第23話「悪役令嬢、己ノ自由ニ困惑ス」
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”~」
「ん”ん”ん”ん”ん”ん”ん”ん”~」
今日も今日とてデコトラの俺様は街道を走る。目的地があるわけでも急ぐ旅でもなし、道が悪いのでゆっくり安全運転で旅を続けている。
お嬢様のリアとメイドのケイトさんはというと、運転席のマッサージチェアでリラックスタイム中だ。足元にはサービスで足湯も付けてるぜ。
貨物室を改装した部屋の中は相応に快適とは言うものの、まぁ退屈だわな。
景色を見ている方がマシだと運転席に座ってくれているのだが、ずっと座っているのも疲れるとのご意見に、それならばと出したのがマッサージチェアなのだ。
いやー最近のマッサージチェアって見た目からして凄いねー、こんなの座ってたらロボットとか操縦できそう。それに足湯を足せばちょっとしたエステサロンだろう。
これって果たしてデコトラの旅なんだろうか?とたまに疑問に思うが、旅が快適なのは良いことだと全力で考えない事にした。
【ご案内します。マッサージチェアの連続使用は健康に差し支えますので、そろそろ止めさせていただきます】
「ああー、気持ちよかった~」
「私は普段マッサージをする側なのですが……。たまにはこういったものに身を委ねるのも悪くないですね。私の仕事が無くなりそうですが」
ケイトさんはメイドなだけに機械に仕事を取られてしまう事に危機感があるのか、どうも俺様の出す機械とかを快く思っていないようだ。
「まぁ良いじゃないか、1人も2人も変わらんよ。機械が勝手にやってるだけで、俺様がマッサージしてるわけじゃないし」
「馬車の旅だとこうはいきませんからねぇ。狭い車内で数日とか普通ですし、時には野営もいたしますから」
ケイトさんはリアの足を拭いてあげているが、この世界の旅ってのは色々大変なんだな。まぁ宿屋がそう都合よくあるわけでもないもんなぁ。
王都から飛ばされてき俺様たちは、とりあえず行く所も無いのであてども無く旅をしていた。
食事は俺様が採取してきたものからDPを使って出せるし、炊事洗濯だって貨物室内の設備を使えば何不自由無く生活もできる。
が、何の目的も目的地も無く旅を続けるのもそろそろ限界が来ていた。そもそもどこに向かって行けば良いかもわからないのだ。
前世のオープンワールドRPGってのは何をやっていいかわからん、という話を聞いた事あるけど、今がまさにそれなんだな。
どこに行ってもいいし、何をしても良いと言われても、なかなか難しいものだ。
前世のオーナーは自由な人だとは思っていたが、それでも無軌道に無計画に移動したり何かをしてたわけではない、それぞれの生活基盤の中で、ほんのちょっとはみ出る事を娯楽として楽しんでいたのだと今さら気づく。
「うーん、いざどこにでも行けるってなっても、どこに行ったら良いのかしら……」
「俺様もさすがにここまで自由の身にはなった事が無いからなぁ。目的の無い旅というのも慣れが要るものなんだなぁ」
俺様は前世で日本中を走り回ったが、よくよく考えてみると荷主から預かった荷物を届ける為にオーナーに運転してもらっていたからで、旅から旅にというのとはちと違った。
リアには「自由になれ」とか偉そうな事を言ってしまったが、完全に自由というのは中々に不安になるものなんだなぁ。
数年はこういう旅を続けるのも良いだろう。しかしリアは家や国を飛び出したとはいえ貴族のお嬢様だ。何とかどこかに定住してそれなりの地位か身分を手に入れたい所ではあるんだよな。
「お嬢様の将来を考えると、何か手に職をつけてどこかに定住するのが最善なのでしょうね。
とはいえ私達に今ある力と言えるものはジャバウォック様だけなので、
「そのどこか大きな街、ってのは心当たりあるのか?」
ケイトさんもリアの将来は色々考えていたらしい。このまんまデコトラの中で暮らし続けるのも健全な状態とは言えないもんな。
「そうですねぇ、今向かっている方角のダルガニア帝国の首都ダルガウルブス、ならあるいは何かあるかも知れませんが、ちょっとその先のテネブラエに近いんですよね。
