俺がメッチャお気に入りの公園を謎の小国貴族のお嬢さまがディスって来たから理解らせた

三島千廣

日本を舐める某国お嬢さまを理解させてやったぜ

 とある昼下がりの公園。制服姿のままで、俺はくつろいでいた。お気に入りのベンチに腰かけて、自販機で買ったコーヒー飲料をちゅうちゅう啜っていると、いまのいままで元気よく遊んでいた、そのへんのガキどもが妙に静かになった。


「なんだァ?」

 と、思い入り口に目を向ける。そこには、どう考えてもこんな田舎の街にはふさわしくない黒光りするリムジンが音を立てて横付けされた。


「は?」

 手元からぽろりと缶が落ちる。薄茶色い中身がドバっと地面に広がった。ああ、まだ半分以上残っていたのに、もったいねえ。だが、俺が地面の染みになったコーヒーに気を取られているのもわずかな間であった。


「ほう。ここが、庶民どもが憩うといわれるておる公園かの!」

 リムジンから降り立った人物を目にした瞬間、お口があんぐり。そこには、この庶民的な公園には不釣り合いな軍服のようなミリタリファッションに身を包んだ銀髪の少女が瞳をきらきらさせてあたりを見回していた。


「ふむう! よいぞよいぞ。この立地といい遊具の錆びつき具合といい、規模のショボさといい、わらわが知りたいと思っていた小日本のすべてが詰まってそうなザ・公園じゃ! とくと見学させてもらうぞ!」


 なんというか、地域の祭りにガチ目でコスプレした外人さんがいる、あのなんとも気まずい雰囲気を想像してもらいたい。年齢は、高校生である俺と同じくらいなのだろうか、おおざっぱに十代後半だろう。女の年齢はパッと見ではよくわからん。


 着用しているのは軍服ロリータでもいえばいいのだろうか。頭には、軍人さんが被っている制帽が乗っており、ネイビーブルーのジャンパースカートが主で服のあっちこっちに銀色のド派手な刺繡がこれでもかと複雑怪奇に入れられているので、なんか高級そうだ。


 髪の毛は銀色で、ハッキリ言ってもの凄い美人である。雪のように白い肌に、碧の瞳があきらかに日本人じゃありません征服者の白人さまですというオーラを放っている。そのビスクドールのように整った容姿の少女が、この糞田舎の公園に降り立つ状況を考えてほしい。


 あ、ちなみに送迎のリムジンは少女を下ろすといずこかに走り去った。あの長さじゃ、この先のコーナーは狭すぎて曲がれないと思うんだがね。


「む。そこの、暇そうな男。名を名乗るがよい! 特別に直答を許そう!」

「あァ?」


 なんか、すげぇ偉そうでメッチャむかつくんだが。美少女であることは間違いないが、そう居丈高に出られると、こっちも素直には答えられないんだがね。


「人に名を聞くなら、まず自分が名乗ったらどうだ」

「ふむ。確かに、それもそうじゃの。わらわは、うむ、正直に国名を明かすことはできぬが、某国の大貴族ストラディ家の長女、リフィールである! 以後、そのように呼ぶがよいぞ!」


「はあ、なんかわからんが。俺は小桜ギンジ。普通の高校生だ」

「ほお、ほお、ほお! 歳は、歳は幾つじゃ! わらわは十六じゃ」

「俺も十六だ。タメってことだな」


「これは奇遇奇遇。実はじゃな、わらわは今度お家の明かせぬ事情があって某国から小日本の田舎都市に引っ越しを余儀なくされたのじゃ。それで、戯れに、このような冴えない街中を散策している最中での。ギンジとやら。今回は特別におぬしにわらわの案内役を務めさせてやろう。栄誉に思うがよい!」


 なんだァ、なんスかねえ。こいつは俺のお気に入りの休憩スポットを小馬鹿にしてくれちゃいやがってェ。


 と、思わんでもなかったが、近くで見るとこの自称某国のミリタリコスプレ系お嬢さまの可愛さがメチャ際立ってて、なにも言えなくなってしまう俺。


 彼女が近くに来ると、ふんわりとした甘いような匂いがふわふわとあたりを漂って、一部分が元気になりそうな予兆を感じてしまう。くそ、なにやってんだ。鎮まれ、俺の中のナニカ、鎮まってよ!


