生徒からの人気が高い商品は、一日で百個は売れるという濃厚クリームパンだ。その人気っぷりは凄まじく、学校のない休日にも食べたいという理由で売店の土日営業を求める嘆願書が大量に集まったほど。無論、その要望はあえなく却下された。
俺は幸良に近くのベンチで待っているように伝えた後、人気のクリームパンが残っていないか探してみた。けれどやはり売り切れていたため、仕方なく適当な総菜パンを見繕うと二人分の飲み物を手に取ってレジへ向かう。
そこで、見知った横顔が列に並んでいることに気づいた。
「よお、飛ケ谷じゃ…………なんだその量」
「うぇ⁉ あ、明日見くん⁉ や、その、これは……」
声をかけられたことで俺の存在を認識した飛ケ谷はビクゥっと飛び上がるように全身を震わせる。次いで、顔を真っ赤に染め上げると体ごとそっぽを向いてしまった。
しかし、それでも飛ケ谷の両腕に抱えられた溢れんばかりのおにぎりやパンたちが顔を覗かせており、彼女がそれらを隠そうとした意味はまるでなかった。
俺は軽い戦慄を覚えながら問う。
「飛ケ谷お前……それまさか全部食べ――」
「ちっ! ちがうっ! こ、これはみんなの……そう! みんなのだから! みんなの分も入ってるから! だ、だからちがうのっ!」
何がちがうのだろう。みんなとは誰だろう。どうしてそこまで恥ずかしがっているのだろう。そんな疑問が頭をよぎる。
けれど俺がそれを口にすることはない。わずかに持ち合わせていた良心が咎めたからだ。
とかく、女性に年齢と恋人と体重の話題を持ち出すものではない。ついこの前、俺はそれを身をもって学んでいた。教訓は生かすためにある。
触らぬ神に祟りなし。触らぬ
俺はなるべく飛ケ谷が抱えた〝山〟を視界に入れないよう注意しつつ遠回しに尋ねた。
「教室の外で会うのはあれ以来だな。どうだ、最近の彼女の様子は」
飛ケ谷は小さくサムズアップする。
「ばっちし。もう完全にオケオッケーだよ!」
だから、それどっちかでいいだろ……。
オケオッケーとタッタラ~。飛ケ谷と幸良になにかしらの共通点を感じながら、俺はぼんやりと先日の一件を振り返る。
あの一件の後、彼女は体調不良という理由で二日ほど学校を休んでいた。そこにどんな事情があったのかは俺も飛ケ谷も知らない。
ただ、三日後学校に復帰した小栗さんはいたって元気そうで、それは彼女の友人の飛ケ谷から見ても同じ評価だった。復帰後、小栗さんは飛ケ谷を疑ったことを詫び、お礼に勉強会まで開いてくれたらしい。
彼女がすぐに学校へ復帰できたのは、きっと黒崎先生があれこれ策を巡らせてくれたからだろう。
黒崎先生は学校側に彼女の違反行為を報告せず、ごく内密に彼女に罰を下した。罰の内容は反省文二十枚提出だったと俺は飛ケ谷から聞いている。その反省文も黒崎先生は読み終えるとすぐに破棄したらしく、つくづく先生の生徒に対する配慮が行き届いていた。
これで本当の本当に、事件は終わった。それまでの経過はどうであれ、結果だけ見れば黒崎先生は生徒ひとりの学園生活を守ったのだ。
途中なんてどうでもいい。俺も飛ケ谷も、それだけで満足だった。
まあ、依頼料の二千円については飛ケ谷はまだ恨んでいるようだが。
と、俺が過去に思いを馳せている隙にレジ待ちの列は進み、いよいよ飛ケ谷の番がきた。
「おっと」
無駄話に花を咲かさせてしまった。こうしちゃいられない。俺も早く並ばなければ。
そう思い、俺は列に並ぶべく飛ケ谷から離れる。
「なにしてるの?」
ところが彼女はレジ台に商品を置くと、俺の手を掴んで引きとめるのだった。
「明日見くんも早くお会計してもらいなよ。……あっ、でも支払いは別々だかんね!」
飛ケ谷は冗談めかしてにひひっと可愛く笑う。白い八重歯がちらちら見える。
が、今の俺に彼女と一緒になって笑う余裕はなかった。いや手ぇ繋いでますやん……。
ナチュラルにイケメンムーヴを披露され、俺の思考回路は盛大にバグる。
「ちょ、おまえ……!」
「あ~はいはい。いいから早くしてよね後がつかえてるんだから」
俺がトリップしている間も飛ケ谷は手を放さず、残りの手で俺から総菜パンを奪い取るとレジのおばちゃんに渡してしまう。しまいに飛ケ谷は「ほら。お財布出して」と制服のポケットに手まで突っ込んできやがった。これで誰が冷静でいられようものか。
ああ。俺より先に並んでいた人ごめんなさいぃ……。追い越しするつもりはなかったんですけどぉ……。
頭の回路がバグったせいでそんな感想しか浮かんでこない。……はあ、もういいや。俺はされるがままに身を投げ出す。易きに流れるのは俺の得意技なのだ。
そして一分後。俺の手には昼食と二人分の飲み物が入ったレジ袋がいつの間にか提げられていた。
まるで時が飛ばされたかのような気さえする。こいつ、やっぱりスタンド使いだろ。
「あ~、おいし」
「はぁ……」
俺は肩をがっくし落とす。対して飛ケ谷は買ったばかりの緑茶を開け、がばっと勢いよく呷る。気持ちのいい飲みっぷりだった。
俺も彼女に倣い、炭酸水をぷしゅっと開けて一気に飲む。喉は痛いがこの刺激がたまらない。ごくごくと胃に流し込んでいく。
ボトルの半分ほどを飲み、ぷはぁと息を吐く。手はもう繋がれていない。炭酸水の爽快感も相まって俺の思考も平常に戻っていた。
さて、相も変わらず飛ケ谷に振り回されてしまったが、これでやっと平静を取り戻せた。幸良を待たせていることだし退散させてもらおう。
「じゃあな」
そう言って踵を返す。
「あれ? 一緒に食べないの?」
そして再び手を掴まれた。もうやめてよぉ……。
「い、妹を待たせてるんだ。早くいかないと」
努めて冷静を装う。飛ケ谷に動揺を悟られるのはなんとなく悔しい。
が、俺の返事をろくに聞いていない飛ケ谷は手を放すことなく話を続けた。
「へえ、明日見くん妹いたんだ。どんな子なの?」
「……どんな子だと?」
これがトリガーとなった。この質問を機に、動揺してばかりだった俺の意識はがらりと変わる。
ほう。ファミコンの俺にそれを訊くか。いいだろう。答えてやる。
「多元宇宙一だ」
「多元宇宙……? なにそれ? ってか、なにが?」
「すべてが」
「すべて……?」
「そう、すべてだ」
「そっかぁ、すべてかぁ……」
飛ケ谷は腑に落ちないながらも俺の勢いに押されたせいか、口元を引き攣らせただけでそれ以上の言葉は飲み込んだ。けれど瞳は雄弁で、ドン引きしていることがありありと伝わってきた。
ふん。まあいい。往々にして愛は理解されにくいものだ。これから徐々に幸良の魅力を飛ケ谷にわからせてやろう。
「だいたい飛ケ谷だって実はもう会ってるぞ。この前部室に来たとき中等部の制服を着た女子がいただろ。あれが俺の妹の幸良だ」
「ああ! あの子! めちゃくちゃ可愛い子じゃん! 言われてみれば、どことなく明日見くんに似てたかも」
と、飛ケ谷は無邪気にはしゃぐ。俺は苦笑いで応えた。
「――そうか。似るはずはないんだけどな」
「え? それってどういう……?」
飛ケ谷の頭に疑問符が浮かぶ。
さてどう説明したもんか……と、俺が空いている左手を顎にやったとき、件の本人が元気よく飛び込んできた。
「もーお兄ちゃんおっそ~い。待ちくたびれて呼びに来ちゃった…………だれその女」
しかし元気だったのは最初だけで、飛ケ谷を認識するや否や幸良の声は格段に低くなり、まん丸な目からは一切のハイライトが消えた。
「お、おお。待たせて悪かったな」
俺は飛ケ谷の手を振り切るようにして払う。その際、飛ケ谷から恨みがましい目で見られたがそんなことに意識を割く余裕はない。
幸良にあらぬ勘違いをされていないか。それだけが気がかりだった。
というのも、その、なんというか、幸良はほんのちょっぴりだけ、愛情のベクトルが普通から外れているのだ。
「あれぇ、おかしいなぁ。高等部にはまだ噂が届いてないのかなぁ……」
何やらぶつぶつと独り言を呟きつつ、幸良はいつになく真剣な表情で俺に詰め寄る。
「だれなの、その女。お兄ちゃんにそんな知り合いなんていなかったよね」
おかしいな 妹なのに ちょっと怖い。(明日見恢、心の一句)
「や、ほら、前に部室でちょろっと会っただろ。依頼人だよ。それにクラスメートでもあるからタッタラ~してたんだ」
「手、つないでたけど」
タッタラ~は無視ですかそうですか。
「それは……あれだ、レジ袋を渡された姿がそう見えただけだ。繋いでなんかない」
それっぽい嘘で誤魔化す。幸良がなぜ兄の交友関係を把握しているのかは少し気になったものの、俺も幸良の知人友人関係を一度すべて洗った経験があるので指摘するのはやめておいた。ちかぢか二回目の調査も予定してるしな。
「ふうん。クラスメート、ねぇ」
幸良は疑わしげに飛ケ谷をちらと見る。
すると目が合ったようで飛ケ谷はぱっと表情を明るくした。
「はじめまして。あたしの名前は飛ケ谷春風。よろしくね!」
「はあ、どうも……」
と、適当にあしらって幸良はジト目で飛ケ谷を舐めまわすように見る。そして流れるような動作で俺と飛ケ谷の間に割って入ると両腕を横に大きく伸ばした。まるでレッサーパンダの威嚇ポーズた。
幸良は露骨に飛ケ谷を敵視している。が、持ち前の能天気さで何事もポジティブに捉えてしまう飛ケ谷にはまったく効き目がないようで、
「なに? ハグしたいの?」
などと、明後日の方向に解釈されてしまった。どう見てもそうじゃねえだろ……。
「したくありません。あと馴れ馴れしくしないでください。お兄ちゃんにも」
幸良は唇を尖らせる。
「あはっ。かわいい~。ヤキモチ焼いてるんだ。ねえ、お名前は何ていうの? 何年生? よかったら私たちと一緒に食べようよ」
「いやです食べません。それに『たち』ってなんですか『たち』って。私はお兄ちゃんと二人で食べるんです。あなたは教室の端っことかで独りで食べてください」
「あははっ。明日見くんでもあるまいし一人じゃ食べないよ~。先輩に囲まれて食べるのが恥ずかしいなら、あたしと二人っきりでもいいからさ」
おい。ナチュラルに俺をはぶるな。あと、前半の罵倒は別に要らなかっただろ。
俺はよっぽどそう反論してやりたかったが、幸良の棘の矛先がこちらに向くのも避けたかったので静観を貫く。
対して幸良はじろりと下から飛ケ谷を睨みつけた後、ぷいっとそっぽを向いた。
「……ふんっ」
どうやら俺同様に幸良も飛ケ谷とは相性が悪いらしい。というより、飛ケ谷と波長が合う人間のほうが少ないんじゃないかとさえ思う。人生ハードモードかよこいつ。
幸良はぐぬぬと険しい表情で何事かを考える。次いで、小さく頷いたかと思うと、たたたっと俊敏な動きで俺たちから距離を取った。
「もういい、今日は一人で食べる! お兄ちゃんも一人でたべてよね! でなきゃタッタラ~しちゃうんだから!」
そうして謎の捨て台詞を残しつつ、幸良は校舎の廊下に消えていくのだった。
タッタラ~するってなんだろう……。それ、ただの挨拶でしかない魔法のマジックワードだったんじゃないのかよ。明らかに今の文脈だと不穏な意味しか含まれてないだろ。
我が妹ながらその言動にはまだ未知数な部分が多い。乙女心は理解不能だ。
それでも幸良を怒らせてしまったことだけはわかったので、明日プリンでも買ってやって機嫌を直してもらおう。
ところで、ここにも理解不能な乙女心の持ち主がいるようで、
「またね~妹ちゃ~ん! ……あーあ、行っちゃった。あんなに恥ずかしがんなくったっていいのにね。照れ屋さんなのかな?」
と、的外れすぎる勘違いを連発していた。
「飛ケ谷って人生楽しそうだよな」
俺は皮肉まじりにぼやく。案の定、光の化身たる飛ケ谷には効かなかった。
「そお? じゃあ明日見くんにも楽しさを分けてあげるね」
「はあ? なに訳のわからんこ――」
俺が最後まで言い終わるより早く、飛ケ谷は両手の人差し指をピンと立てて俺の頬を押し上げた。俺の頬はぐにぃっと曲がり引き攣った笑みを浮かべる。
かたや、至近距離にある飛ケ谷の笑顔は百点満点。
「ほら、楽しくなったでしょ。やっぱどんなときも笑顔が最強だよね!」
……ほんと、そういうところだぞお前。
元気の押し売り。愛嬌による殴打。顔面偏差値の暴力。
こんなの、どうしたって太刀打ちできるわけがない。
ゆえに俺は逃げに徹する。これは敗走ではない。戦略的撤退だ。否、転進である。
「やめてくれ。また妹に見られると困る」
「あっ。そうそうそれそれ」
俺からすっかり興味が移ったようで、飛ケ谷は幸良が消えていった方を指さした。
「何もわからなかったんだけど、結局あの子って何年生? 歳は?」
「中学一年になったばかりだな。四月に誕生日を迎えたから歳は十三だ」
「うっわ十三とか! 若っ! 犯罪じゃん!」
なにオッサンみたいなこと言ってんだこいつ……。
「俺も飛ケ谷もまだ十五、六だろ。そんな変わんねぇよ」
「いやいや変わるって! ぜんっぜん印象ちがうよ! だってあたしたち四捨五入したらもう二十歳だよ! 半分すでに大人みたいなもんじゃん!」
「脳みそ幼稚園児みたいな純粋さのくせに何言ってやがる」
お前が大人なのは体だけ……いや、やめておこう。それを意識したら俺は子どもに戻れなくなるかもしれない。
それに、次の飛ケ谷の質問には、さしもの俺もふざけている場合ではなかった。
「妹ちゃんの名前は何ていうの?」
「――ああ、紹介してなかったか。……
「へえ~幸良ちゃんっていうんだ。素敵な名前だ………えっ? 多々良? 『明日見』じゃなくて?」
まあ、当然そうなるよな。
俺もこの手の反応が来ることは予想していた。すぐに答えを返す。
「義理の妹なんだ。ま、いろいろ察してくれると助かる」
「あ……うん。わかった……」
刹那、しんと張りつめた空気が場に満ちた。これまで幾度となく経験した、慣れることのない緊張感だった。
飛ケ谷の気持ちが痛いほどわかる。これはとてもセンシティブな問題だ。当事者の俺でさえ、心の整理をつけられたのはごく最近のことである。
けれど、その緊張も一瞬のうちに吹き飛ばしてしまう豪快な太陽がそこにはあった。
「や、じゃなくて! オケオッケーだよ! 安心してこの春風様に任せなさい!」
場を支配した冷たい空気を暖めるように、飛ケ谷は精いっぱい笑う。レジ袋から商品がこぼれることも厭わずに、大仰に腕組みをしては高笑いまで披露してみせた。
たったそれだけのことで、俺がどれほど救われたか。
この想いは、似たようなカミングアウトをしたことがある者にしか理解できない。
だから俺は同様の経験をした仲間たちと同じように、湿っぽい雰囲気からはほど遠いセリフを吐くのだった。
「飛ケ谷って、自分の敬称に『様』をつけるタイプなんだな」
あと、幸良が言ってた噂ってなに?
