第28話 神災大行進曲


 朝からはしゃぎ過ぎたためにエネルギーを大量に使いお腹が空いた紅の目前には太陽の陽を反射して煌めく姿が美しい氷の龍が舞い降りたのだった。


「う、旨そうだな……」


 無意識に出た本音と口からあふれ出るヨダレは次の標的が決まったことを意味していた。


「エリカさん!」


「なーに?」


「アレを捕まえてかき氷にしたらシロップってあります?」


 キラキラと輝く紅の純粋な瞳にエリカが確認すると顔から笑みが消えた。

 なにを食べようとしているのかよくわからないからだ。

 モンスターでありモンスターでない。

 エリカの視界には朱音とアリスが立っていて氷の龍が二人の様子を見守っていた。

 それを取って食べようなど……非常識にもほどがある。


「ないけど……イチゴ味なら作れる……わよ?」


「わっかぁーりましたぁ! なら行ってきます~!!!」


「行くなぁ!! 食べるなぁ!!! ご飯なら私が用意するから!!!」


 次の瞬間、神災竜が二足歩行で走り始めた。

 先ほど根こそぎ燃やし整備した大地をただ真っ直ぐに。

 残念ながら里美の声は今の紅には届かない。

 なぜなら紅の耳は自分に都合が悪いことは聞こえなくなるフィルター性能が生まれつき備わっているからだ。


「チッ、こうなったら」


「待って里美お姉様ぁ」


 槍を持ち実力で止めに行こうとする里美に抱きついて止めるマヤ。


「今彼を止めても彼のお腹が満たされない限り第三の被害がでる。それなら一番彼を止める可能性が高い朱音さんたちに差し出すのが最も鎮静化には効果的だよ」


「ちょ! アンタはどっちの味方よ」


「だってまだ開始十分ちょっとだよぉ!? これが一週間も続いたら皆PVP前に消沈しちゃうよぉ~たぶん」


「……マヤの言う通りかもしれない。ここは来週以降のことを考えて敵を余計に作らない方がいいと思うわ」


「エリカまで!? ……わかったわよ、とりあえず今は見守りましょう」


 どこか納得がいかない里美だったが二人の意見も一理あると思ったので空から見守ることにした。

 そんなことをしている間も紅は大きな獲物目掛けて加速していく。


 その時だった。


 …………ドン、ドン、ドン。


 大きな足音に異変を感じたのか主の命令を受けたラグナロクが神災竜の足を止める為に突撃してくる。


 怪獣大決戦に負けない巨大な生物が大きな口を開けてお互いの肉を食い破る。


 がぶっ。


「この冷たさと感触。かき氷の材料としては最高級の氷だZEぇ☆彡」


「ウォォォォんッ」


 腹をかじられた痛みを感じる素振りを見せない男はそのまま口と両手でラグナロクを捕まえ来た道をユータンして走り始める。


「かき氷、かき氷、かき氷、かき氷♪」


 紅の頭は度重なる刺激にアドレナリンが過剰に分泌しておりラグナロクの反撃など蚊に刺された程度にしか感じない。


「いちご、いちご、いっちぃごぉあじぃー!」


 ドンドンと大きな巨体でお持ち帰りした紅はエリカたちが待つ気球の真下までやってきた。「ラグナロクぅ~!!!」と途中聞こえた悲しい声は残念ながら先ほどの里美の声と同じく紅の耳には聞こえない。


「エリカさん! シロップかけてください!」


 犬のように舌を出して尻尾をフリフリする神災竜は逃げようとするラグナロクをしっかりと掴んで離さない。


「かけてあげて……」


 どうしようか迷うエリカに里美が頭を抱えて言った。


「う、うん……」


 その言葉に迷いながらも今作ったシロップの蓋をあけて気球の上からラグナロクにかけるエリカ。


「いただきまぁーす!」


 ガブッ。

 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリゴックン!


 ラグナロクは体力尽きるまで貪られ天に帰り紅の腹が気持ち満たされる結果となった。

 神災竜の捕食する姿にドン引きした者たちの視線は里美たちだけでなく四方八方から寄せられたのだが紅はキラキラした眼で言う。


「この調子で喰うか!」


 と、どうやら紅の食欲が満たされるにはまだ沢山の生贄が必要だったらしく視界に入るモンスターを捕まえては食べ始めるのであった。

 こうしていく間もどんどんポイントが溜まっていき、巨体なだけあって食べる量が尋常じゃないことから事実上紅がラスボス枠として決定するのであった。


 イベント八日目――PVE解禁から一日目にして紅たちが持つポイントは二位の約四倍にあたる18524ポイントとなった。

 久しぶりの有り得ない展開の連発で本調子がでないながらも正攻法でプレイした二位グループの朱音たちが3997ポイントとその差は歴然であった。それでも一体あたり1~100ポイントが平均と言うことを考えれば順調と言える成績だ。


 776 名前:???


 まずい今回の神災は圧倒的過ぎる


 777 名前:???


 既に予想外の展開に全員が困惑してるな


 朱音たちがダントツで一位だろうという予想も外れたしな


 778 名前:???


 プレイヤー間のポイント受け渡しが意図的なkillで可能と考えた場合これは非常に厄介


 神災戦隊が持つグループポイントが分散する可能性がある


 779 名前:???


 今の神災戦隊――紅、里美、エリカ、マヤ癖があるメンバーだけど本当の神災戦隊――紅レッド(本人)、ブルー(本人)、イエロー(本人)で構成される本家で分散されるよりかは百倍マシだな


 780 名前:??? 


 ちょ……お前なぜこの状況で新しいフラグ立てた!?


 801 名前:???


 WATASI? NANIMOWARUKUNAIよね?


 802 名前:???


 おい現実逃避すんなや!


 PVE一日目が終わりようやく神災が落ち着いた頃、ある板は忙しく更新されるのであった。紅が動き出すまでが勝負の者たちの長い夜も今始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る