存在

「え.....」


恐怖と驚きと色々な感情が入り乱れ言葉が出ず声が震える海。

自分の目の前に現れた女性がいつから近くにいたのか、どこから来たのか、何者なのか、声が聞こえているのか姿が見えているのかという発言、とにかく頭の中がごちゃごちゃで何が何だかわからなくなっていた。


そんなパニックを起こしている海を見つめ女性はしゃがみ、海の顔に自分の顔を近づける。


「んー...普通ですね」


そう言ってから女性は、身長は普通でスタイルも普通、顔はシュッとしている方だが一重で髪は短めだが前髪は目にかかるくらい、頭は良くもなく悪くもないと海を分析し始めた。


「いたって普通...でも、優しい心を持っている、合格です、君の願い、ちゃんと叶えてあげます」


女性は優しく微笑んだ。


「な、なんなんですか!?あなたは何者なんですか!?いつ来たんですか!?ずっといたんですか?ずっと隠れていたんですか!?」


海はようやくまともに喋ることが出来たがパニックは残っており、一方的に相手が答える暇もなく質問をひたすら続けるだけだった。


すると女性はクスッと笑い、笑みを浮かべながら再び海の顔をじーっと見つめた。


「私がなんなのか、何者なのか...かあ...んー」


女性は少し返答に困った様子だったが、すぐに答える。


「実は...私も私のこと、よく知らないんだあ」


女性は微笑んではいるが、どこか物悲しい表情だった。

そんな女性の表情を見て海はなぜか安堵あんどした。


そして海は落ち着きを取り戻し、女性に再び問いかける。今度は女性がちゃんと答えられる様にゆっくりと。


「自分の声が聞こえているのか、姿が見えているのかと言っていましたけど、あれはどういった意味なんですか?」


海はまず、女性の発言について問うた。

女性はすぐに答えた。


「えっとね、私、昔からこの神社にいるの。この神社に来て、眠っちゃって、目を覚ましたら神社はボロボロで、まるで別のに来たみたいだった。その時にね、1人のがやって来たの。その男の子は毎日この神社で手を合わせ、掃除とかしてくれていた。毎日毎日。だから私はある日男の子に話しかけてみたの、でも...男の子には私の声は届いていなかった...姿すらも見えていない様だったの、数年に1度くらい別の人も訪れるのだけど、その人達にも私の存在は認識されなかった。そして、何より、何年も何十年も経つのに私は歳を取らなかった。」


女性は淡々と語り、たまに少し遠回しな発言や何かを隠す発言があったが、色々と教えてくれた。


「それって幽霊じゃない?」


海は女性の今までのことに対し何を言えばよいかわからなくなってしまったので、思ったことをそのまま言葉にした。

女性は少し驚いた様な顔した。


そして質問を続ける。


「幽霊なのかどうかは置いておいたとしても、なんで、俺の願いを叶えてあげるなの?」


海はとても不思議そうな表情を浮かべ聞いた。

女性は真面目な顔になり答えた。


「それはね、最初に話した男の子のが大きくなって.....うっ...」


女性は自分になぜ願いを叶える力があるのか説明しようとした瞬間、突然頭を押さえ苦しみはじめた。


「痛い...苦しい...わからない...なんなの...私って...」


女性は更に苦しむ。

海はその姿を見て、恐怖と心配と焦りで、ただ呆然と女性が苦しむ姿を眺めることしかできなかった。


だが、流石さすがに見ていたら心配が勝り、大丈夫ですかと女性に触れようとしたその時だった。


女性は苦しみながらも突然声を張り上げた。


「触らないでっ...触れたら...触れてしまったら...私は.....」


海は驚き、女性に触れようとした手を止め唖然とした。


「ご...ごめんね...記憶が曖昧で...思い出そうとしたらこれだよ...ごめんね...でも信じてほしい...私なら君の願いを叶えられるから...」


女性は苦しみながらも笑みを浮かべ、海に信じてほしいと伝えた。


「わかった、わかったよ、信じる、信じるけど...じゃあせめて、名前だけでも教えてくれるかな...?」


海は焦りながらも女性をなだめる様に女性に名前を聞き、女性が落ち着き、答えるのを心配で焦りながらも、静かに待った。

女性は少し落ち着きを取り戻し口を開いた。


さくら...昔から私はそう...詳しく教えてあげられなくてごめんね...」


春に顔を出した青葉が少し強めの風と共に舞い、海は少し目を閉じた。

風が過ぎ、海が目を開けると目の前には女性の姿はなかった。


海は、突然目の前に現れた綺麗で不思議な女性、桜がなんだったのか、頭を悩ませながらも神社を後にした。










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恋焦がれて恋叶えて 雀三世 @himerinn

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