第5話 中学の同窓会の知らせ

あの日以降に受けたいじめはたしかにつらかった。

あれ以来学校に行くのが怖くなってしまった。


でも、いじめを招いたのはのぞきをやった自分であるのは間違いない。

思春期真っただ中だった円香は一番恥ずかしい姿を見られて深く傷ついたはずだ。

もう11年たったけど、現在の彼女はどう思っているんだろう?

願わくば、会って謝りたい。

11年間考えてきたのはそればかりである。


そう思いつつも、例のごとく11年前の円香の脱糞を脳内でリプレイしてのオナニーを自宅のトイレで済ませた高木はため息をついた。


トイレから出てゲームでもしようと自分の部屋に戻る前、玄関からサンダルを履いて外に出て郵便受けをのぞいた。

両親は共働きで家にいないので日中は高木一人なのだが、郵便受けから郵便物をとってくるのが彼のこの家での唯一の仕事となっていたのである。

郵便物はほぼ父か母宛で、高木宛のものはほとんど何か商品やサービスを宣伝するダイレクトメールだったのだが、この日は違った。


数枚あった郵便物の中に往復はがきがあり、その文面を見て高木はハッとなる。


それは「O市立北中学校三年七組平成24年度卒業生同窓会」のお知らせだったのだ。


忘れもしない一学期に満たない期間しかいなかったあの三年七組のことだ。

そこには季節のあいさつに続いて、会場の居酒屋の場所や受付・開宴時間などの案内があったのだが、その横の返事の送り先の名前を見た高木は何年も感じたことのなかったうれしい驚きを感じざるを得なかった。


『 船津円香 行』


この十年以上の間、何度この四文字の人名が頭に浮かんだことだろう。

何度会って謝りたいと思ったことだろう。

でも許してくれなかったら、と思うとこちらから連絡をすることができなかった。


学校へ行かなくなってから同級生の誰とも連絡をとっていなかったから円香がその後どうなっているかは分からなかったが、こうして同窓会の連絡窓口になっているのだから学校に復帰して無事卒業したようだ。


そして同窓会に招いてくれている以上、自分のことを許してくれているのではないだろうか。


あの過ちは人生における一番大きな忘れ物だったが、その忘れ物が向こうから帰って来たような気分である。


今度こそ、あの時のことを正式に謝ろう。

そうすればこのニート生活も終わりにして、やり直すことができそうな気がした。


同窓会の会場は市内だし、いつもヒマだから何日の何時だって行ける。


こんなにうれしいことはあの中学三年生の五月以来全くない。

もちろん参加するつもりだ。


高木は喜び勇んで出席の返事を書こうと往復はがきを裏返す。

そして返信面を見た結果、今の円香が高木のことをどう思っているかを大いに悟ることになる。


何と『高木泰助 様』の「様」の字と、『ご出席』の部分が塗りつぶされ、『ご欠席』に〇が明確に記されているではないか!


円香は高木を許していなかった。


特に『ご欠席』に幾重も〇がグルグル書かれている所に女の恨みの深さを感じる。

同窓会のお知らせを出さないだけならともかく、わざわざ同窓会への出席を断固拒絶する意思表示を示してきたのだ。


高木は完全に打ちのめされた。

それはもう何もする気は起きず、社会復帰どころか生きる気力すら失われたような気がしたほどだった。

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