第8話

         一章


     マリちゃんとドライブ


         その①


 幽霊少女マリと自販機広場で翌日のドライブの約束を交わし俺と弐狼は帰路に着く。

 孫を見送るおばあちゃんの様にいつまでも手を振る律儀な幽霊と、まんま子供な助手席の親友が名残惜しそうに窓に貼り付きマリを見つめ続け手を振り返す。

 ふと、あの場所に置いて来て良かったのかと躊躇い引き返そうかとも思ったが、あの場所で暮らして居るなら大丈夫なんだろう。


 「なあマリちゃん2年もあそこなんだよな。

あんな淋しいトコでよお、俺なら遠吠えが止まらねーぜ。明日から責めて夜が明けるまで一緒に居てやろーぜ?オマエなんてどうせ家でゲームするか小説読んでるだけなんだから、有意義にやろーぜ?俺みたいによぉ」


 他人ひとから貰ってばかりの人生のドコが有意義なのかと思ったが、半分ケモノなコイツならではの処世術なのだ。コミュりょく

高めではあるがそんな生き方俺に勧めるんじゃない!

なぜこんな正反対の生き物とフレンズなのか自分でもたまに分からなくなるが、コイツのおかげで陰キャ気味の俺もそこそこ知り合いは多い。セットで扱われがちなのは不本意だが。


 その後ラーメン!ラーメン!と卑しくせがむ弐狼をお預けモードにして奴の巣であるマンション前で降ろすと開放感と同時にドシッと疲労感が伸し掛かって来た。はっ、とミラーを確認したが幽霊の姿は無い。でもずっと遠くから見られている、と言うより想われているむず痒さに今夜の出来事を思い出し急に恥ずかしさが込み上げる。別に女の子のパンツを見てしまったからじゃ無い。…やっぱ気にしてるのかな?明日謝っとくか。家路についた俺は熱めのシャワーで疲れとモヤモヤを洗い流しベッドに倒れ込んで意識を手放した。


 翌日、目を覚ますと日が傾いていた。最初は朝かと思ったが良く見たら時刻がPMなので驚いたが、これぞ俺の黄金週間と自分を取り戻した充実感に浸りながら晩餐を軽く済ませた。母さんが何か色々言っていた様だがボーッとしていて良く覚えていない。覚えていないという事はどうでも良いことだろう。親父と一緒にテレビに興じていると母さんの「女の子を産めば良かった…」といつもの愚痴が聞こえて来る。

なんだよ、片付け手伝ったじゃん。


 暫くして弐狼から電話が有り、おお!と大事な予定を思い出した。

 いつものマンション前に着くといつにも増して可笑しな格好をした弐狼が


 「オイオイ、オマエ女の子とデートなのになんでそんな地味なんだよ?カーッ!コレだから、気遣いの出来ない陰キャは!」


 と大袈裟にディスって来る。いや、オマエの格好で他人ひとの事言えるのかと改めて頭のてっぺんから爪先まで見渡すと酷いセンスに目が眩む。


 いつも以上のボサボサヘアーにグラサンを突き刺し、背中にWOLFと書かれたジャケットにボロボロのジーンズ。極めつけは異常に尖った真っ赤な革靴。ドコで買ったんだろう。


 約束の自販機広場に着くとマリが盛大に手を振り迎えてくれた。早速弐狼が駆け寄りマリの前にお座りして何かお菓子を貰っている。


 「あの、昨日はその、悪かったな?わざとじゃ無いんだ。不可抗力っていうか事故みたいな物なんだ。やましい気持ちは全然ないから!」

 俺が唐突に切り出すと


 マリは最初キョトンとしたが、直ぐに真っ赤になって頭を沸騰させて

 「こっ!コチラこそお見苦しい物を!あ、あの事は全然気にしてませんヨ?ええ、気にしてませんとも!」


 やっぱ相当気にしてるみたいだな。パンツの事には触れないで置こう。


 「コイツまた人から餌せびりやがって!悪いないつもこうなんだ。いい加減キチンと躾ないとダメなんだが男の言う事全然聞かねーんだわ。

処でそのお菓子どうしたんだ?」


 やらねーぞ?とマリから貰ったお菓子を貪る弐狼を横目で睨みマリに尋ねる。


 「ああ、コレお供え物なんです。親切な人が時々お花と一緒に現場に持って来てくれるんです。本当はちゃんとお礼言わなきゃいけないんですけど、出て行くとびっくりさせちゃうから…」


 2年も経ってるのにまだ献花してくれる人が居るなんてこの娘やっぱり愛されてるんだなぁ。益々ちゃんと成仏させてやらないと、という気持ちが強く込み上げる。


 「処でよぉ、ドコ行くんだ?」


 「知らん」


 ワクワクしながら尋ねる弐狼に俺はキリッ!として答えた。


 「おまっ!ちょっ、デートプランくらい考えて来いよォー!この童貞ヤロウがァーッ!」


 オマエだろ一生童貞は。ことごとく女の子から逃げられてるクセに。吠える弐狼を華麗にスルーし、マリに振ってみる。


 「なあ、どこか走ってみたいとこあるか?なんなら空海スカイライン往復チョイ攻めでもいいぜ?」


 ちょっと格好付けて言ってみる。俺だって年頃の男だ、カワイイ女の子の前でいい格好してみたいと思う事もあるし。俺の提案に


 「あ、ソレ凄くイイですね!わたし太助さんが走ってるのずっと見てたんですけど、凄く上手だなあ隣で教えて欲しいなって思ってたんです。わたしヘタッピなのに調子に乗っちゃって…空は飛べる様になりましたが。」


 「なんかスキルが色々増えてそうだけど今更ドラテク覚えて意味あるのか?免許も失効してるだろ。俺的にはこっちが特殊スキル習得したいんだが。」


 「そーですね、やはり満足度ですかね?こう、ゲージがMAXになれば天に向かってバビューンって一気に逝けるかも。」


 そのプランだとあの世じゃなくて大気圏外に放出されて考えるのを止める事になりそうなんだが、マリの幸せゲージを満タンにするのは最適解だ。俺の幸福度は微妙な事になってしまってるが成仏が成功すれば満たされるだろう。


 「じゃあちょっと走って来るから弐狼はここで大人しく待っててくれ。いいか?もし誰か来ても餌をねだっちゃダメだからな?暇だからってウロウロして迷子になるんじゃないぞ。分かったか?」


 俺は自販機でロング缶のMAXコーヒーを買って弐狼に手渡し言い聞かせる。


 「弐狼さんごめんなさい。太助さんお借りしますね?あとでいっぱい遊んであげるからお留守番宜しくです。」


 どうぞ、とマリを助手席に乗せ

 

 「太助ー!後で全部乗せラーメンだからなー!ドチクショォー!」


 ワオーン!と遠吠えする弐狼を残し上りの料金所目指して発車した。


 車内には女の子のイイ匂いがほんのり香り、今頃になってめっちゃ恥ずかしくなって来た。


    畜生、悪かったなDTで!

 う〜ん、幽霊でも女の子ってイイ匂いなんだなぁ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る