フライドポテトの代償 〜小木津山・羽黒山・御岩山・高鈴山・真弓山・風神山〜

早里 懐

第1話

晩御飯で妻がフライドポテトを揚げた。


とてもカラッと上手に揚げたのだ。


いつもならば我先にとフライドポテトに群がる子供たちが昨晩は何故かあまり興味を示さなかった。


私は横目で見えた妻の寂しそうな表情に耐え切れず子供たちの代わりにフライドポテトを貪り食べた。


そんな私に対して冷ややかな目を向ける妻に気づいたのはフライドポテトを30本ほど貪った後であった。


私は横目で見えた妻の冷めた表情に耐え切れずフライドポテトからお味噌汁に箸を移し一口啜った。


私は妻が一生懸命に揚げたフライドポテトを子供たちの代わりに口一杯に頬張ることで妻の笑顔を見たかっただけなのだ。


しかし、結果はそう上手くはいかなかった。


妻は子供たちのためにフライドポテトを揚げたのだ。


私のためではない。


そんな私がフライドポテトを口一杯に頬張っても妻は喜ばないのだ…。



あれ、まてよ。


しまった…。


妻を喜ばせようとしたばかりに、目尻の皺が自己主張をしだした年の私がフライドポテトを口一杯に頬張ってしまった。


基礎代謝が年々落ちてきている。


それなのにこんなにも高カロリーのフライドポテトをたらふく食べてしまった。


もう今更後戻りはできない。


全て吐き出すわけにもいかない…。



そうだ。歩こう。


山を長い距離歩こう。



〜翌日〜



ということで今日は日立アルプスをトレイルすることにした。


要するに日立アルプストレイルだ。


小木津駅付近のコインパーキングに車を停めて出発した。


今にも幽霊が出そうなトンネルをくぐり、まずは小木津山を目指して小木津山自然公園内を歩く。


急登はなく誰でも登れる散策路のような道だ。


小木津山からは日立の街並みが一望できる。


街の灯りがとても綺麗だった。


次に羽黒山へ向かった。


羽黒山へは樹林帯歩きとなり、所々急な登りがある。


しかし、まだまだ元気だハイペースで登っていく。


しばらくすると朝日が昇り辺りが明るくなってきた。


少し雪がちらついているが、登りが続いているため汗だくだ。


インナーを脱ぎ捨て、眺望がない羽黒山山頂を素通りし、神峰山を目指した。


神峰山の頂上は眺望がとてもよい。


しかし、ハートの池の水は相変わらず死んでいた。残念だ。


ここから高鈴山までは少し前に歩いたためコースは把握している。


多少のアップダウンがあるが距離はあまりないため、休憩もそこそこにして出発した。


御岩山、高鈴山を超えるといよいよ私にとっては未知の領域だ。


ここからは、とても長い樹林帯歩きが始まった。


この長い樹林帯が終わると急に車道と合流する。


その後は一部ゴルフ場内の道路を歩くことになる。


朝早い時間だが、多くのゴルファーがプレイしていた。


ゴルファーもハイカーと同じで朝が早い。


その後は再度、静かな樹林帯歩きになる。


ここまでくるとコースはとてもなだらかになる。


両足のふくらはぎの筋繊維がすでにズタボロになっている私にとってはとてもありがたい。


真弓山手前では工事用道路と合流する。


ちなみにこの道路は石灰なのか、砂が真っ白だ。ダンプが通るとその白い粉が舞い上がり非常に厄介な道路だ。


私は3台のダンプとすれ違ったがその度にマスクで口を覆った。


この工事用道路をしばらく歩くとトレイルコースとの分岐にぶつかる。


そこから真弓山まではすぐだ。


真弓山からは筑波連山が見える。


あの山々もいつか縦走したいと思いながら、日立アルプストレイル最後の山となる風神山を目指す。


この辺りでは数名のハイカーとすれ違った。


歩きやすさやアクセスの良さから人気の山であることが伺える。


風神山までもアップダウンはあまりない樹林帯歩きだ。


ここまで来ると、両足の太ももの筋繊維までもがすでにズタボロだ。


しかし、歩かねば妻さんが待つ家に帰れない。なりふり構わず歩き続けた。



やっとの思いで風神山の頂上に着いたが眺望はなかった。


少し残念であったが、ここで軽食を済ませ下山した。


下山後は小木津駅まで電車で帰るため、一般道を大甕駅まで歩いた。


本日はとても長い山行だった。


おそらく、私の人生の中で1日でこんなに歩いた日はないだろう。


大甕駅からは電車に揺られ小木津駅まで向かった。


久しぶりの電車でウキウキしていた。


しかし、その道中にふと恐ろしいことが頭をよぎった。


あれ、まてよ。


そう言えばこの前、有名なお笑い芸人がカロリーは110℃までしか耐えられないから、揚げ物は基本的に0カロリーだと言っていた。


つまりは昨晩私が食べたフライドポテトも0カロリーだったのではないか!?


今日は両足の筋繊維がこんなにもズタボロになるまで歩く必要はなかったのか…。


私は、帰り道でフライドポテトを貪り食うことにした。

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