不動産職員が言うには「超一級品のオススメしない事故物件です…。ですが一月の家賃千円でなら紹介するのも吝かでは有りません」そんな不気味な物件に僕は飛び込んでみる…。住み着いていたのは美少女座敷童子だった

ALC

第1話座敷童子との同棲生活が始まる

「出ていけ!救いようのない穀潰しが!二度と面を見せるんじゃあねぇー!」

ある仄暗い夜のことだった。

どうやら両親は病気の果に亡くなったらしい。

両親が亡くなったというのに感情が希薄過ぎるように感じることだろう。

病気になる前までニートの僕に毎日のように世話を焼いてくれた母親。

引きこもっていた僕に何一つとして説教のようなものをしなかった父親。

そんな大事な二人が亡くなったというのに…。

今の僕には何も感じることが出来ない。

感情や心というものを失いつつある。

完全に失くすことなど出来ないだろうが…。

そういった類の感情は殆ど消え失せていると言っても過言ではない。

血肉を分けた兄弟たちの僕を見る目は憎き相手を視線だけで射殺すようなものだった。

両親が亡くなり葬儀が済んだのか。

僕はこの家から追い出されることが決定した瞬間だった。

スマホや荷物の一つ持つことも許されず僕は家を追い出されてしまう。

友人やましてや恋人がいるわけもなく。

僕は行く宛もなく寒さを凌げる場所を追い求めた。

結果から言えば公園の土管の中や川に掛かる橋の下で数日間を過ごした。

だが流石に屋根の無い暮らしはニートには苦しすぎる。

殆ど転がり込むような形で僕は不動産屋の扉を叩いた。

「はいはい。なるほどね。ニートね。両親が亡くなって兄弟に家を追い出されたと。まぁ普通ならそんな人に紹介できる物件なんて無いんだけどね。だけど…うちには一つだけとっておきがあるんだよ。超一級品のオススメしない事故物件です…。ですが一月の家賃千円でなら紹介するのも吝かでは有りません」

不動産職員は重苦しい表情を浮かべて少々困っているようだった。

「そこで…良いです。僕には千円を稼ぐのだって…出来るかわからないんですから」

「うんうん。そうだね。ニートなんだもんね。でも良いよ。千円だから。好きに住んでくれると助かるよ。もしも払える時が来たら…まとめて家賃を払ってくれたら良いから」

「ですか…僕に好都合すぎる条件だと思うのですが…」

「そんなことないよ。行ってみたら分かる。どんな霊媒師もお手上げの物件でさ。過去に住んでいた人も居るんだけど…皆、不幸が続いたとか…気味の悪い現象が起きたとかで…もう誰にもオススメできないで手に余っていた物件なんだ。内見に立ち会いたくもないから。鍵を渡すよ。もう入居していいからね。じゃあ」

不動産職員の言葉に従って僕はマンションまでの地図を確認した。

そこから歩いて向かうこと数十分。

見えてきたマンションのオートロックを解除するとエレベーターへと乗り込んだ。

目的階である四階に到着すると404号室の鍵を開けた。

中に入っていくがこれと言って不気味な気配は感じない。

部屋中を見て回ったのだが…。

この行動も全て無意味だと察する。

僕には他に行く場所など存在しない。

何があってもここに住むしか無いのだ。

そうして時が進むこと数時間。

完全に日が落ちた夜のことだった。

カタカタと子供が歩き回るような音が聞こえてきたかと思うと僕は眠りから目を覚ます。

昼寝を決め込んでいた僕も流石に物音が聞こえてきて目を覚ますこととなった。

「誰…」

殆どの感情が消え失せている僕でも多少の恐怖のようなものを感じたのかもしれない。

「新しい人…」

奥の和室から誰かの声が聞こえたような気がする。

そちらへと足を向けて歩き出すと再び声が聞こえた。

「待って。入らないで」

ゴクリとつばを飲むと足を止めた。

「少し質問させて」

相手は僕を試すようで短い言葉を口にする。

「どうしてここに住むことになったの?」

答えて良いのか分からないが僕は辺りを確認していた。

「早く答えて。ここに住むに値する人間か…知りたいの」

「僕は…ニートで…両親が亡くなった後に兄弟に家を追い出された。救いようのない穀潰しだと言われました。僕に住む権利があるかは…分からないですが…」

「なるほど。今までの人とは違うんだね」

「どういうことでしょう?」

「今までの人は肝試し感覚で住む事を決めたみたいだよ。だからお望み通りの事を色々としてあげた。でも君は本当に困っているようだね」

「困っているのも自分の行いのせいなのですが…」

「関係ないよ。今までの君はたまたま不幸が続いていただけだよ。でも私と住めば…君は幸福になれると約束するよ」

「………」

「胡散臭く聞こえるかな?良いよ。部屋に入っても」

その言葉に頷くと僕は再び歩を進めた。

和室の引き戸を開けると中で待っていたのは…。

着物を来た美少女だった。

「私は…座敷童子だよ」

「座敷童子は家内繁栄の神様じゃなかったかな…」

「妖怪って言う人も居るみたいだけど…君は神様だって思ってくれるの?」

「もちろん。眼の前にして神々しさを感じます」

「ふふっ。心のきれいな素直な人間なんだね」

「そうでしょうか…」

「うん。私は気に入ったよ。君ならここに住んで良い。名前は?」

元気もときって言います。よろしくお願いします。僕は何と呼べば?」

「分かった。何でも良いけど…何となくわかって呼んでほしいかも」

「わかりました。若で良いんですね」

「うん。良い響き。これからよろしくね?元気」

「はい。こちらこそ」

そうして家を追い出されたニートの僕が這い上がり幸福を掴み取る日々はこれから始まろうとしているのであった。


もちろん、幸福の殆どの要因は座敷童子である若の御蔭でもあるのだが。

僕が毎日大事にしている御蔭でもある。

そんな僕と家内繁栄の神様である座敷童子の若との同棲生活が始まろうとしていた。

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