第10話 聡の嘘

 私たちの会は、なんとなく雰囲気が悪くなっていったの。誰のせいかわかるわよね。そう、あの3人グループのせい。


 いつも、沙由里と莉子が聡と話すと、2人の間にバチバチと火花が飛ぶ。やめて欲しいわよね。聡も、しっかりと仕切ってよ。ある会で、とうとう喧嘩になっちゃったの。


「沙由里、いつも、聡にちょっかい出しているけど、聡、困ってるじゃない。やめてよね。」

「何言ってるの。それは莉子の方でしょ。莉子って、聡のことが好きなんじゃなくて、聡の子供が欲しいっていうことなんでしょ。聞いたわよ。遺伝子が欲しだけなんだって。それなら、聡の精子だけ、嫌だけどあげるから、消えてよね。」

「子供が欲しいって、結婚したいってことよ。何が悪いの。あなたは、一方的に聡が好きなだけで、聡がどう思ってるかなんて考えたことないでしょ。聡が迷惑がっているのわからないの。」

「そんなことない。これまで黙ってたけど、私は、聡とロンドンに旅行に行ったのよ。そして、思い出の夜を幾晩も過ごしたの。分かったでしょ。あなたは、聡の眼中にないのよ。」

「嘘つき。私は、聡とスペインに旅行に行ったのよ。もちろん、エッチもした。よくも、そんな嘘つけるわね。女性という前に、人間として、どうかと思うわ。」

「聡、言ってあげてよ。私は、一緒にロンドンに行ったわよね。」

「聡、私が、一緒にスペインに行って、沙由里は嘘言っているのよね。はっきり言ってあげて。」

「まあ、まあ、落ち着いて。僕からは、どちらが嘘言っているかなんて言って、傷つけられないよ。」


 ずるい言い方。2人からは、相手が嘘言っていて、そう言うと傷つくって風に聞こえるじゃない。多分、両方と行ってるんでしょ。そろそろ、どちらか選ばないと。


 この後、2人は、相手の髪の毛を掴み、取っ組み合いの喧嘩になった。やめてよね。


「ねえ、もうそろそろあの3人は退会にしない。」

「そうすべきとは思うけど、そこまでの強制力はないし。自分でやめるっていってくれると助かるな。」

「最初から、あの3人、この会にふさわしくなかったのよ。この4人で別の会を立ち上げて、この会から出ていく?」

「それもあるけど、まあ、そんなに遠くないうちに出ていくんじゃないかな。」

「そうかしら。」


 私は、東大の出身者名簿で聡を調べてみた。どこの学部なの? そしたら7年ぐらいみても出てこないじゃないの。あれ、経歴詐称? そんなことってある? 検索の時に文字を間違えたんじゃないかって3回も確認しちゃった。でも出てこない。

 

 そこで、次は、ハッキングのスキルを使って、聡の仕事について調べてみたの。そしたら不思議なことに、聡が言っていたプロジェクトの推進者名簿に聡の名前が出てこない。どうしてだろう? さらに聡の会社の社員名簿にアクセスしてみても出てこない。


 これは詐欺ね。商社マンでなくて、東大出身者でもない、そうだったら、沙由里も莉子も、怒って、聡のこと突き放すに違いない。そこで、莉子に匿名で、プロジェクトの名簿と社員名簿を送っておいた。


 でも、品が悪い人ってお互いに集まるものなのね。私も騙されたけど、聡って嘘つきだし、沙由里も莉子も、なんか貧乏な家の出って感じで、のし上がるのに必死って感じだもの。そんなんだから騙されるのよ。


 いずれにしても、これで、私たちの会にも平穏が訪れるはず。


 私が手を上げて次の飲み会は開催された。健斗とかは、どうして開催するのって不思議そうだったけど、そうしたら、案の定、莉子が話し始めたの。


「ねえ、私、聡が働いているっていう商社の都市開発プロジェクトのメンバー表を知り合いから取り寄せたんだけど、聡の名前はなかった。どうしてなの?」

「そんなこと調べたんだ。うちの商社は大きいから、別の都市開発プロジェクトじゃないかな?」

「そう思って、商社の社員名簿も調べたんだけど、あなたの名前はなかった。どうなってるの?」

「どうして、そんな情報を持ってるんだ?」

「そこが問題じゃないでしょ。どうなの? あなたは商社マンなの?」

「バレちゃ、しょうがないな。僕はその商社の社員じゃなくて、日頃は、図書館で司書をしてるんだ。商社マンだというとモテるかなって軽い気持ちだったんだけど、今更、違うって言い出しにくくて。」

