悪魔殺し系記憶喪失美少女シスター

第16話 二つの修業

 沸き立つ信者たちを落ち着かせ、マキが一人ひとりにお祈りをしていく。ウチら三人はその補助と、終了後の献金を管理する。


「いや~、一時はどうなるかと思ったけど、結果的には大成功……なのかな?」


 教会を閉めた後、四人だけの礼拝堂で反省会をする。リーダーであるマキが進行するも、イマイチ気は乗らない。嬉しさ半分、悲しさ半分といったところか。


「……まあ、こんな形でお客さんが来るのは不本意ではある。だけど、私たちのしたことは決して間違いじゃないから。クラリスはちょっと無茶しすぎだと思うけどね~」


「はい、すみません」


 とりあえず謝るだけ謝っておく。どうせマキもウチの行いを『悪い』とは思っていないだろうし。むしろあそこで城下町に向かわなければ、イルガが悪魔化していただろう。そうなると避難所であるはずの教会は、たちまち殺戮の現場と化してしまったかもしれない。


「それで……悪魔たちはどんな生態をしていたのですか? それが分かれば、教会から何か動けるかもしれないもん。『人助け』をするのが、ゼラヴィア教会の信条だもん……!」


 反省会はそこそこに、シルフィナが悪魔への対策を考えるよう促す。この中で悪魔と対峙したのはウチだけだから、当然そのことについて聞かれるよなぁ。

 だけど、ヤツらのことをどこまで言えばいいんだろう……イルガが『実は悪魔』だなんて言えるわけがないし、そこだけ伏せればいいかな……。


「分かった。悪魔はまずね……」


 ――ウチは三人に、悪魔についての簡単な説明をした。不安を和らげるよう『ウチなら大丈夫だ』という意味を含んだ言葉を添えて。


「師匠がいるなら教会は安心ですね! そしてオレも、いつかはそんな存在にならなきゃいけねー……勇者として、オレはもっと強くならなきゃいけねーんだ。師匠! オレにもっともっと修業をつけてください!」


 できることなら、イルガは悪魔から遠ざけなきゃなんだけど……それでも、彼の目は真剣そのもので。『絶対に強くなるんだ』という意志をひしひしと感じた。

 ――だけど、もしウチがイルガにみっちりと修業をつけたとして、それでもコイツを『悪魔から指一本触れられない』ほどにまで強くしてやれんのか……?


「師匠? 全然返事してくれないですけど、どうかしたんですか?」


「……はっ!? ごめんごめん、どういう修業をさせるか考えてただけだよ! 心配しなくても、明日からちゃんと修業はつけるからね。本格的なヤツで」


「しゃー! じゃあ今日のところはしっかり休みますね、これも体力を回復する修業だからなー!」


 もう何もかも修業に置き換えるじゃん。まあ、心がけとしては大変立派だけどね。

 だからこそ、彼の正体を絶対に本人に悟らせちゃダメだ。あんたは人間として生きて、人間として眠ってくれ……。


「おはよーございまああああす! 改めて今日から、修業の方をよろしくお願いしまああああすっ!」


「うん、おはよう……あと明日からはもっと優しめに起こして、耳壊れる……」


 ウチは昨日、仮にイルガに起こされた時は『コイツの命の保証はないと思った方がいい』なんて考えていた。

 どうやら逆だったようだ。こんな朝から爆音で叩き起こされたら、ウチの方がもたない……。


「それで師匠、本格的な修業って一体何をするんです? 全然想像つかないんですけど」


 あ~……そういえば昨日、そんなテキトーな感じで濁してたっけ? 正直何にも考えてないんだよなぁ。それに城下町の様子を見ておきたいし……そうだ!


「よ~しイルガ、今から城下町まで走って行くよ! 悪魔がいないかの見回りね!」


「はい! 全力で見回りしますよー!」


 ウチらは教会を飛び出し、城下町へと駆ける。全力で走るのは未だに慣れないけど、それでもイルガに追いつかれることはなかった。危なぁ……これでもし追い越されでもしたら、師匠としての立場ないもん。


 悪魔化したヤツらに人間としての意識が残っていたおかげで、家にはほぼ傷がついていない。その代わりなのか、あんなに背の高かった宿などは更地となっている。多分、一部の悪魔はあそこで固まっておきたかったんだろうな。残りの人間たちに迷惑をかけないよう、高い所で……。


「はぁ……やっと追いついたぜ……。どうです師匠、悪魔はいませんでしたか?」


 数十秒遅れて、イルガも息を切らしながら合流。膝が震えてる……ちゃんと全速力で走ってきたんだな。ウチもここまで来るのに結構体力を使ったから、人間からしてみりゃあかなりのハイペースだろう。