× × ×
翌日、放課後、謎部の部室にて。
俺はほくほく顔で探偵帳簿にチェックマークを付けていた。
今日の謎部は盛況そのものだった。
初めに、俺が中学生の頃に解決した事件の未払い金を回収して五千円の儲け。
次に、新たに謎部を訪れた先輩から受け取った謎解き依頼料で二千円の追加。
最後に、ついさっきここに来た飛ケ谷から渡された五百円をプラス。
しめて七千五百円也。上出来の数字だ。
「くくっ、くくくっ……」
おかげでついつい笑みがこぼれてしまう。こんな姿、誰かに見られでもしたらドン引きされるに違いない。
「うっわぁ……」
それ見たことか。飛ケ谷の俺を見る目がどんどん汚らしい下衆を見るものになっていくじゃないか。俺の推理は間違っていなかった。くくくっ……。
飛ケ谷から軽蔑されているにも関わらず、気分がノっている俺はその事実に倒錯した快楽さえ感じて喉奥で笑いをかみ殺す。
飛ケ谷はなおも汚物を見るかのような目つきでそっと探偵帳簿を覗き込んた。
「そのノートってどんなことが書かれてあるの?」
俺は企業秘密かつ個人情報の塊でもある帳簿を飛ケ谷から遠ざける。
「依頼人のフルネームと依頼料、それに支払い方法だな。たまに雑費の細かい内訳とかも記載してる」
例えば飛ケ谷の場合だと『ヒガヤハルカゼ 二千 4』という表記になっている。これは「依頼人のヒガヤハルカゼが二千円分の依頼をし、四回払いを選択した」という意味だ。
そして実際の支払い回数に応じてチェックマークを増やしていき、それが既定の回数に達すれば完済したことがわかる。ちなみに現在飛ケ谷にはマークが二個つけられている。したがって、残り千円を支払えば飛ケ谷は晴れて取り立てから解放されるというわけだ。
飛ケ谷はうんうんと相槌を打つ。
「ふうん。雑費って具体的にはどんなの? それにメニュー表にある〝肉体労働〟って?」
「あ~っと、まず肉体労働ってのは基本的に尾行とか張り込みのことだ。ごく稀に脱走したペット探しを手伝ってほしいって依頼もあるけどな。雑費ってのは、そのときに俺が使った費用のことだ。尾行なんかしてると電車移動する場合もあってな。うちはそういうのも依頼主が負担するシステムになってる」
「うへぇ、そういうのも考えてメニュー表つくってるんだ……。やっぱり明日見くんってあれだね。お金の亡者だね」
お前も大概だと思うけどな。
「別にいいだろ。依頼人だって了承した上で謎部に来てるんだし、料金も法外ってわけじゃない。親からもらえる小遣いで十分に払える額だ」
「そりゃそうだけど……でも、あたしはボランティア精神も大切だって思うけどなぁ。助け合いっていうか思いやりっていうか……他人のために無償で働くのって、とっても素敵だと思わない?」
「まあ、俺にだってそういう気持ちがないわけじゃない。謎部には奉仕の一面もあるからな。でも、他人のために働く動機としては俺には金儲けのほうが性に合ってる」
依頼人は料金を支払うことで請負人と対等以上の立場になれる。ホテルなりレストランなりサービス業とは往々にしてそういうものだ。金のつながりがあるからこそ、誰もが気兼ねなくサービスを享受できる。
謎部だってそうだ。依頼人と請負人という事務的な関係において、金のつながりという最も細く脆い関係性を構築することが俺には適していた。
無論、純粋にお金を稼ぎたかったという欲望があることは否定できない。
旗雲学園は学生の労働を校則で禁じている。無断アルバイトが発覚すれば停学処分だ。特待生資格も剥奪されるため、俺はこうでもしなければ金を稼ぐことができなかった。
そういう主義と状況がマッチしたからこそ謎部は有料なのだ。
そう説明すると、飛ケ谷は気まずそうにちらちらと上目遣いで俺を見た。
「明日見くんがお金を稼ぎたいのって、昨日のことが関係してるの?」
昨日……というと、購買部での一件だろう。俺と幸良の苗字が別々っていうアレだ。
俺は小さく頷いた。
「直接関係はないけど、まあ、遠因は同じだな」
「そっか……なら、あたしが明日見くんに何を言っても悪者にしかなれないね」
飛ケ谷は寂しそうな瞳で遠くを見つめる。きゅっと手を固く握り、どうにもならない現実を憂う。
昨日に続き、何とも言えない重たい雰囲気が謎部に去来しようとしたそのとき。
唐突に〝それ〟は来た。
「失礼しゃああああああっっす‼」
どんな静寂もぶち壊す、圧倒的な爆音。
いかなる平穏もぶち破る、圧巻の轟音。
ばたばたと騒音をまき散らし、部室のドアをバアンっと力の限り開け放った〝それ〟は、両腕を腰の後ろに回すと全身で声を張り上げた。
「押忍ッ! 自分ッ、中等部三年の
静寂から一転、部室が喧騒に飲み込まれる。あまりのギャップに耳鳴りさえ起きる。
「……うるさっ」
思わずシンプルな感想が漏れた。飛ケ谷も飛ケ谷で自分の耳を抑えながら「これまたずいぶん元気の良い子だねぇ」とびっくりしている。
一方で、望まれぬ来訪者は中等部のセーラー服姿には似合わない身のこなしでぐわばっと頭を下げた。
「自分ッ! ここには弟子入り志願で来ましたッ! どうか何卒よろしくお願いしゃああああああっっす‼」
あーうるさいうるさい。その、男子運動部がよく言ってる「しゃああああ」って伸ばすやつ俺嫌いなんだよな。今すぐやめてほしい。
俺は半目で目の前の少女を見る。
たしか……天清純白とか言ったか。
つり目によく似合うくりんとした大きな瞳が愛らしく、くせ毛なのかピョンピョン跳ねているアホ毛が印象的な女の子。身長はやや小柄ながらも活発なため実際よりも大きく見える。ほどよく日焼けした活発系美少女なのでスポーツドリンクのⅭⅯに出ていてもなんら不思議ではない。
おそらく、天清純白を一言で表すとすれば百人が百人「元気すぎて逆にウザい女の子」と答えるにちがいない。彼女はそういうタイプだった。
「あれ? 先輩? なにか言ってくださいよ先輩! せんぱーい!」
う~ん……でも、なんだろうこの、幸良とも飛ケ谷とも違う超然的な活力は……。
周囲に元気を分け与えるというよりかは、周囲から元気を奪い取って自分のパワーに変えてしまう力強さを天清は持っている。あの飛ケ谷でさえ天清の前では大人しく感じるほどに。
「とりあえず次大声出したら強制退場だ。問答無用で叩きだしてやる」
俺は身内以外には甘くない。やると言ったらやる男。それが明日見恢だ。
すると、天清は意外にもしょんぼりと項垂れて口を真一文字に結んだ。
「あ……はいっす。さーせんっした」
あれ? この後輩、意外と聞き分けがいいな……。
一気にテンションを落とした天清に俺は肩透かしをくらう。てっきりこいつも飛ケ谷のような頭お花畑系女子だと思っていたのだが。
「ふむ……」
どうもこの後輩、時代遅れのガチ体育会系っぽい言動だし、もしかしたら先輩の言うことは何でも素直に聞いてしまうタチなのかもしれない。
そう分析した俺は天清に二、三の命令を下す。
「天清、ちょっとジャンプしてみろ」
「え? あ、はいっす」
ぴょんぴょんぴょん。天清は従順にその場で跳ねる。
「……次はスクワットだ。十回でいい」
「うぃっす。任せてください」
いーち、にーい、さーん。天清は真面目に数を数えながら行う。
「…………これで最後だ。飛ケ谷にキスしろ」
「えー? チューっすか? まあ先輩がそう言うんなら……」
一歩、二歩、三歩。天清はどんどん飛ケ谷に近づいていく。
そしてあわや――と言ったところで、飛ケ谷がビュンっと飛び跳ねた。
「ちょ、ちょちょちょ~~っと待って⁉ 何してんの二人とも⁉ こんなことであたしのファーストを奪わないでよ!」
あまりの急展開に脳みそが焼ききれていた飛ケ谷は寸前で意識を覚醒させ、凄まじい速度で後ずさる。部室の隅までいくとようやくその動きを止めた。
「すまんすまん。冗談だ。天清がどこまで素直なのか気になってな」
「素直っていうか最早ロボット並みだよ! 天清ちゃんも嫌なら嫌って言わないと!」
「ンな大げさな~。ちょろっと口と口をくっつけるだけじゃないっすか~」
たははー、と何てことないように言って天清は破顔する。
や、俺が言うのもなんだが倫理観どうなってんだお前……。
「大事だよ純白ちゃん! 乙女的に一大イベントだよそれ!」
「ふうん、そうなんすかー」
飛ケ谷は顔を赤くしてそう主張するも、天清はまともに取り合わない。双方の乙女心がねじれにねじれて錯綜していた。
なるほど。これはあれだな。この凸凹コンビに任せていたら話が進まないパターンだ。
数回のやりとりでそう悟った俺はパンと手を叩き、意識と会話の主導権をこちらに手繰り寄せる。金にもならん面倒ごとは御免だ。
「で、天清は何の用でここに来たんだよ。弟子入りとかなんとか言ってたけど」
その言葉に、我が意を得たとばかりに天清が表情をぱあっと明るくする。
「あっ! それっす! 自分は謎部に入りたくて――」
「声」
「……すいません」
声のボリュームを注意され、天清は再びしゅんと項垂れる。それは父性というか兄性というか庇護欲をくすぐる落ち込みようだった。
この気持ちはあれだ。躾が完了する前の子犬を世話している気分によく似ている。
そう思うと、どことなく天清がポメラニアンっぽく見えてきた。よし。この新種をポメスガと名付けよう!