「じゃあ、東大出身というのも嘘なの?」

「ごめん。」

「ひどい。商社とか東大出身とか、そんなことで好きになったんじゃないけど、私にとっては大切なことだったのに。」

「やっぱり、莉子は、それが欲しかったのね。でも、私も、そんな嘘つく人はこちらからお払い箱よ。最近、少し変じゃないかって思ってたの。聡って、なんか薄っぺらいし。もう、この会からは離脱するわ。散々、会の雰囲気を悪くしてごめんなさい。莉子は、もう聡のこと関心ないと思うけど、まだ考えているんだったら、あげるわ。じゃあね。」

「私も、こんな嘘つきなんていらない。みなさん、みっともない所を見せちゃって、ごめんなさい。さようなら。」


 目の前から2人は消えた。同期モードのスイッチを消したんだと思う。聡は、これからもいていいかなって、恥じらいもなく言うもんだから、消えてくれって4人全員が言って、残念そうに消えていった。


 多分、別の会に性懲りもなく参加して、同じことするんだろうね。私はブロックしたけど、ネットの運営組織に通報しておこうかな。でも、後で、逆恨みとかされても怖いし、このままでいいか。


 その時、部屋に1人きりとなった莉子は、目に涙をいっぱい溜めていた。やっと、見つけた人だったのに。でも、早く分かってよかったのかも。あの社員名簿とか送ってきた人って、誰だったんだろう。


 私は、初めて男性からチヤホヤされて浮かれていたんだと思う。でも、いいきっかけだったのよね。だって、昔のままなら、ずっと、日陰で過ごして、下ばっかり向いているままで、おばさんになっていたもの。


 私は、もう地味なおばさんじゃない。こんなに綺麗になれた。自分に自信を持てた。その点では、聡にお礼をしてもいい。そして、これからは、男性のことをもっと疑って、慎重に付き合えば大丈夫。


 私は、昔は恥ずかしくて、男性の顔も見れなかったけど、初めても卒業したし、男性の気持ちもわかるようになったと思う。だから、ちゃんと顔を見て男性と話せるもの。


 昔だったら、男性が手を握ってきたら、手を振り払っていたと思う。男性も、そんな未経験の女性なんて嫌でしょ。今だったら、一緒に手もつなげるし、はぐだってできる。もちろん、ちゃんとしたお付き合いになれば夜を一緒に過ごすことだってできる。


 明日には、別の会に出てみよう。大丈夫、きっと、多くの男性が私のこときれいって言ってくれるはず。自分に自信があれば輝ける。まだ若いんだから、焦る必要はないの。じっくり、自分にふさわしい男性を選べばいい。


 私は、それなりにお金は持っているし、自立している。そして、上品に振る舞える。そんな私を好きになってくれる人は絶対いるはず。


 聡のことは全て忘れ、明るい将来を夢見て、莉子は眠りに落ちた。


 一方、沙由里は、久しぶりに男友達に、今夜どうって連絡していた。でも、このところ聡と付き合っていて、他の男性からの誘いは断っていたから、いずれも男性からも、連絡が来るって思ってなかったから今夜は無理との返事がきた。


 男性に頼ってばかりいる私がいけないのね。でも、それしか生き方、分からないし。私の人生って、どこで間違っちゃったんだろう。多分、自慢できる良さとかを磨いてこなかったからよね。楽な方に逃げていたんだと思う。


 でも、仕方がないじゃないの。私に、多くの男性が声をかけてくれて、それに笑顔で接していれば、楽しく過ごせたんだもの。それで、朝までずっと包み込んでくれて、幸せを感じられたんだもの。


 そんな時に、仕事とか資格取得のための勉強とかに時間を使うなんてもったいない。資格とか取得して、35歳とかから、さあ、男性に来てほしいと思っても、おばさんになってるからもう来ないって。


 勉強は35歳からでもできるし、結婚とかして、仕事をせずに家にいれば、たっぷりと勉強はできる。だから、時間の使い方は間違っていない。


 私の良さは、この顔とスタイル。それを使って、何が悪いの。そう、悪いのは、嘘つきの聡。私は、騙されただけ。被害者なの。だから、もっといい男性を見つけるしかない。そのために、今日は、一人でも、仕方がないわ。聡のせいだもの。


 そう強がってみたけど、誰もいない寒々とした布団に入るのは嫌。だって、寂しいもの。部屋には、ピンクのぬいぐるみとか、可愛いものが溢れてる。でも、みんな、私を刺々しい目で見てる。みんな、私のこと冷たい目で睨んでる。


 あなたは、自分がないから、男性も認めてくれないんじゃないかって。可愛いんだったら、ウサギとか他にもいっぱいある。あなたは人間なんでしょ。男性から見て、あなたの話しに興味が湧き、一緒に話して得るものがある間柄だと、あなたに惚れるんじゃないって。


 そんな目で、私を見ないでよ。私だって、わかってるの。何もできない女性なんだって。でも、仕方がないじゃない。もう、今から生き方を変えられないんだから。


 沙由里は、寒々とした布団に入り、久しぶりに男性の暖かい肌が欲しくてたまらない夜を過ごした。

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