他にはテネブラエの西にグランロッシュ王国という魔法王国がありますが、わざわざそこに行く理由も今の所ありませんし」
「どっちに行くにしても戻っていく事になってしまうのか、あんまり面白い事じゃないなそれ。逆はどうなんだ?」
「東にはヒノモト国という国がありますが、ちょっと文化が違い過ぎるのですよ」
ケイトさんから聞いた話をまとめると、ヒノモト国ってのは俺様の前世の日本みたいな文化の国なんだそうだ。
ちょっと見てみたい気もするけど、リアはちょっと馴染めそうにない気がするな。
「となると、ダルガニアに向かって走るしか無いかなぁ。テネブラエには近づきすぎなきゃ良いだろ?」
いかんせん俺様達は国元ではお尋ね者だろう。あの公爵の感じからすると厄介者を放逐できてラッキー、くらいにしか思ってないだろうし、その後にあの家がどうなろうが知った事か。
「他に頼る所も無いのか?」
「リア様のお母様の生国、というわけにもいかないでしょうね、そもそも絶縁に近い状態でしたし」
「話聞いてると貴族ってのは、横のつながりで力を付けたりするもんなんだろう? 何故絶縁状態なんだ?」
「あの公爵は、配偶者の家から余計な横やりを入れたく無かったのですよ、それで隣国の力関係で勝る家からのみ縁戚関係を結んでおりましたから」
ケイトさんもついに公爵呼ばわりか、まぁ親戚づきあいってのは色々面倒なのは俺様でもわかる。
しかしあの王妃様といい同じような事はあちこちであるもんなんだな、貴族ってのは自分の地位を守る為には手段選ばんのか。犠牲になる女性達に同情してしまう。
「その国に行くのも考え物だなぁ。このまま魔獣を狩って生きていくのも悪くはないけどな?」
「とはいえ、リア様はもう15歳なのです、普通ならもう結婚する年齢なのですよ。1年ならともかく、あまり長くそういう事をしていると……」
婚き遅れになる、って事か。平均寿命の影響か知らんがずいぶんせわしない事だ。
「ぐー」
リアは絶賛爆睡中だ。ずっと勉強だ何だと詰め込んでた生活だったからな、疲れが溜まってたんだろう。
「んじゃひとまず、西に向かって走るか」
あてどもなく走るにしても目的地というものは欲しい。とにかくどこか大きな街にでもたどり着かないと何も始まらん。
そもそも俺様達はろくに金も持ってないからなぁ、どこかで金稼ぎも考えないといかん。
リアは宝石類を持ち歩かせてもらっていないのでドレスくらいしか売るものが無いし。
しばらく走っていると【ガイドさん】から警告が来た。珍しくこちらを急かすような口調だった。
【ご案内いたします。前方に多数の人間と、馬車らしきものの存在を感知しました。光学偽装を展開する事をおすすめします】
「何だ? 馬車が襲われてるのか? 護衛は守りきれていないようだな」
俺様はこう見えても結構視力が良い。いや眼があるわけじゃないのだが、『スキル:存在感知LV2』の影響でなんとなくわかるのだ。
馬車には何人もの盗賊らしき者達が襲いかかっており、馬車側の人々は守るだけで手一杯のようだ。
俺様が見ているものはフロントガラスにも映し出されており、それは映像そのものではないけど人の輪郭がいくつも示されて状況を表現していた。
「ねーじゃばば、助けてあげないの?」
「いや……、助けるのは問題無いだろうけどさぁ、『これ』で助けに入るのは目立ち過ぎるだろ、俺様のデコトライガー形態だって敵が増えたと思われるだけだよ?」
「あまり関わるものではありませんが、後味が悪いでしょうしねぇ」
起きてきたリアもケイトさんもこの状況を見て見ぬふりするほど薄情では無いのは良いことではあるが、いかんせん戦闘力があるのが俺様だけだからな。
『デコトラ』が突然乱入したら騒ぎにもなるだろうし、旅を始めた最初からあまり目立ちたくはない。
【ご案内します。それでは『
次回、第24話「悪役令嬢、『デコトラアーマー』ヲ装着ス」
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