ポメスガは意識して声量を小さく小さく絞り、謎部を訪れた理由を話してくれた。
その要点はこうだ。
一週間ほど前、天清はテレビで探偵もののドラマが再放送されているのを知る。暇だった彼女は何の気なしにテレビを点けてそのドラマを視聴し、見事ドはまりした。
画面の向こうの「探偵」という存在に憧れた天清は自分でも事件を解決したいと考え、身近にそういう謎が転がっていないかを探した。けれどそんな都合の良い展開があるはずもなく、平凡な一週間が過ぎていった。
そんな折、天清は中等部でとある噂を聞いたらしい。
「明日見っていう男子の先輩が生徒たちから依頼を受けては謎を解いて回ってるって聞いたんす。でも依頼料は法外だっていうからクラスのみんなは気味悪がってたんすけど、自分は居ても立ってもいられなくって」
「だからここに来たんだね」
うんうん、となぜか俺ではなく飛ケ谷が相づちを打つ。そういえば、こいつ何でまだ部室にいるんだろう。もう金も払い終わったんだし早く帰ればいいのに。
天清はきょきょろと興味深そうに部室を見渡す。
「ここ、噂で聞いてたのより全然綺麗っすね。明日見先輩も想像より優しくって安心したっす。噂では全校生徒の秘密を保管した金庫があるとも聞いてましたけど、そんなのも見当たりませんし」
「どんな噂が流れてんだよ……」
どうやら謎部の活動を誤解した何者かが中等部に悪い噂を垂れ流しているらしい。だから幸良の弁当を届けに行ったとき俺はあんなに警戒されたのか。
まったく失礼な輩である。うちにあるのは秘密の金庫ではなく極秘の探偵帳簿だ。あとヘソクリ。
「ちなみに誰が噂を流してるの?」
天清はふるふると首を横に振った。
「名前まではわかんないっす。ただ、タッタラ~とかいう謎の呪文を唱える中一の女子ってことは判明してるっす」
「タッタラ~という謎の呪文を唱える女子、か」
う~む……謎だな。
まったくもって正体がわからない。果たしていったいどんな美少女なんだろう。
「や、それってどう考えても幸良ちゃんなんじゃ……」
などと飛ケ谷がアホなことを宣う。ハハハハハ。そんなわけあるか今すぐ出直してこい。てか、なんでお前まだいんの?
飛ケ谷はいつ帰るんだろうと俺が思案していると、天清は再びがばあっと頭を下げた。
「っつーわけで、自分を先輩の弟子にしてほしいっす! おなしゃす!」
あーでたでた。その、男子運動部がよく言ってる「お願いします」を縮めたやつ。俺それ嫌いなんだよな。今すぐやめてほしい。
じゃなくて。
「うちは謎解きが専門なんだよ。事件の依頼じゃないんならお断りだ。さ、帰った帰った」
俺は弟子なんて欲しくないし、依頼がない暇な日はここで勉強をしているのだ。そこに天清なんて騒がしい存在がいたら五秒だって集中できない。
それに、真っ黒に近いグレーな部活にこれほど純粋な後輩を入部させるのはあまりにもあんまりだ。よっておかえり願おう。
それでも天清は食い下がる。
「そこを何とかお願いしまっす! 自分、何でもやりますから!」
お前がそれ言ったら洒落になんねぇんだよ。
「何でもやるなら帰ってくれ。そして二度とここに来るな。あと、天清は先輩の言うことにもう少し反発した方がいい」
「わかったっす! なら反発して先輩が自分を認めてくれるまでここから動きません!」
なんで「帰れ」の部分だけ聞き分けが悪いんだよ……。
それに先輩の言うことを聞かずに反発しろっていう先輩の言うことを真に受けて本当に反発したら結局先輩の言うことを聞いてることになるから実際は先輩に反発したことにはならないけど実際は反発してるわけだからややこしいってああもうめんどくせぇ!
「とにかく俺はお前なぞ認めん! 謎部は慈善事業じゃないんだ! 探偵がやりたいんならどっかで勝手にやってろ!」
「わかったっす! なら勝手にここで先輩と一緒に謎部をやっていくっす! この部、非正式だから自分がいたって構わないわけっすもんね!」
こいつ……!
立て板に水。暖簾に腕押し。糠に釘。そういう言葉がぴったりな俺たちの応酬は目も当てられない。両者ともが真逆の位置から力いっぱい押し合うものだから空間が圧縮され、部室の温度がどんどん上がっていく。
拮抗状態はしばらく続き、いよいよ双方の血管がぶちぎれそうになった頃。
不意に、飛ケ谷が事態を収束させる妙案を出した。
「じゃあこういうのはどう? 謎部に持ち寄られた謎を純白ちゃんが無事に解くことができたら入部を認めて、解けなかったらアウトっていうのは」
決着のつかない議論を続けていた俺と天清はその案にたちまち賛成した。
「ほう。いい案だな」
「おお! めっちゃいいじゃないっすかそれ! えーっと……」
「あたしは高一の飛ケ谷春風。ここの部員じゃないんだけど明日見くんとは友達なの。よろしくね」
「よろしくおなしゃす飛ケ谷先輩! 自分は天清純白っす!」
「声」
「あ……さーせん明日見先輩……」
どさくさに紛れて抑えていた声量を開放した天清に注意すると、先ほどとは違い今回は素直に言うことを聞いてくれた。
ふむ。俺にもだんだんと天清の扱い方がわかってきた。よし。言うことを聞く天清はポメスガだから、反抗する天清はポメスガキと名付けよう!
