第28話 圧倒

 モニターに映る各バトルの様子。

 中でも一際ひときわ注目を浴びているのがしょうの一戦。

 その戦いぶりから力量を計ろうとこころみるすぐる

 そこへじんが解説を加えている。


しょうさんはね、カードゲーム黎明期れいめいきに革命をもたらしたんだよ。当時流行していたカードの中に、ダメージを軽減するものがあってね。そのせいで速攻は下火になってたんだ。ところが、しょうさんはそれを打ち破る秘策を編み出してね。その秘策というのが、ダメージ軽減カードをピンポイントで捨て札へ送れる除去カード」


 その話を聞いたすぐるは少し考えた後、怪訝けげんな表情を浮かべた。


「……別に、普通じゃないのか?」

「今の時代ならね。けれど、当時は速攻に異物を入れるなんて邪道だと言われてたんだ。非常識だと批難されてもなお自分をつらぬくのは、とても勇気がいることだよ。それでも自分を信じ続けた。きっと見えていたんだ、何が正しいのかが……。彼はこう言ってたよ。速攻はただ速ければいいってものじゃない。相手のリズムを狂わすことが勝ちへとつながる、とても奥深いテーマだと……。今もほら」


 じんの指さした先、モニターに映る戦局が躍動やくどうしている。

 消費魔力0のコンフュージョンで全体ダメージを打ち消し、それをワイズパロットで回収。

 コンフュージョンで打ち消したカードは、相手の選択次第で捨て札から手札に戻されてしまう。

 が、ワイズパロットで戻せるカードは2枚のため、リソース勝負では負けない。


 最小限の抵抗で、最大限の有利。

 戦況はさばけている!


 そして、また決着。

 ……と、バトルの様子をながめていた少年が、不敵なみを浮かべデッキを取り出した。

 後ろに並ぶ四十代の参加者から説明を受けた、あの少年だ。

 彼がデッキを手に立ち向かってゆくのを止めるべく、その後ろの参加者が手を伸ばす。


「おい、やめとけ」

「いいから見てろって、おっさん。どんなに強くたって、速攻だとわかってれば勝てる。ガッチガチに対策したこのデッキでな!」

「悪いことは言わん。あいつの速攻は変幻自在だ」

「速攻には変わりないんだろ? なら、大丈夫さ」


 そう言い残し、けてゆく少年。

 止めそこなった参加者は、対するしょうがデッキを変えるのを見て……。


「終わったな……」


 と、つぶやいた。


 直後、開幕した少年の悲劇。

 序盤は先程同様に低コストのレプリカで攻めるしょう

 それを低コストガーディアンで迎え撃つ少年。

 そこまでは、誰の目にも少年が順調に見えた。

 しょうの攻めをしのいでいるかのように……。


 しかし、中盤に移るとしょうは一転、タフなレプリカを召喚しょうかんしだす。

 さらに、終盤には強力な切り札をも降臨させた。


 こうして緩急自在の攻めに翻弄ほんろうされ、少年も敗北。

 周囲の動揺どうようが加速する。


 と、そこへ……。


「こっちにも注目しやがれ!」


 怒鳴どなり声が響き渡り、参加者たちが一斉いっせいに顔を向けた。

 その目に映ったのは、ごうが圧倒する姿!

 あわれ、対戦相手はいつものあの罵倒ばとうを浴びている。


「お前ら何もわかってねえな! 王の座に君臨するのは、このごう様だ! 見ろ! これが王者の風格だ! 暴れろレッドドラゴン!」

「させるか! カウンター発動、ウェ-ブ!」


 その宣言を受けた瞬間しゅんかんごうは目を見開いた!

 その脳内にすぐるとの初試合がよみがえる。

 屈辱くつじょくを味わった苦い過去。

 だが、その記憶きおくも、今や成長のきっかけをくれた良い思い出。

 その想起と共に、ごうは「ふっ……」とおだやかに笑った。

 そして、あの時の自分を超えるチャンスの到来に、ギラギラと目をかがやかせる!


「合格だよ、お前。このごう様が認めてやる。あの時のオレになら勝てただろうな……。だが、今のごう様には届かねぇ!」

「何ぃっ!?」

「カウンター発動! オネスティ!」

「ッ!」


 ウェ-ブを打ち消され、言葉を失う相手。

 対し、生き生きと猛攻を開始するごう

 もう止まらない。

 豪快に勝利を決め、次なる犠牲者ぎせいしゃへと指をさした。


 その間にも、再び始まっていたしょうのバトルが、終わりへのカウントダウンを刻みだす。

 同様に曲者くせもの三人しゅうも次々と勝利を重ねてゆく。

 そしてさらに、参加者たち最大の誤算が今、目の前に突きつけられる!!

 その存在を気にもかけてなかった彼らに、予想外の方向から……!


「そんなバカな!? 何でこっち側が負けるんだよ!?」


 悲惨ひさんさけび声が上がった。

 声の主は最前列の男性。

 その視線の先、花織に負けた参加者が項垂うなだれている!

 ごうはそちらをチラリと見ると、不敵に笑った。


「疑いもしてなかったぜ! そうさ、オレたちはなあ……つえぇんだ! お前らに負けるわけねえだろ!」


 ごうたけり、さらに勢いを増す。


 そして、花織も緊張がやわらぎ二戦目へと突入!

 相手の攻めに応じて最良のカードで対抗してゆく。

 そのすきのない戦略に、参加者たちの認識も激変。

 逃げるように列を離れてゆく。

 だが……。


「どこへ行くんだい?」


 その背に向かい、しょうが言葉を投げかけた。

 何人かはギクリとして立ち止まるも、ほとんどの人は無視して逃げ続ける。

 その様子を見て、しょうあきれるあまり溜息ためいきいた。


「まだわからないのかい? 準々決勝へ進めるのは6人。そして、僕たちは合わせて6人。つまり、君たちは僕らの内誰かを落とさなきゃならないんだ」


 その言葉に、参加者たちはみるみる蒼褪あおざめてゆく。

 そこへさらに容赦ようしゃない追撃の一言。


「……さあ、わかったら戻っておいで」


 そう告げられた参加者たちは、半狂乱でしょうたちへいどむ。

 しかし、かなうはずもない。

 絶望のどん底へと落ち、次々に敗退してゆく……。


 しばらくして進出者が決定。

 会場にアナウンスが鳴り響く。


「これにて、本戦第一回戦を終了いたします! 進出者は……キャンディ選手! マリー選手! カメレオンパンダ選手! ごう選手! 花織選手! しょう選手! 以上の6名です! 準々決勝は一か月後。それまでさらなる向上を目指し、はげんでください!」


 会場に拍手はくしゅと歓声が響き渡る中、進出者たちはお互いの顔を確認する。

 ごうは負けじと火花を散らすが、花織は不安に表情をくもらせていた。

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