第24話「悪役令嬢、『デコトラアーマー』ヲ装着ス」


「何だ? それ、『デコトラアーマー』?あるじ用武装?」

【ご案内します。これは主の身体に装着する事で身体能力を飛躍的に向上させ、常人離れした戦闘能力を持つ事ができるようになります。外観はフルプレートアーマーですので、身元を隠すのにも役立つかと】

「なんでも良いから早くそれ出して!あの人達いつまでも持たないよ?」

「あ!おいリア!勝手に!」


リアがその言葉を発した次の瞬間、皆は運転席から姿を消してしまった。

慌てて俺様は意識を集中して車内を探し回ると、貨物室内に皆はいた。

しかしそこはリア用の部屋にカスタムされていたはずなのに、今は元の貨物室に戻ってしまっていた。

「あれ?ベッドとか家具は?」

【ご案内いたします。デコトラアーマーの装着に邪魔なので一旦収納させていただきました】

リアの疑問には【ガイドさん】が答えてくれたが、ああいう鎧って一瞬で装着されるとかじゃないの?

【ご案内いたします。それでは主様、アーマーの装着に移りますので、その台座の上に立ってください】

【ガイドさん】がそう言うと、単なる板張りだった床の上が、やたらと近代的な金属製の床に置き換えられ、運転室側の床上に直径2mくらいの円盤状の台座が出現した。

「え、この上に立てば良いの?これでいい?」

【ご案内いたします。それでは鎧の装着に移ります】


今度は貨物室の床や天井やら壁から金属製のアームが出てきたぞ。おい、この大きさどう見ても壁や天井の厚み無視してるぞ、どうなってるんだ。

金属製のアームはそれぞれ鎧のパーツを持っており、それが台座に立っているリアの身体にどんどん装着されていっている。

なんだかこれ、アメコミヒーロー映画のアーマー装着シーンみたいだけど、こんな手間暇要るのか……?

リアは元々ドレスを着ているが、装着されている銀色の鎧は、そのデザインに合わせて女性らしい曲線を主体としたもので、鋼鉄製のドレスのような見た目だった。

肩部分はパフスリーブのような形状に膨らんでおり、背中にはコルセットの紐のようなデザインまである。

だが問題は全身の装飾だった、どう見てもデコトラなのだ。

上半身はトラックの正面のようなデザインで、胸というか肩甲骨の所にフロントガラスのような透明なパーツがはめ込まれており、デコルテが強調されていた。

下半身のスカート状の装甲板はステンレスのような質感な上に、その上半分が大きな装甲板が何重にも重なったスカートのようになっており、

下半分には大きく細いリングが縦に伸びる部品で5本ほど連結されており、まるで骨組みのスカートのようだ。実際その下にはリアのドレスが見える。

ひょっとしてこれ、トラックの貨物室下にも取り付けられている、人が車体の下に入りこまないようにする為のガードを模しているのか?

さらに、兜はたしかにフルフェイスタイプなんだけど、頭の上にいかにもデコトラ的な装飾が施されており、重たくないんだろうかと心配になる。


全身にはエングレービングのように小さい電飾が並んだ帯が走り、ご丁寧にマーカーランプは別にいくつも身体中にある。

最後に背中をぶわぁっとマントが覆うけど、それは俺様のボディに描かれていたペイントと同じものだった。

装着完了と共に全身の電飾が光り始め、全体的な印象は派手の一言だった。デコトラから変形したオプ◯ィマスプ◯イムみたいと言ったらわかりやすいか?