そんなくだらない思考を隅へと追いやり、俺はんんっと喉を鳴らす。
「これで大体お互いの素性は知れたな。じゃあ、本題の謎は俺が語ってやろう」
「明日見くんが? 依頼人が来るのを待つんじゃないの?」
「そんなほいほい都合よく謎が舞い込んでくるかよ。天清には俺が前に解いた謎の真相を推理してもらう。それが当たったら俺ももう文句は言わん。それでいいな」
「うっす。望むところっす」
天清は両手を口にあてて大声が出ないように返事をした。良い心がけだ。俺はそういう純真さは嫌いじゃない。
入部させるのは絶対に嫌だけどな。
× × ×
「これは俺が中三の春、つまり今の天清と同じくらいのときに解決した謎だ」
俺は先ほど淹れたばかりのお茶飲みつつ事件を語る。
座席位置は俺の正面に天清、左斜め前に飛ケ谷といったかたちだ。
「依頼人は当時高校二年生だった吹奏楽部の女子。名前は忘れたから仮にA子としよう。そのA子が謎部に持ち込んだのは、当時の吹奏楽部部長を務めていた三年男子B太の行動に関する謎を推理してほしいというものだった」
「依頼人の吹部女子A子さんと、吹部部長のB太くんが登場人物なんすね」
天清はメモ帳にさらさらと情報をまとめていく。意外とマメな性格らしい。
「ある金曜日、A子は音楽室に忘れ物をしたことに気づいた。それほど大切な物ではなかったので次の月曜日に取りに行ってもよかったが、A子は何故かその忘れ物のことが無性に気になり、翌日に音楽室を訪れた」
俺は過去に思いを馳せながら続ける。
「その日は吹奏楽部の練習が休みだったのでA子は音楽室の鍵を取りに職員室へ行った。しかし、鍵は既に借りられていた。それを不思議に思いつつA子が音楽室に行くと、なぜか扉は開かなかった」
「むう、前に来てた人と入れ違いになったのかな?」
飛ケ谷は唇に指をあてて考える。本当にいつまでここにいるのだろう。
いや、今は事件が先だ。
「A子も飛ケ谷と同じように考え、もう一度職員室に向かおうとした。ところが踵を返したそのとき、音楽室の中からはB太が顔を出した。何故いるのかとA子に尋ねられたB太は自主練習をしに来たと答えたそうだ」
「おっ、なんか嘘っぽいっすね。本当に練習をしに来ただけなら鍵なんてかけなくてもいいはずっす。こりゃキナ臭いっすね」
なかなか鋭い観察眼だ。伊達に探偵を目指しているわけではないらしい。
「A子もそう考えた。それは扉に鍵がかかっていたこともそうだが、音楽室の窓が開いていたことも怪しく思われたからだ」
「なんで? 窓くらい開けてても別によくない?」
「それがダメなんだ。というのも、吹奏楽部では演奏をする際には周囲への配慮のために窓を閉める決まりになっていたからだ。それなのに音楽室の窓は開いている。だからA子は練習をしに来たというB太の言葉を嘘じゃないかと怪しんだってわけだ」
「筋は通ってるっすね。ますますB太が怪しいっす」
メモメモ、と天清はペンを走らせる。話の理解も早いし優秀だ。もしも天清が俺の人生史上最もうるさい人間でなければ、俺は彼女の入部を快く認めていたかもしれない。
「A子が音楽室に入るとほんのり甘い匂いが香ってきた。辺りを見渡すと、並べられた机のうちの一つに香料つきのデオドラントスプレーが置かれていた。この匂いはスプレーのものだろうと当たりを付けたA子だったが、その机には、彼女が目を疑うほどの驚くべき代物も置かれていた」
天清のアホ毛がぴくりと揺れる。
「驚くべき代物っすか! イイっすね! ナイフとかもしくは盗撮写真とかっすかね。 自分、こういうドキドキする事件を解きたかったんす!」
天清はきらきらと目を輝かせる。けれどその期待には応えられそうにない。
「いや、一本の缶コーヒーだ。ちなみにプルタブは開いている」
「へ? 缶コーヒー……っすか? それが驚くべき代物?」
予想をはるかに下回る事実に天清はわかりやすく落胆する。なんとも自分の感情に素直な奴だ。
しかし、落胆するのはまだ早い。この事件の醍醐味はここからだ。
「A子が驚いたのには理由がある。それはB太がコーヒーアレルギーだからだ」
「コーヒーアレルギー? そんなのがあるの?」
飛ケ谷の質問に天清が答える。
「あんまし有名じゃないっすけど実際にあるアレルギーっす。症状としてはコーヒーを飲んだら湿疹が出たり肌が痒くなったりするらしいっす」
天清はそこで話を区切る。大きな瞳が不敵に歪む。
「へえ。A子さんが驚いたワケはそういうことだったんすね。コーヒーアレルギーの人がコーヒーを持ってるんすから、そりゃ驚くのも当たり前っす。ボクサーが試合中に相手を蹴るくらいの驚きっす」
その例えはよくわからないけれども。
「気になったA子はB太に尋ねた。『それ部長のですか?』ってな。B太は微妙な顔で頷いたらしい。あまり他人には見られたくなかったようだ。缶コーヒー自体はうちの購買部でも自販機でも売ってる普通のやつだったんだがな。それで余計に気になったA子が事情を尋ねるも、B太はそれ以降は碌に取り合ってくれなかった。なくなくA子は追及することを止め、忘れ物を見つけるとそのまま家に帰った」
「そして後日謎部に依頼を持ってきたんだね」
俺は返事の代わりに湯呑を呷る。
「これで事件の説明は終わりだ。謎を解くために必要なピースはすべて提示してた。もちろん天清を入部させないために話を改ざんしたり嘘をついたりもしていない。正真正銘、実際に俺が謎を解いたときとまったく同じ情報だ」
まるで天清に挑戦状を叩きつけるかのように俺は両手を広げて見せる。言葉にはせずとも「さあ、解けるものなら解いてみろ」と嘲笑うくらいには上から目線だった。
「鍵の閉められた部屋、甘い匂い、缶コーヒー……」
独り言をつぶやきながら考えをまとめる天清。その横では飛ケ谷がのほほんとした表情でお茶を啜る。
「不思議っちゃあ不思議だけど、なんかすごくシンプルな事件だね。これって要は『コーヒーアレルギーの人がどうしてコーヒーを持っていたのか』ってことを考えればいいんでしょ?」
「そうだな。事件の肝もそこにあるし、その理由さえ推測できれば後はとんとん拍子に推理が組み上がっていくはずだ」
そう言うと、飛ケ谷は含みのある面持ちで顎に手をやった。
「ふうん……あたしにも解けるかなぁ」
俺はにわかに顔を顰める。
「まさか飛ケ谷も入部希望なのか……?」
それは本気で勘弁してほしい。ともすれば飛ケ谷は天清よりも入部してほしくない人材ナンバーワンなのだ。
「な、なによ。あたしじゃダメだっていうの」
飛ケ谷はぷんすかと唇を尖らせる。俺の反応が気に食わないようだ。
「や。ダメっていうか嫌っていうか絶対ムリっていうか、まあそんな感じだ」
「どんどん酷くなってるじゃん! なんか明日見くんってあたしにだけ厳しすぎない⁉」
「そんなことはない。俺は身内以外の全人類に厳しいからな。っつーか、飛ケ谷はいつまでここにいんだよ。早く帰って勉強しろ。そんなだから数学のテストで赤点なんか取っちまうんだよ」
「やっぱ厳しいし! それにどうしてあたしの点数も知ってんの⁉ こわっ! 探偵こわっ! もうほとんどストーカーじゃん!」
「席が隣だから偶然見えたんだよ。人をストーカー呼ばわりすんじゃねぇ」
心外すぎる評価に俺が不服を訴えたそのとき――。
「わかった! それっす! きっとそういうことだったんすよ!」
天清のアホ毛がぴょこんと上に伸びた。どういう仕組みなんだ、それ?
