勇者パーティを追放された大魔導師、千年の時を経て復讐す
駄作ハル
上
「お前との冒険はここまでだ」
そう勇者のレイモンドが淡々と告げた。
「は……?」
「ファリス。お前をパーティから追放する」
「追放って……。ちょっと待ってくれよ! どういうことだ! 何の冗談だよ……!」
さっき飲まされた葡萄酒に薬を盛られていたらしく、身体が思うように動かない。
間もなく魔王との決戦だから決起会をやろうというレイモンドの誘いにまんまと乗せられたのだ。
「残念だけど、そういうことよファリス。貴方とはここでお別れなの」
「今までありがとうございました……。さようならファリスさん……」
時に厳しくも姉御肌でパーティを支えてくれた弓使いのアイリスも、兄のように俺を慕ってくれていた僧侶のリンすら俺を置いていくつもりなのか。
「お前は優秀な魔導師だ。だが『神託の書』をまだ半分しか解読出来ていないお前はこの先に行く資格はない」
「ちょっとダン、その言い方は……」
「はっきり言ってやった方がいい。お前は不要なのだとな」
戦士のダンは勘違いしている。そもそも人類はまだ『神託の書』を三分の一しか解読出来ていない。
世界最強と崇められた勇者パーティで冒険できたからこそ、俺は人類未踏の領域まで解読する手掛かりを全国各地で集められたのだ。
何とか弁明しようとするが、薬が回ってきたのか呂律が回らなくなってきていた。
「別れ際に長話はあまり好きじゃないんだ。リン、始めてくれ」
「はい、分かりました……」
レイモンドはいつものようにスカした白々しい笑顔を俺に向けつつ、リンに何か命じた。
リンはリーダーであるレイモンドに逆らえず、「ごめんなさい……ごめんなさい……」と繰り返し呟きながら俺に魔法を施している。
「ファリス。今リンがお前にかけている魔法は現代における最強の加護魔法だ。病気も、怪我も、空腹も無い。対象者はまるで時間が止まったかのようになる、通称『時止めの加護』。加護の代償として動けなくなってしまうから戦いなどには使えない、一見役に立たない魔法。だが近年そんな魔法にも使い道が見出された。優秀な魔導師であるお前には分かるな?」
ああ分かるさ。犯罪者への懲役刑にピッタリだと権力者の間で話題になっていた。
身体は動かないのに思考だけできる状態は犯罪者に反省を促すのに効果的だとな。
だがレイモンド、俺はもうひとつの側面も知っている。
たった三日この魔法を使うだけで人間は狂う。身体に密着した狭い箱に閉じ込められているのと変わらない状態は効果的に精神を破壊するため、軍部では拷問としても用いられている。
「ごめんなさいファリスさん……。ファリスさんには一万年かんの加護をかけました」
一万年!?
「まるで魔王の封印だな!」
「ちょっとダン!」
「おおっとすまねえ。……だが流石はリンだ。帝国の拷問官ですら一ヶ月分の加護しか付与出来ねぇのによ」
今から一万年、俺はこの薄暗い半地下の居酒屋跡に幽閉されるというのか!?
「それじゃあファリス。今まで楽しかったよ」
なんだよレイモンド! 口ではそう言って、本心では俺にこんなことをするぐらい恨んでいたんじゃないか!
「貴方ならきっと大丈夫と信じているわ。こうするしかない私達を許して……」
申し訳なく思っているから止めてくれよアイリス! お前がこのパーティの良識だろ!
「ごめんなさい……」
涙を浮かべるリン。
可哀想に、きっと彼女は脅されているに違いない! どうしてこんな非道な真似を彼女にやらせるんだ!
「じゃあな! 俺から言うことは何も無い!」
脳まで筋肉の筋肉バカが! お前がこの騒動の首謀者か? 前に武器も持てない俺の力のなさを馬鹿にしてたもんな。ずっと俺の事を見下していたんだろ!
待て、行くな! 話せば分かる!
悪かったことは謝る! 直すから言ってくれ!
待って! 行かないで!
そのドアを閉めないで!
待って……!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あとがき
お読み頂きありがとうございます!
よくある追放ざまぁ系じゃないかと思った方、是非最後までお読みください。
短編につき本日12時、15時に投稿する三話にて完結です。ブックマークしてお待ちください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます