第7話

         一章


     マリちゃんとこんばんは

         

         その⑥


 「ドライブ?なんか行きたい所でもあるのか?付き合ってた人との想い出の場所とか」


 「いえいえそんな恋人なんて!そ、そりゃわたしも乙女の端くれですし、素敵な彼が欲しいとか優しく抱き締められてる女の子を羨望の眼差しで見つめちゃったりって事もあるんですけど、えっととりあえずソレは置いといてですね、もっと一杯走りたかったなぁって。ロードサイドのファミレスで仲間と語り合ったり、サーキット観戦で推しのチームを熱狂的に応援してみたりしたかったです…」


 「思った程深くも無いな。水深200m程度ってとこか?」


 「もっと深い悩みのタネがあれば…デメニギスちゃんごめんなさい…」


 紅い顔でこちらを伺いまた目を逸らされてしまった。う〜ん、俺って眼つき悪いから警戒されがちなんだよなぁ。


 「え〜っ?マリちゃん付き合ったコトねーの?そんなにカワイイのに!普通男が放っておかねーだろ。俺なら付き合ってくれるまで毎日芸を披露して遊びに誘っちゃうぜ!全く不甲斐ねー奴らだぜ!」


 ハッハッと犬の様に纏わりつく弐狼に青ざめた顔で


 「あ、あのこの人本当に人間なんですかっ?気配が完全に犬?ってゆーか、動物なんですが!」


 ドン引きしてのけ反る幽霊少女。


 「詳しくは省くがコイツには狼の加護が有るんだよ。ワイルドだがちゃんと上下関係叩き込めば大人しくなるから命令してやってくれ。」


 マリが「おすわり!」と叫ぶと弐狼は急に大人しくなり犬の様にちょこんと座り込む。コイツ女の子の言う事だけ素直に聞きやがって。

 でも落ち着いて改めて見ると凄く可愛い。

 ちょっと垂れ目の大きな瞳に明るく人懐っこさを感じさせるコロコロ変わる表情。

セミロングの黒髪に白い花と小さなミカンの様な果実がセットになった髪飾り。

 フリルが付いたミニスカートのワンピースに白いスニーカー。

この手の話は殆どが誇張され、尾ヒレ背ヒレ腹ビレ付いて噂話の大海原を縦横無尽に回遊しがちだがこの子はガチだ。


 よしよし、と弐狼の頭を撫でながら


 「この車、凄く格好良いですね。赤色が凄く似合っててフェラーリみたいです。」


 俺の車を珍しそうに茂々と眺める。


 「トヨタMR2SW20の後期型って言ってたな。色はフェラーリのロッソコルサに前オーナーが塗り替えてる。エンブレムとか全部外してハンドルも替えてるから外車っぽいかもな。」


 「あっ、わたしのはトヨタのMRーSっていうオープンカーで空の色みたいな水色に一目惚れして買っちゃったんですよ。オートマなんですけど、にゅっと生えてるシフトレバーをこう前後に動かしてギアチェンジするのが凄く楽しくて暫くココに通ってたんです。まさか自分が空に舞うとは思いませんでした。」


 テヘッと舌を出して笑うマリ。いや、笑うトコじゃねーから!


 「MR2の後継機だな。ターボが無くなってデビュー当初は賛否両論だったけど十分パワーもあるし、楽しい車だって再評価されてるな。」


 「あ、御先祖様だったんですね。これはこれはありがたや~。変わり果ててしまって気が付かず申し訳御座いませんです〜」


 マリは手を合わせ俺の車を拝む。


 「いや、普通気が付かねーと思うぞ?ちなみにコイツが初代だ。」


 俺はスマホで検索した初代MR2の画像をマリに見せる。コンパクトで直線的なデザインが時代を象徴している。


 「なんという事でしょう!まるで共通点が見えないです!トヨタさんに一体何が!わたしのMRーSが御乱心してるみたいじゃないですか!」


 「ミッドシップと限界超えたら制御不能ってのが共通点かな。ちなみにトヨタさんは懲りずにまたMRシリーズやる気満々と聞くな。」


 「もう止めて下さい!マリちゃんのHPはゼロなんですよ?幽霊だけに」


 「まあ次世代車なら電子制御てんこ盛りで早々簡単にスピンしなくなるから安心していいんじゃないかな?じゃじゃ馬を乗りこなす達成感っていう面白さは無くなるけど。」


 「じゃあ早く成仏して来世にワンチャンゲットします!生まれ変わったMRナントカで新生マリちゃんの新たな伝説を刻むんです。今度こそわたしやりますよ!」


 目的はイマイチだがやる気は上々の様だ。

ドライブくらいで成仏出来るなら多少付き合ってやるのも悪くない。いつまでもこのままじゃ可哀想だし、人助けはいつもの事だ。

 楽しげにすっかり手懐けた弐狼とじゃれ合う可愛い幽霊少女の行く末を案じながら俺は覚悟を決めた。


    取り憑かれたりしないよな?

 


 

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