「何がわかったんだよ」
俺があまり期待せずに尋ねると、天清はにやにやとイタズラっ子のように笑った。
「先輩方がイチャイチャしてるのを見てピーンときたっす。おそらく音楽室にはA子さんとB太くん以外にもう一人、ずばりC美さんとでも呼ぶべき女子がいたんすよ!」
天清は正解を確信したかのようにぐっと拳を握り高く上へ突き出す。格ゲーの技にありそうなポーズだった。それと、俺たちは別にイチャイチャしていない。
しっかし、第三の人物C美かぁ……。
ヒントを与えてもつまらない。俺はなるべく毒にも薬にもならない反応を返す。
「音楽室にA子とB太以外の誰かが居たって推測はまあ良しとして、何でそれが女子だってわかるんだ?」
天清は自信満々に口の端を曲げる。
「ま、それはおいおいわかることなんでまずは音楽室に鍵がかけられていた理由から解説していくっす。何事も順番通りが一番っす」
天清はパラパラと自前のメモ帳をめくる。そして目的のページを見つけ、ペン先でとんとんと用紙を小突いた。
「自分がさっき言った通り、B太くんが音楽室の扉に鍵をかけていたことは超怪しいっす。彼が本当に練習をしに音楽室を訪れていたんなら鍵をかける必要はないっすからね。つまりB太くんは練習ではなく『他人には見られたくないこと』を音楽室でやってたんす」
扉に鍵をかけて誰も入れないようにし、かつ、不意の来訪者であるA子には嘘までついて誤魔化そうとしている。B太が何かを隠そうとしたことは確定的だ。
「じゃあ『他人には見られたくないこと』ってのは何なのか。それは次の疑問点から推測していけるっす」
「ほえ~なになに?」
飛ケ谷が興味津々に尋ねる。探偵気分を余すことなく味わう天清は嬉々として語った。
「甘い匂いっす。明日見先輩はそれをさもデオドラントスプレーの匂いだと決めつけたような表現をしてましたけど、自分にはそれが引っかかったっす。これは自分を間違った方向へ進ませるための先輩の罠だって」
俺は苦笑する。
「案外ひねくれた見方をするんだな。俺は嘘なんかついてないし話も盛ってないって前置きしただろう」
「でもミスリードを誘ってないとは言ってなかったっす。自分を入部させたくない明日見先輩なら、それくらいの罠を仕掛けてきてもおかしくはないっす」
「これはまた随分と俺に対する信用が薄いこって」
まあ、たしかにあの言い回しは天清を引っ掛けようとしたが故のものなので、その信用の薄さは正しすぎるくらい正しいんだけれども。
「甘い匂いがスプレーのものじゃないとすると、まず考えられるのはB太くんが人目を気にしてオシャレのために香水をつけていた可能性っす。でも、そう考えるよりも、もっと自然な可能性が考えられたっす」
天清はそこで数秒の間を置き、ここからが重要な局面だと言外に告げた。
「この謎の匂いは何なのか。その正体は、机の上にあった缶コーヒーが教えてくれました」
「缶コーヒー?」
天清は自問するかのように周りに問いかける。
「コーヒーアレルギーの人がコーヒー持っているとき、そこにはどんな理由があるか?」
それに対する彼女の答えは至極単純で、だからこそいかにも正解のように思われた。
「ずばりコーヒーは本人の物ではなく、第三者の所有物だった」
「あ……」
飛ケ谷にも天清の考えがわかったようだ。音楽室には別の第三者がいて、コーヒーはその人物の持ち物だった。そう考えれば音楽室に缶コーヒーが置かれていたことは何ら不思議ではない。むしろ、それ以外ほかに推理しようがないとさえ感じられる。
だというのに飛ケ谷の表情は煮え切らない。何かがおかしいとは思いつつも、うまく表現できないもやもやを抱えた表情だった。
それに気づかずに天清は推理を続ける。
「三人目がいたと仮定すれば、甘い匂いの正体はB太くんのものではなく、第三の人物がつけていた香水だってことが容易に想像できるっす。じゃあその人物は何者なのかって話なんすけど、これはもう状況的にB太くんの彼女であるC美さんしか考えられないっす。さらに言えば、C美さんは旗雲学園の教師である可能性が極めて高い」
「うぇっ⁉ なんでっ⁉」
飛ケ谷がその場で飛び跳ねて驚く。俺には天清の思考プロセスが手に取るようにわかった。
「二人きりでいる様をB太が隠そうとしたからだろ。学生同士のカップルなんて全く珍しくないが、生徒と教師の関係なら世間にバレちゃまずいからな」
それに香水の件もある。その二つの情報からB太の恋人を想像すれば、俺だって学生よりも大人の女性をイメージするだろう。
「その通りっす。A子さんが音楽室に来たときにC美さんがどこに隠れてたのかまではわかんないっすけど、まあ、ピアノの下とかカーテンの裏とかなんかその辺に隠れてたんだと思うっす。それに、もしかしたらA子さんが来るよりも前にC美さんだけが帰ってたかもしれないっすからね」
ここまで言って天清の推理は終わった。彼女は勝ち誇った顔で俺をじろじろと見る。
「さあどうっすか明日見先輩。いや、明日見パイセン! これが自分の実力っす!」
天清はちんまりした体で大きく仰け反り、無い胸をこれでもかと張って己の力を誇示する。ものすごく小動物っぽい。
「ああ~そうだなぁ……」
俺は返答に迷う。正直、天清がここまでやれるとは思っていなかった。
これはかなり予想外だ。純粋無垢が服を着て歩いているような天清が、まさかこれほど頭の切れる奴だったとは。
俺が仕掛けたミスリードに気づくだけではなく、そこから推理を広げてみせる対応力もある。事件の要点をすぐに察知できる観察眼も申し分ない。逐一メモを取る気真面目さも探偵をしていくには役立つ性分だろう。天清の探偵適正は極めて高い。
それだけに、今のは惜しい推理だった。
「――たぶん、ちがうと思う」
意外にも、天清の推理を否定したのは飛ケ谷だった。
「ええ⁉ なんで飛ケ谷先輩はそう思うんすか⁉」
天清は信じられないといった感じで驚愕する。謎部部員の俺ではなく、一般生徒の飛ケ谷に否定されたことがよほど驚きなのだろう。
「う~ん、なんでと言われるとなぁ……」
けれど飛ケ谷は明確な答えを持っているわけではないようで、しきりに首を捻ってはむむむと唸り声をあげた。
「ほ、ほらっ。やっぱし自分の推理で正解なんすよ! そうっすよね明日見パイセン!」
天清が縋るように俺を見やるなか、俺は「先輩」と「パイセン」の違いを気にしつつ飛ケ谷に同意した。
「いいや、天清の推理は間違ってる。というより踏み込みが足りない。お前はその〝先〟を考えるべきだった」
「ふ、踏み込み? どういうことっすか?」
むぅ、一応はヒントのつもりだったが天清はピンとこないらしい。
仕方ない。ここからは俺の出番だ。
俺は天清だけでなく、飛ケ谷のもやもやも解消できる魔法の質問を投げかけた。
「二人とも――いま恋人はいるか?」
それはいたって真剣な質問だった。
「……えっ?」
「……はい?」
けれど、その魔法の質問に女子二人はぴたりと体の動きを止めた。続けざまに彼女たちは仲良く顔を見合わせ、ワケがわからないといった表情を浮かべる。
最終的に、飛ケ谷の顔だけが怒りに燃えた。
「……明日見くん」
ぐつぐつと煮立つ業火の如き瞳とは裏腹に、飛ケ谷の声は凍えるほど冷たい。その支離滅裂さが空恐ろしく、俺は地震と台風が一気に己の身に降りかかったような気さえした。
要するに、俺は心の底から飛ケ谷が怖かった。
「ひゃ、ひゃい!」
思わず声が裏返る。いや、声どころか天地がひっくり返ったのかもしれない。
盛大に焦り散らかす俺に構わず、飛ケ谷は汚物を見るような目で俺を蔑んだ。
「それ、今の時代じゃ立派なセクハラだから」
「は、はい。いや、あの……ほんとすみません……」
俺はぺこぺこと平謝りをする。なんなら土下座も辞さない覚悟だった。
ただ、これだけは信じてほしい。俺は二人にセクハラをするつもりで恋人の有無を尋ねたのではなく、謎を解く一助になればという極めて紳士的な配慮でこの質問をしたのだと。決して俺個人の知的好奇心と保身を兼ねて尋ねたのではないと!
「じゃ、じゃあ、自分に恋人がいると仮定して想像してみてくれ」
俺は場の空気を取りなすように空咳をして、質問を改めて再度二人に尋ねた。
「恋人と、人気のない校舎の、鍵をかけた部屋で、二人っきり……。そんな密室の中で、自分と恋人がいったい何をするのかを――」
「……なんか、それ余計にセクハラっぽくないっすか?」
「言うな天清! そんなことは言いながら俺もわかってんだ! だけど上手い訊き方が思いつかねぇんだ!」
もういい! こんな気持ちになるくらいなら俺が答えてやるよ!