「ほう。ところでギンジ。おぬしはここでなにをしておるのじゃ? そもそも、小日本の公園とはなにをするところなのじゃ?」


「なにって、くつろいでいるだけさ。俺は、ガッコが終わった後、ここでのべーっとしながら雲でも眺めてのーんびり過ごすのが好きなんでねえ」


「ふむう。ならば、わらわもギンジに倣ってここでくつろいでみるとしうようかの!」


 そういうとリフィールはベンチの俺の隣にそっと腰を下ろした。そばによると、甘いような匂いが強く感じられる。フェロモンか、フェロモンなのか? とにかく、いまは俺の憩いの貴重な時間なのだ。余計なことに気を散らされる、現実を愉しまねば。


「ところでギンジ。小日本の公園はどこもこのように狭いのか?」

「ああ、そうだが」


「悲惨よのう。小日本もアメリカなんぞに負けてしもうたおかげで、このようなせまっ苦しい居住区に追いやられてしまう羽目になって。このような極小地域をわらわの国では公園とは呼ばぬ。せいぜい、犬ころの寝床じゃの。あははははっ!」


 そういうと、リフィールは真っ白な歯を見せて、心底楽しそうに笑ってみせた。ああ、はいはいはい。いかに阿呆な俺でもわかりますよ。我らが住まう、故郷日本がこの小娘に小馬鹿にされてしまっていることが。こうなると、この小桜ギンジの大和魂に火が付くのもいたしかたない。さあ、どうやって成敗しようか。


「ぬう。ギンジよ。わらわは、長時間のフライトで身体が凝ってしまったわ。いつもならば、専属のマリーに身体を揉んでもらうのだが、おまえでよい。特別じゃぞ?」


 そう言うと、リフィールはベンチに座ったまま、顎をくいっとやって、まるで下男に対するかのような態度で俺を促した。


「なんじゃ。察しの悪い男じゃの。わらわは肩を揉めと言うておるのじゃ。まったく、異国の下層民は言葉もロクすっぽ通じぬのか。これならば、ウチで飼ってるポチころのほうがお利口じゃぞ」


「……まあ、マッサージは自分得意なほうなんでね。リフィールさまがお望みとあらば、誠心誠意努めさせていただきますよ」


「なんじゃ。だったら、さっさとそうせい。まったく、どじでノロマじゃの」


 ゆらりと必殺の気を全身から立ち昇らせて俺は立った。なぁにがポチころだよ。ちょっとくれぇ、顔がよくて、おっぱいがパツパツでケツも意外にデカくて、むんむんエロスな塊みてぇなスタイルしてるからって、なんでも思い通りになると思うなよ。このどエロ外人が。日本人をなめんじゃねぇぞ。なめ、むうう、許さん!


 こうなったら理解わからせるしか手はねェよなあ!?


「……なんじゃ? マッサージならばこの場でよいぞ。あ、おい、引っ張るでない」


「なんじゃ、ここは。公園のトイレの裏? ここなら目立たない? なにを言っておるのじゃ。ちょ、待ったギンジ。目が怖いぞ。ひ……寄るな。ンはあっ? ちょ、こらっ、誰がそのようなところを揉めと……んおおっ……ちょっ、冗談もほどほどに……♡ ンおおっ……♡ ちょおおっ……♡」


「わ、だ、だめじゃ……♡ ん、んむうっ……♡ 胸は……凝って……おらぬうっ……♡ んほおおっ……♡ だめえ……♡ 先っぽ、つまんでェ……♡ こりこり、らめぇ……♡ まじ、まじ、だめだからァ……♡ ふ、服の上からで、こ? これ? え、ちょっと待つがよい……♡ だめ、だめえ……♡ ぶるぶるしないれえええっ……♡ あ、らめらめらめ、ホントにらめぇ! らめなのぉ……♡ シャツ脱がしちゃらめぇ……♡ 肩を、肩をォ、確かにそのふたつが重いから凝るのは道理なのじゃが……♡ ンほおおおっ……♡ すごっ、すごっ……♡ すごいのきたぁあああん……♡」 


 念入りなマッサージを行うこと三十分。俺はひと仕事終えたいい顔で、額に浮かんだ汗を手のひらでぬぐうと、元のベンチに戻りどっかと腰を下ろした。


 しばらくすると、衣服を乱したままのリフィールがはぁはぁと荒く息を弾ませながら公園トイレの裏からよろよろとした足取りで戻って来た。シャツはボタンが外れていて、純白の下着がチラリと覗く。僕は紳士なので、淑女が衣服を整える間は目を反らして空を仰いだ。嗚呼、あの青空の極みはいずこであろうのう。