「うん、見た感じ悪魔はいないっぽい。良くも悪くも、隠れやすい建物が全部壊れたから見通しがいいね」


 ――これもアイツらのおかげなのかもしんないな。体は悪魔になってしまっても、それでも自分たちのできることを全部やりきったんだ……。

 人間だろうと悪魔だろうと関係ない。そこに『人間』としての心さえあれば、ウチらゼラヴィア教会は、この手を差し伸べなきゃいけないんだ。


「――教会に戻ろっか。運営に支障が出るのはダメだから、帰りは歩きでね」


「はい。あと、師匠一人に見回りさせてすみません。明日はもっと早く追いつけるようにしますんで」


 いきなり何を謝るかと思えば、自分の実力不足についてかい。ちゃっかり明日以降もこれ見回りの修業が続くのを確定させてくるし。抜け目がないのか、ただの修業バカなだけかだな……後者か。

 まあウチとしても、神様ではなく人間としての体力をつけなきゃだからなぁ。やっぱり『飛ぶ』のに慣れてしまってるせいで、走力には若干の不安がある。


 ――もしイルガとともに悪魔と戦う時、ウチが空を飛んでたりしたら不自然すぎる。もしかしたら、コイツなら『勇者の適正デュナミスってすげー!』なんて勘違いしてくれるかもしんないけど。


「二人ともおかえりだもん。その感じだと、悪魔がいないか探してたのですね?」


 教会の扉の前で、シルフィナは掃除を行っていた。四本の腕を器用に使って、掃除用具たちを完璧に使いこなしている。


「おはようシルフィナ。修行も兼ねて、少しだけ見回りをね。私も体力には自信がないから、結構疲れちゃったよ……」


「あのクラリスさんでも、キツいもんはキツいんですね……お疲れ様ですもん!」


 こうして見た目美少女なシルフィナに労われると、やっぱり嬉しいもんなんだなぁ……とにかく笑顔が眩しい!


 ――昨日のこともあってか、教会には何十名もの人間が押し寄せることとなった。ウチやイルガがいる分、他の教会に避難するより安全なんだろうなぁ。

 マキはしっかりと一人ひとりにお祈りを捧げてるし、シルフィナは献金をこれまた器用にひょいひょいと貰っていた。


 そして空が暗くなってくると、今日一日の活動は終了。だけどウチとイルガはまだ終わらない、初めて戦ったあのスペースで、一時間ほどみっちりと模擬戦を行う。


「だりゃああああっ!」


「パンチがまっすぐ来すぎてる! そのままじゃただ避けられて、前の私みたいに返り討ちに合うだけだよ!」


「……はい!」


 ――まだ模擬戦を始めてたった数秒だけど、なんとなく分かったことがある。

 イルガの課題は攻撃手段の乏しさだ。といっても、お互い素手による戦いなので、ある程度パターン化されるのはしゃーないんだけど。


「同じパンチでも、横や下から放つだけで全然違う。常に守りが甘い所を探して、それを察知されない速さで……こう!」


「うぐうっ!?」


 がら空きになっていたイルガのお腹に、目にも留まらぬ速さで拳を叩き込む。もしウチが悪魔だったら、この時点でコイツは悪魔化していた……まだまだ隙が大きすぎるな。


「かはっ……師匠の攻撃、やっぱ効きますねー……。だけどオレは全部! 攻撃を全部耐えて、その分返してやる。そして心から分かり合ってやる!」


「そっかぁ……」


 イルガは勇者として、向かってくる相手を受け入れようとしている。だけどそれだと、コイツはいずれ確実に悪魔化してしまう……いや待て。

 メイディさんが言うには、悪魔には絶対的な『強さ』があるらしい。そしてより強い悪魔に触れられると、二度と人間の体へと戻れなくなる。


 ――だったら、もしイルガが


 勇者としての道以外にもう一つ、人助けのための手段があることが分かった。しかしどうすれば悪魔としての強さを伸ばせるかなんて、ウチには分かんない。

 ……って、ダメダメ! コイツはあくまでも最後の手段。ウチはイルガのことを、強くしなきゃなんないんだ……!


「それでもいいかもしんないけど、基本的には攻撃を食らわないような立ち回りをすべきだ! さっきみたいに、一撃で殺されるかもしれないんだよ!?」


「攻撃を食らわないように……よし! じゃあ師匠、オレに攻撃してきてください! 攻撃を避ける修業……よろしくお願いします!」


 ――これである程度の方針は固まった。あとは毎日この二つの修業を繰り返して、ウチを超えるくらいに強くなっていけ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る