「つ、つまり! 若い男女が密室で二人っきりなんだからキスの一回や二回はしていると推測するべきだろ! それなのに恋人がアレルギーを持っているドリンクをわざわざ飲むかってんだ!」
俺は顔を赤らめながらそう吐き捨てた。なんだこれ。どうして俺がこんな恥ずかしい思いをしているんだ。おかしい。最初はこんなつもりで質問したんじゃなかったのに……。
しかし、この質問の効果は絶大だった。
「ああ!」
「な、なるほど……!」
天清は得心がいったように、飛ケ谷は憑き物が取れたかのように表情を明るくする。
奇しくも先ほどキスの話題になった際、天清はたかが口と口をくっつけるだけだと話していた。だが、その認識は大きな間違いである。
キスとは皮膚接触であると同時に粘膜接触でもある、それなりのリスクを孕む行為だ。たった一回のキスで虫歯は移るし、風邪なんかの病原体ももちろん互いを行き来する。仮にC美がコーヒーを飲んだ状態でキスをすれば、間違いなくB太の口にはコーヒーが付着してしまう。
恋人ならば自分のパートナーの好き嫌いくらいは把握しているはずだ。ましてやアレルギーともなればなおさら。あの場にC美がいたとしても、ドリンクにコーヒーを選択することだけは絶対にありえない。
「そっか。そういうことだったんだ」
「そ、それはたしかに盲点だったっす……!」
飛ケ谷は静かに頷き、その横で天清が悔しそうに歯噛みする。俺のメンタルがぼろっぼろに削られたのは無駄ではなかった。
けれど疑問が消えると同時に、二人にはまた新たな疑問も生まれた。
「あれ? それじゃあ結局、B太くんはどうしてコーヒーを持ってたの? 他の人の持ち物でもないとなると、もう誰かの置忘れとしか思えないんだけど……」
「そーっすそーっす。甘い匂いの件も辻褄が合わなくなるっす。それとも、香水だっていう自分の推理が的外れだったんすか」
俺は全身で二人の視線を受け止める。わかってるよ。金は受け取ってないが、特別出血大サービスで教えてやる。
俺は天清からメモ帳を貸してもらい、そこから事件を解くために重要なキーワードを選定して述べていく。
「鍵のかかった部屋、B太の嘘、甘い匂い、コーヒー、他人には見られたくないこと……」
天清のメモはそれなりに上手くできていた。登場人物の関係性、事件の流れと顛末、考えられる可能性とそれを補強する証拠、あるいはそれを否定する矛盾。それらが流麗な文字で整然と並べられている。あれほど爆発的な性格でよくぞここまで理知的にまとめられるものだ。筆を執ると人格が代わりでもするのだろうか。
書記としての実力は申し分ない。
探偵としては、どうだろう。
「悪くはない。鋭い奴ならこのキーワードだけでも解けるだろう。でも、足りない部分があることも事実だ」
「ど、どこが足りないんすかっ。明日見パイセン!」
そうだな。たとえば俺への尊敬の念とか……などと、軽口をたたくこともせずに俺は天清のメモ帳に一つのヒントを書き加え、もう一つのヒントを書き足した。
飛ケ谷は、小学生の国語の授業のようにそれを音読する。
「鍵のかかった部屋、B太の嘘、甘い匂い、缶コーヒー、他人には見られたくないこと、……開いた窓?」
「ああ。これで及第点だ」
これで十分。あとは、それこそ小学生でも解ける。
「『コーヒー』が書き足されて『缶コーヒー』になって、『開いた窓』が書き加えられただけっすけど……」
天清は腑に落ちない様子でぶつぶつとぼやく。飛ケ谷も似たような状態だ。たったそれだけの変化がどうしたのかと、俺を胡乱な目で見つめてくる。
俺は湯呑をくいっと呷った。
「だけとは何だ、だけとは。どっちも重要なキーワードなんだぞ。特に、缶コーヒーの方はな」
「コーヒーじゃだめなの?」
「だめだ。缶でなくちゃ意味がない」
「意味ってなんの?」
「アレルギーなのにB太が缶コーヒーを買ってきた意味だ」
「じゃあ、やっぱりあれは別の誰かの持ち物じゃなくてB太くんの物だったんだ」
「ああ。他の状況証拠から推理するとそうだとしか思えない」
「アレルギーなのに?」
「アレルギーなのに」
「なんで?」
「なんでだろうな」
飛ケ谷からの矢継ぎ早の質問に俺は淡々と答える。途中、天清のいる方向から再び「イチャイチャ」という単語が聞こえた気がしたがスルーした。
ふむ。これでもだめか。飛ケ谷はともかく天清なら、とっくに解けていてもおかしくはないはずだが……。
それとも、初対面の先輩の言うことを真面目に聞いてしまうような、純粋無垢が服を着て歩いている天清の思考からは想像もつかない真相なのだろうか。
――違法行為なんて、誰でも犯しているというのに。
「そろそろ下校時間だ。解答編にうつるぞ」
「あっ。もう少し! もう少しだけ時間が欲しいっす!」
懇願する天清を尻目に、俺は事件を振り返る。
時は金なり。無料じゃない。
「これまでの天清の推理のなかで確定的な事柄がいくつかある。
第一に、B太が嘘をついていること。
第二に、他人には見られたくない行為をB太が音楽室の中でしていたこと。
そして第三に、それを隠すためB太が音楽室に鍵をかけたこと」
ふんふんと飛ケ谷がメモ帳を見て頷いた。
「これで半分のキーワードが使われたね。残りは甘い匂いと、缶コーヒーと、開いた窓の三つだけだよ」
と、ここで俺は椅子から立ち上がる。戸棚に近づき、手ごろなお菓子を探す。そうだな。今日はチョコレートにしよう。とびっきり甘いやつ。
席に戻り、個包装されたチョコの包みを破ると、甘い匂いがほのかに部室を漂う。
「シンプルに考えてほしいんだが、飛ケ谷。お前、何かしらの匂いがする部屋の窓が開いていたらそこにはどんな意味があると思う」
「ほぇ?」
手渡されたチョコの包みを片っ端から開封しては頬に詰め込んでいた飛ケ谷は動きを止め、即座に答えた。
「換気……してるんじゃない?」
俺はその返答に満足して部室の窓を開けた。
「そうだ。B太は音楽室の空気を入れ換えたかった。だから窓は開いていたんだ」
では、彼はなんで空気を入れ換えたかったのか。俺はメモ帳を軽く叩く。
「B太は嘘をついた。B太は他人に見られたくない行為をした。B太は窓を開けた。B太は部屋に充満する匂いを消したかった」
「あっ」
飛ケ谷が驚きのあまり口を閉ざす。ここまで聞けば、いくら能天気な飛ケ谷でも気づくか。この事件の真相が、ハッピーなものではないということに。
「つまり彼は……」
天清が目を見開く。どうやらこいつも気づいたらしい。
彼女とは反対に、俺は目を閉じた。
「そう。B太は音楽室で煙草を吸っていた。それしか考えられない」
未成年の喫煙は違法行為だ。学校にバレれば処罰は免れない。停学か退学か、あるいは除籍処分なんてのもあり得る。当時B太は高校三年生。彼が進学するにしても就職するにしても、自分が進むべき将来を決めている可能性は十分にある。それなのに万が一にでも違法行為が発覚してしまえば……。
このご時世、どこにカメラが隠れているかはわからない。誰もがメディアになれる時代だ。噂は瞬く間に飛び火していき、渦中の人間を素っ裸に晒しあげる。市役所職員はコンビニに行くだけで炎上し、警察官があくびをするだけで世間は叩く。
便利なわりに不都合な社会だ。未成年の喫煙など正直珍しくもないが、B太が過剰にそれを隠そうとする心理も俺にはわからんでもなかった。
「となると音楽室の甘い匂いってのは」
「煙草が出す煙が甘かったのか、もしくは単純にデオドラントスプレ―の匂いだったんだろう。スプレーは煙草のにおいを消すためにB太が持ち込んだものだろうな」
俺は続けて言う。
「彼が喫煙場所に音楽室を、学校の施設をあえて選んだ理由までは俺にもわからない。ただ、吹部部長のB太にとって音楽室は通い慣れた場所だし、休日の学校なんてのは意外と人がいないもんだ。少なくとも、彼からしてみれば自分の家で隠れて吸うよりも安全で安心できる場所だったんだろう」
惜しむらくは、その安心できる場所に不幸にも招かれざる客が突然来てしまい、あまつさえその人物が謎部なんていう怪しげな非公式営利組織に謎解きを頼んでしまったことだ。
「待ってほしいっす!」
俺の前に天清が立ちふさがった。彼女は今にも机に乗り出さんばかりの勢いで体を前に倒し、俺の目をじいっと見つめる。大きく、丸く、純粋な目だ。
「パイセンは言ったっす。この事件の肝は缶コーヒーにあるって。なのに今の推理じゃあ缶コーヒーのかの字も出てこないっす! パイセンは嘘をついたんすか!」
キャンキャンと小型犬のごとく天清は吠える。なんだったっけ……ああ、そうそう思い出した。こういうのをポメスガキと俺は名付けたんだった。
そろそろ俺にも先輩としての威厳があるということを、こいつに教育してやろう。
「天清、お前、うちの学園の自販機で飲み物を買ったことはあるか?」
「はい? なんすか?」
脈絡もへったくれもない質問に天清は首を捻る。
「いいから答えろ。あるのかないのか」
「そりゃあ……ありますけど」
「なら自販機でどんなものが売っていたか思い出せ」
「えっと、ペットボトルの緑茶が数種類と、缶コーヒーくらいしか売ってなかったはずっす」
「そうだ。じゃあ質問を変えるが、B太はどこで缶コーヒーを買ったと思う」
「学園の自販機……じゃないっすか? 事件当日は土曜日っすから学園の購買部は開いてないんで」
天清は素直に答えるが、その顔には俺への疑念が張り付いていた。「こんな質問に意味はあるのか」と目が雄弁に語っている。文句が口を突いて出そうなくらいに口も半開きだ。
無論、意味はある。
俺は少しタメを作り、事件のオチが近いことを暗に示した。
「だったら、どうしてB太はペットボトル飲料ではなく、わざわざ缶コーヒーを選んで買ったんだ。アレルギーを持っているにも関わらず」
「それがわかったら苦労しないっすよ。……でも、まあ、普通に考えたら水分補給が目的ではないっすよね。アレルギーなわけだし飲んだら大事っす。そう考えると、あり得そうなのは誰かへの差し入れとかっすかね。ああでも、プルタブは開いてたみたいですし……」
そう。そこだ。
「B太は缶コーヒーを飲むために購入したんじゃない。だというのに缶のプルタブは開いている。これは、どう考えても変じゃないか?」
「……あっ」
天清が目を見開く。その様に、俺はほのかな優越感を得た。
さあ、いよいよ大詰めだ。
どうしてB太は中身が要らないのに缶を開封したのか?