「ふ、ふふふ」

 なんだ、壊れたか。


「ギンジ、おぬしやるのう。わらわもここまで情熱的なマッサージを本国でも受けたことはなかったわ。小日本とはいえ、侮っておったな。許せ」


 ぺこり、とリフィールがその場で頭を下げた。素直な子は嫌いじゃない。俺もやり過ぎたと若干反省している。にしても、頬まで桜色に染めてはぁはぁと発情した雌犬のように喘がれても困る。


 そして、思うのだがリフィールの位置がさっきよりも近くなっている。ぶっちゃけいうと、俺の肩にもたれかかり指先でのの字を書いている。やあ、マッサージひとつでここまで仲良くなれるなんて、不思議だなぁ(白目)


「のう。連絡先を交換してくれんかの。イヤとは言わせんぞお。わらわを拒否したら、国際問題になっちゃうかもぉ。ギンジも罪な男よのお」


 リフィールが尋常じゃない情念の籠った目つきで凝視して来るので、仕方なく連絡先を交換する。あとで着信拒否しておこう。


 とりあえずクールダウンしたかったので、一旦、その場にリフィールを放置して入り口の外にある自販機に向かう。ちなみに逃げると思われたのか、俺のスマホは没収されてしまった。疑り深いロリータファッションミリタリー娘だ(悪口)


「うはははっ。これは楽しいぞ、そら、もっと強く押さんか!」

 自販機で清涼飲料水を二本買って戻ると、そこにはブランコを占有して地域の子供たちに無理やり押させて悦に入るリフィールの姿があった。


 一見すると、外国人の綺麗なお姉ちゃんが近所の子供と楽しく遊んでいるようにも映るが、実際はブランコの押し係を無理やり押しつけられたのか、五歳くらいの男のふたりが涙目になっていた。


 あかんよなあ、いい歳したお姉ちゃんがちっちゃい子たちをいじめちゃあ……!


「お、ギンジか? このブランコというのは思った以上に爽快じゃな。しかも、小日本の年端も行かない児らにもわらわの偉大さを知らしめられて一石二鳥じゃ! 愉快愉快! ん、なんじゃ、その手に持っているのは。ほお、それが庶民が愛飲しているとされる庶民飲料じゃな! 普段ならば、そのようなもの貴きわらわが口にするはずもないが、今日だけは特別じゃ! ひと口だけ口を付けてやろう。ありがたく思うのじゃぞ。これはギンジだから特別なのじゃぞ(にちゃあ)お! どうした、その顔は」


「え? ずっとブランコに乗っていたから尻が痛くなっただろう? 阿呆じゃのう、ギンジは。そのくらいで豊満なわらわのしり、し……乙女の口からなんという淫猥なワードを言わせる気じゃ! あ、え? なんで、トイレの裏? ちょ、どうして(にへら)」


「お、ちょ、なんじゃ。その手つきは。わらわは、別にお尻など凝ってはいないのじゃが……♡ ああっ、いきなりっ。ちょっ、こんな屈辱的、屈辱的な格好……♡ ひいっ、そ、それ、指、すーっとするのやめぇ、くすぐったいのじゃあ……♡ え、凝っている? お尻って凝るものなのか? や、やあ、やめるのじゃあ……♡ だいたい、無礼すぎるぞお……♡ わらわのお尻は神聖不可避ィ……♡ はあっ、そんないきなりっ……♡ 揉んで、揉んでるのおおおおっ……♡ これしゅごしゅぎるぅう……♡ や、やらっ、ひどっ、叩く、叩くのらめえええっ……♡ これ癖になるううううっ……♡ スパンキングマッサージィい……♡ よやく、よやくぅううっ……♡ ギンジのすぺしゃるマッサージは、金輪際、わらわの予約ゥううう……♡ おほおおっ、変なこえでりゅのおおおっ……♡ やらあああっ……♡ とぶ、とびゅううっ……♡ 小日本の公園で理解らせられるううっ……♡ しぇ、しぇけんしらずでしたああっ……♡ これからはこのまちでえっ、おとなしく、メスブタとひてぇっ、くらしましゅからああ、わらわをもっといじめてぇえええん……♡」


 理解わからせ完了! 


 ちなみに、俺とリフィールの国家間を超えた優しい(意味不明)やり取りを見ていた近所のママさんグループが警察に通報したらしく赤色灯のお出ましと相成ったわけでござります。


 パトカーのけたたましいサイレンが聞こえた瞬間、俺は悶絶しているリフィールをその場において離脱に成功した。


 ――あ、チキショウ! あの公園、当分行けねえじゃんか。


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