第2話 肩にちっちゃい重機乗せてんのかーい!

確認のために、自分の腹を見てみる。そこには、だらしなく垂れ下がった怠惰の塊、、、ではなく、うっすら割れている腹筋と、下を見るのは許さないぞとばかりの立派な胸筋があった。もちろん、中坊の時のようなガリガリ故に割れている腹筋ではなく、健康的に引き締まった体が。そこで少なくとも以前の自分の体ではないと再確認した俺に先程の金髪ガールがたたみかけた。


「ねぇ、ちょっと!ペイン!聞いてるの?」


そうやって金髪ガールがふくれっつらになる。


「ぇ、、ぃや、ぅ、聞いてるよ。」


 どもってしまう俺を許してくれ。何分家族以外の人と話すのが久しぶりなんだ。


「ゅ、夢は、特に、ない。」


社会人から、畳み掛けてくるような喋り方が苦手になった。まるで自分が責められているようで、もっと頑張れと言われているようで。ただまあ今のやり取りで1つ分かったことがある。俺はこの世界の言語を普通に喋れるし、理解出来る。まるでここで生まれ、育ったかのように。当然この子の質問にも答えることができる。ってしまう俺を許してくれ。何分家族以外の人と話すのが久しぶりなんだ。


「うーん、そっか。でも、いいじゃん!ここから私たちには無限の可能性があるんだから!今まで育ってきたこの村を離れるのはちょっと辛いけど、私たちなら王都でも、きっと上手くいくよ!」


いいな、この子の明るさ。俺も小さい頃こんな子かいたら、あんな自堕落になんなかったのかなあ、そんなわけないか。それは考えすぎたな。きっと俺は変わらなかったろう。会社から逃げ、親との対話から逃げ、逃げに逃げ続けて、最後には、、、。たぶん俺は殺されたんだろう。あれが、終わり。あれで、終わり。悔いなんてものは残っちゃあ居ないし、戻りたいなんて思うわけは無いが、、、。


「もうー。さっきからだんまりばっか。今日のペイン、なんか変だよ?まだ私がスキルの事馬鹿にした事、怒ってるの?ごめんって、言ったじゃん。」


少女のジト目を見た俺は、急いで弁解する。


「いや、違うんだ、です。なんかちょっと、体調悪くて。」


「もー、ペイン。3ヶ月前の出発の日も同じこと言ってたよ。ここから離れたくないのは分かるけど、明日の定期馬車を逃したら、次は1年後になっちゃう。この孤児院にはお世辞にもお金があるとはいえないし、私たちがこれ以上いると、ここに迷惑がかかっちゃう。」


早口でまくし立てる少女。どうやら出発は明日らしい。というのだけは理解出来た。困った、この世界のことはまだ理解していないし、第1まだなんの準備もできて無いぞ。


「今日はママがうんとおいもを使ったシチューを作ってくれるみたいだし、もう行こうよ、ペイン!」


そういって走り出す少女、その背中を追いながら、俺は少女が気になるセリフを吐いたのを思い出し、走りゆく背中へと喋りかけた。


「まった。って、なんだ?」




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