これが意味するところは、一つしかない。
「B太は、コーヒーを捨てるために開けたんだ」
必要だからではなく、不必要だから缶を開けた。
「コーヒーなんていらなかったんだ。必要なのは、缶そのものだったから」
コーヒーアレルギーの人物が缶コーヒーを買う理由など、それ以外にあり得ない。
「ペットボトルじゃだめなんだ。B太には缶でなくちゃいけなかったんだ。なにせ、そうでなくちゃ吸い殻を隠せない。自分の違法行為の証拠が透けて見えてしまう」
人の少ない休日の学校を選んだ。ドアに鍵を閉めて誰も入れないようにした。窓を開けて換気を行った。においを誤魔化すための準備も怠らなかった。
でも、吸い殻は?
「音楽室のゴミ箱には捨てられない。誰かに発見されたら事だ。窓からポイ捨てもできない。誰がどこで見ているかわからないから。なら、いっそトイレにでも流してしまおうか。良い案だ。けれど、音楽室から男子トイレまでのわずかな間に教師とすれ違いでもしたら?」
たかが喫煙のために多くの小細工を弄するB太のことだ。微生物ほどしかない小さな可能性にも目をつむらず、そうならないように手を打っても不思議ではない。
天清は柄にもなくぼそぼそと小声で応じた。
「吸い殻を隠して持ち運びたい。加えて入れ物は学校にあっても怪しまれないものがいい。欲を言えば入手が簡単なら最高……」
「はぇー、それを全部満たすのが缶コーヒーだったんだ……」
感心した様子の飛ケ谷。俺は蛇足だろうとは思いつつもそこに補足を追加する。
「絶対に缶コーヒーである必要はないさ。外から見えさえしなければ普通にハンカチで包むとかティッシュの中に押し込むとか、もっと自然な隠し場所はいくらでもあったはずだ」
「いやいや危ないでしょ。ちゃんと火が消えてなかったらどっちも燃えるし……って、ああそっか。だからB太くんは缶コーヒーを容器に選んだんだね。外から見えにくいだけじゃなくて、火消しの役割も兼ねてたから」
「かもしれないな」
まあ、だからってわざわざ学校で缶コーヒーを買う必要はないんだけど。
それでも彼が買ってしまったのは、それほどまでに煙草が吸いたかったからか、あるいは何回も繰り返していくうちに慣れてしまい油断したのか……。それ以上の推理は、本当に蛇足だろう。
かくして、俺が中三の春に解き終えていた謎は、いま再び終幕を迎えた。
ひょんなことから始まった俺と天清の勝負だったが、結果は天清の敗北。見事に俺は謎部での安寧を勝ち取ったわけである。
金にもならない勝負事など勝っても負けても心が揺れないが、こと今回に限ってはかなり白熱した。それは天清が俺の予想を超えて優秀だったからだ。実際、俺は彼女があまりにも騒音をまき散らさなければ入部を認めていたかもしれない。
俺はあらためて天清を見る。つり目とくせっ毛が特徴の可愛らしい女の子。爆発的な性格とは対照的な鋭い観察眼。メモをとるマメな一面もある。
面白い後輩だ。絶対に入部は認めないが料金さえ払えば、たまになら、面倒を見てやってもいいかもしれない。
「ん~~~~~っ……!」
件の後輩はといえば、缶コーヒーに秘められていた真相を知り、その小さな体躯をわなわなと震わせている。それは感動のあまりというよりも、見落としをしてしまった自分への不甲斐なさに怒りを覚えているようだった。
そして天清はぱんぱんと自分の頬を数回たたくと、
「明日見パイセン……いや先輩っ! ご指導ご鞭撻のほど、誠にありがとうございました! おかげさまで自分はまだまだだってことに気づけたっす!」
ぐわばっと勢いよく頭を下げ、空手の型のように両腕を胸の前でクロスさせた。
相変わらずうるさい……が、今くらいは大目に見てやろう。
「うん。まあ、なんだ。俺も他人様に教えられるほど偉くないからな。天清は天清で頑張ればいいんだ。探偵なんて、本気でやるもんじゃない」
顔を上げた天清はまっすぐに俺を見つめる。その瞳がうるうると光る。……なんだ?
「明日見先輩……いやパイセンッ!」
だから、その差は何なんだよ。
「お、おう。なに?」
俺は彼女の勢いに気圧されて後ずさる。しかし、俺たちの距離は変わらない。
「パイセンはすごいっす! ヤバいっす!」
「ん、や、ありがとう……?」
「尊敬すべきお方っす! スナイパーがショットガンを担ぐくらい衝撃っす!」
「ど、どうしたんだ天清……?」
明らかに様子がおかしい。いつもの無遠慮な元気の爆発かとも思ったが、これはそれ以上だ。天清は興奮のあまり我を忘れている。
――嫌な予感が、する。
果たしてそれは現実となる。
飛ケ谷の唇が、眼前にあった。
「これは――その証明っす」
俺の額に何かが触れる。
その意味を理解するまでに、俺は多大な時間をかけなければならなかった。
「な、な、な、なななな…………!」
声にならない声を出したのは飛ケ谷だった。目に見えて顔がぼっと赤くなり、はわわと両手で口許を抑えては、すうーっと目を細めて俺たちを眺めている。
俺は、それどころではない。
かたや天清はなんてことない風で、ふひひっと楽しそうに笑うと、たたっと軽快に歩を進めて部室のドアに手をかけた。
まさかこいつ帰る気か? こんな空気にしておいて? 俺たちを放り出して?
天清の動きは止まらない。体はもう廊下に出ている。
「あらためて今日はありがとうございました! 精進してまた来ます!」
そして、ドアを閉める直前、
「――乙女的一大イベントは、またそのときに」
最後に特大の爆弾を残して、天清純白は去って行った。
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