そっくりな男

滝口アルファ

そっくりな男

俺はひとりでバスを待っていた。

典型的な冬晴れで、

日差しが暖かかった。

この空間に、

春がじわじわと染み込んで来ているのだろうか。


俺はひとりでバスを待っていた。

先日マッチングアプリで知り合った女性(たぶん)と、

駅前で初デートの待ち合わせをしているのだ。


(どんな人だろう。

うまく喋れるだろうか。)


そんなことをぼんやりと考えていると、

目の前をひとりの男が通り過ぎた。

通り過ぎる瞬間、

俺のほうを見て、

不気味な笑みを浮かべたのだ。

そしてそのまま

すたすたと歩き去っていった。


俺は驚いた。

なぜなら、

その男が俺にそっくりだったからだ。

俺は思った。

(いったい、

今の男は何者だろう?

よりにもよって、

この俺にそっくりなあの男は?

うーん。

もしかしたら、

産まれたときに生き別れた双子の兄弟とか、

あるいは、

俺のクローン人間とか、

もしくは、

俺のドッペルゲンガーとか…。

しかし、

そんな非現実的なことが

いきなり起きるものだろうか。)


俺がそんなふうに

考えを巡らせていると、

LINEが来た。

スマホを見ると、

「ごめんなさい。

今日のデートは無かったことにしてください。

本当に、ごめんなさい。

さようなら。」


まさか、

1回も会っていない人に振られるとは!

すると、

さっきの俺にそっくりな男は、

この喜ばしくない出来事を

事前に告げに来た、

不吉な使者だったのだろうか。


俺の中では、

笑いたいような泣きたいような気持ちと、

怒りたいような許したいような気持ちが渦巻いていた。


冬の青空が、

まだ発見されていない惑星の空のように、

綺麗だった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

そっくりな男 滝口アルファ @971475

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