一人称の練習用ラブコメ導入

@miyu_lasp

第1話

 熱い。暑いじゃなくて熱い。


 真夏の天然破壊光線が上からだけじゃなく下からも攻撃をしてくる。全方位からの照射のせいで、引いている籠付きの黒い二輪自転車が被害者の顔をした加害者になってしまっている。時々触れる太ももが低温やけどしていないか心配になる。


「コンクリートを道路に使おうって言いだしたやつは馬鹿だよな。何食って育ったらこんなに熱を貯める物を日本中に敷き詰めようとか思い付くんだよ。触ったら即死、触らなくてもじわじわ俺たちを殺しに来てんぜ?こいつら。」

「使わなかったら使わなかったでコンクリートジャングルから雑草生え放題のリアルジャングルの日本になってたけどよかった?虫が苦手なあんたにゃ地獄絵図だと思うんだけど。」


 ただの八つ当たりを正論で殴られてしまったら言い返すことはできない。隣を歩く幼馴染ミサは、俺ことアキトの数倍熱耐性が高い様だ。首にタオルを巻いているのは互いに変わらないが、俺のタオルはもはやグレーと言える程に変色している。髪を拳で握ってみれば風呂上がりの様に絞ることもできる。


 対するミサは、肩まで伸びたゆるく整髪料を付けて巻いている茶髪に、汗が垂れている様子は一切ない。時折額や首筋を拭いてはいるが、俺の汗の量の1/10も出ていないだろう。天の神様は何を思ってこんなに差を付けたのだろうか。理不尽だ。性別だった。そうだね。


「そもそもお天道様がわりいよ。なんでわざわざ一年のうちに強弱付けんだよ。社会は爆発力のある人間よりも、常に一定のことができる人間を求めてんぜ。秋の気候を維持するべきだ。」

「その人材、市場価値低いわよ。それに、太陽系を何億年もワンマン経営する敏腕社長に求める話じゃないわ。」

「その話には欠点があるぜ。確かに敏腕社長は会社を立ち上げてからの成長に必要不可欠だ。ただし、ある程度成長したら好き放題する社長より安定を選択できる平時用の社長の方が必要になるもんだ。つまり成長しきった株式会社太陽系には代表取締役社長を解任し、新たに安定した恒星を据えることを要求する。」

「じゃああんたが株式会社太陽系の筆頭株主にならないとね。」


 ふざけた会話を続けていると、なんで自分はこんな灼熱地獄の中を歩いているのだろうかと自問してしまう。


 なんでってそりゃ…自転車通学の俺が、電車通学のミサに。部活に行くのに一緒にと誘ったからでしかない。


 自業自得って話だ。ただただ気になってる女子と話ながら歩きたいが為だけに、自転車で爽快な風になるという至福の権利を放棄したのだから。


 しかし、自業自得とはすなわち業を背負ったならば得も背負っているのだから。それには価値があった。いくらミサに流れる汗の量が少ないとはいえ、まったくではない。汗を吸ったセーラー服に走る胸部装甲を支えるワイヤーによる横線。強調された推定Eカップ。


 これだけで17歳の野郎には十分すぎるご褒美だ。あと7、8分程歩いたらエアコンの中に入るとしても、それまでに色まで分かればもう満足だ。


 我が文学部は女5、男2の超女社会。普段肩身が狭い分、こういうところでガードが薄くて本当に助かる。


「ミサ先輩!おはようございます!」

「おはよう。危ないから後ろからはやめてね。」


 煩悩に浸っていると、後ろから迫ってきた女がいた。141㎝という小柄を生かしてミサに飛びつく。30キロないとか眉唾なことを言っていたが、運動部でもない身長150㎝代前半のミサに簡単におんぶされているところを見るに真実味を帯びてきた。


「なんだ。アキト先輩もいたんですか。ミサ先輩、こいつ先輩のことエロい目で見てますよ。悪は滅するべきです。」

「性欲が悪なら世界は悪に満ちあふれてるな。人類の崩壊を祈ってろ。」

「男の性欲が罪なんです。女の子にだってかわいい物と愛し愛されたい欲求があるんです。そちらに罪はないです。」

「じゃあどちらにせよ非単為生殖である人類は滅びるべきかもな。何かを排除する時は相応の代償がいるもんだ。今回は男を排除する為に女を代償にしたな。南無三。」

「いや、好きな人と結婚して妊娠したい時だけ子種を試験管に入れてください。業腹ですがそれで満足します。」

「一応私、普通に異性愛者なんだけど。同性愛の世界に無理に巻き込むのはやめてね。たしかにネリーはかわいいけどね。」                    


 この開口一番にブレーキが壊れた発言を繰り返すチビガキはネリー。文学部の後輩で推定レズ。男女の関係を否定し、女だけの楽園を目論む人類が妥当しなくてはならない敵だ。


 透き通ったブロンドから分かる様に、こいつは真正のアメリカ人だ。外資系のIT企業の頭として親が来日しているとか。


 社会正義に染まったアメリカからの来訪者がこんなジェンダー差別の塊みたいな存在でいいのかと思う。


 というかこいつ、就労ビザ切れたらアメリカに帰るだろうにこんな思想もってて大丈夫なのかといっそ心配になる。


 そうしてふざけながら歩いていると、目的地である私立牢乱学園に到着した。


 グラウンドでは既にいくつもの運動部がえーいおーと腹から声を出して刑務作業に勤しんでいる。


 彼らから見たら重役出勤な上、18度の世界へと羽ばたく身分の俺達からしたら哀れ極まりない。


 金はありますと言わんばかりの豪勢な城のような校舎に、俺達は侵入した。


 校舎の中は外と比べたら天国の様だった。各部屋で既に活動を始めている文化部の皆々様が恵んでくれた空気が廊下を冷やしているのだろう。しかしこの程度で天国と言っていては部室はどうなっているのか。


 結論、地獄だった。


 時刻は9時55分。部活の開始は10時。まさか最初に入ってくるのが俺達だとは思うまい。


 献身的な(主に一年ズ)が30分前には来て、部室を冷やしてくれていてもいいものだろう。というか5分前に到着している俺たちが言える話ではないけれど

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