「なんというか、派手、ですね……」

「言うだけあって全身がデコトラに見える……。あと何だよそのマント、派手派手で、もはや大漁旗に見えるんだけど……」

「えー、なにこれー。思ってたのとちょっと違うー」

俺もメイドのケイトさんも派手すぎるその見た目に言葉があまり出なかった。そしてリアも少々引いている。

【ご案内します。それでは主様の趣味に合わせて鎧の見た目を変更されますか?時間的制約から、ひとまずは色を変更の変更はいかがでしょうか】

「おねがいー、んじゃピンクで」

リアはいつでも即決だった。鎧はピンク色に変わったけど派手さが強調されただけのようにも見えるな……。

「よしこれ!これにするわ!良い感じじゃない!」

【ご案内します。それでは剣をどうぞ】

リアの腰に優美な装飾が施された剣が出現し、これで全て終わったようだ。

【ご案内します。それではジャバウォック様の意思を鎧に移しますので、主様の戦闘のサポートをお願いいたします】

「えっ」


次の瞬間、俺様の意識はデコトラから切り離され、気がつくと貨物室の壁を見ていた。

「えっ、なんじゃこりゃ!」

「え? 今鎧がしゃべった?じゃばばがしゃべったの?」

「俺様、鎧になっちゃった?」

なんてこった、今の俺様は鎧となってリアに着込まれている感じなのか。

「おい【ガイドさん】、俺様が鎧になってどうするんだ。いっそデコトライガーでついて行った方が良くない? 数が多い方が良いだろ」

【ご案内します。主様の身体能力は飛躍的に向上しましたが、すぐに戦えるわけではありません。

 また、周囲の状況を掴む能力も低いと思われますので視点は多いほうが良いものと思われます。

 相手の攻撃を見切って避けたりは問題無いでしょうが、ジャバウォック様がサポートした方が良いと判断しました】

「ええー、まぁかまわないけどさぁ。サポートって具体的にどうすれば良いんだ?」

【ご案内します。主様は剣術が使えるわけではないでしょうから攻撃の手段がありません。デコトラ時の武装がそのまま使えますので攻撃を担当願います。

 また、死角から攻撃されないように、周囲への警戒をお願いいたします】

「攻撃と周囲の監視かぁ、けどこの状態でデコトラレーザーとかデコトラミサイル撃ったらそれはそれで目立ちすぎないか……?」

【ご案内します。それでは主様、剣を抜いてみてください】

「え?はい。うわ軽っ!」

リアは腰の剣を抜いてみるが、普通剣ってのは何キロもあるものなはずなのに軽々と持っていた。

【ご案内します。その剣は一見普通の剣のように見えますが実体がありません。

 『スキル:衝突治癒コンクリフトヒール』の効果がありますので、切りつけても人は傷つきませんのでご安心下さい】

「いやご安心できねーよ。攻撃できない剣振るってどうすんだよ【ガイドさん】」

【ご案内します。剣で人を斬った場合の精神に与える影響を考慮いたしました。主様が剣を振るった瞬間に、デコトラレーザーやスタンボルトで攻撃する事をおすすめします】

「そういう事か……」

リアは面白半分に人を車で撥ねていたが、これが剣となると又別かも知れない。下手に人を斬る喜びを覚えてもまずいしな。

「なんだかわからないけど、もう準備良いんだよね? んじゃ、行ってみますかー!」

「俺様の意思がことごとく無視されてる気がするなぁ」


突然、車体が動き始めた。馬車の近くまで連れて行ってくれるのかと思ったが、向きを変更しただけのようだ。

と思っていると足元にレールのようなものが出現した、その上には板のような装置も付いている。これ、ひょっとしてアレか? おいリア乗るな!

【ご案内します。それではカタパルトで射出いたしますので主様はその板の上に立ってください】

「はっ!? いやいやいやちょっとまてよおい!」

俺様の声を無視して事態はどんどん進む。壁や床になにか光が灯り始めたぜ、まるで宇宙船の中か何かだ。光るラインが後部ハッチまで伸びていく。


「おい【ガイドさん】、これじゃロボットアニメの発進シーンだろ。こんな事する必要性あるのか? リアもそう思うだろ?」

「んー? 私は別に何でも良いかな? よくわかんないけど」

「……ほら! リアも特に必要性感じてない! さっきから無駄な手順が物凄く多くない!? さっさと助けに行こうよ!」

【ご案内します。『デコトラ』はロマンそのものですよね? なのでDPデコトラポイントによる強化・機能もまたロマンが最優先されるのです】

いや、意味わからん、何か気分が盛り上がりそうな音楽とか鳴り始めたし……。

【ご案内します。射出カタパルトを目標地点に向けて適正な角度に設定、搭乗員は退避願います】

搭乗員って、後ろの方のケイトさんしかいないんだけど。突然貨物室自体が斜め上に向けて傾き始めたので、足元がふらついて倒れかけてるな、気の毒に。

【ご案内します。進路クリア、ハッチオープン。射出まで5秒、4秒……3……】

ひょっとしてこれ【ガイドさん】の趣味なのか? カウントダウンと共に後部扉が開き、外の光が差し込んでくる。

光に照らされてリアのデコトラアーマーが輝いてるぞ。ますますアニメのOPだ……、主題歌はさすがに無いようだが。

「ねー、さっきから何やってるの?早く助けに行きたいんだけどー」

俺様もそう思うが、ロマン的には外せない手順らしい、我慢してくれ。

【1、射出します】

その音声と共に、俺様は空に向かって打ち出された。

「ひゃああああああああああああ!?」

「リア様ああああああああ!?」

あ、そうか、リアってこういうのに乗せられたら、凄い速度で打ち出されるって知らないのか。

悲鳴と共に俺様達は天を舞うしかなかった、俺様もどうしていいかわかんねーよ。


次回、第25話「悪役令嬢、人助ケヲ実行ス」

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