第8話 教会できちゃったぁ……
イルガを教会の仲間に引き入れ、ウチらは宿に戻る。入口近くにはなぜか大勢の人間が集まっていた。
「あの、何かあったんですか?」
マキが先陣を切って集団の一人に聞くと、彼ら彼女らはただのシスターなんて見向きもせず。
「……いたぞ! アレが勇者様か!」
「あの青年が、勇者の
「おお! 我らを護ってくだされー!」
『勇者』であるイルガを中心に、ものの数秒でウチらは囲まれてしまう。コイツら全員、イルガ目当てに集まってきたヤツらなのか!? だとしたら噂の力ってすごいな!
「ちょ、動けねーから止まってくれ! それにオレは勇者じゃねーし!」
「「「……え?」」」
イルガの『勇者じゃねー』発言を聞いて、それまで湧き立っていたヤツらは急にさーっ、と退きだす。いや、そんな露骨に避けなくてもいいじゃん……さすがにかわいそうだと思うよ?
「なんか心にくるな……今言った通り、オレには適正があるだけで、勇者になったワケじゃねー。だけどオレの師匠はオレの何倍も、何万倍もつえーぞ! ですよね、クラリス師匠!」
「えっ!? いきなりこっちに振ってきた!?」
解散しかけていた人間たちが、今度はウチを中心に再び集まる。弟子ぃ~、な~んてことしてくれたんだよ弟子ぃ~! さらに面倒なことになってきたって!
「こんな小さなシスターに勇者の適正が……待て、クラリス!? しかもこの修道服はゼラヴィア教会のものじゃないか!」
「まさか……あなたは噂の新入りの!? あのボロ教会を一晩で立て直したといわれる、シスター・クラリス様なのですか!?」
――待って、その噂はマジに知らないヤツなんだけど!?
ウチが教会を立て直した? 確かに、ウチがゼラヴィア教会に所属してから『神様の着ていたとされる服』が発見されたってテイなんだけど……また一段とややこしくなってるのかぁ。
「それは全部『たまたま』です! もともと私は『シスターになりたい』以外の記憶を失っていたんです、ゼラヴィア教会も運良く立て直せただけで、私の力なんかじゃないですよ!」
「そうですよ~。彼女の言う通り、これは全てたまたまです」
いいぞマキ! その調子で、ウチにはなんの力もないことをアピールしてくれぇ~!
「――ただ、私はそんなクラリスに、ある種の『可能性』を見出しています。彼女があのボロ教会へ訪れてくれたその時からね。おかげさまで教会の一部屋から『例の衣服』が見つかったのですから」
たまたまで済まされないほどの強運エピソードになってる! 多分それ悪化するヤツだから! こらそこ、ウチに向かって手を組み始めるんじゃないよ。それは神様に向かって……いや、合ってるけど間違ってる!
「そのおかげか、
「はい! 教会で『人助け』のお手伝いをしつつ、師匠のもとで修業させていただきます!」
マキもイルガももう止まってくれ、なんだか人間たちの視線が怖くなってきた! 言葉にしづらいけど、純粋な信仰心だけじゃない気がする! コイツらに信じられるのはなんか嫌だ!
……そうだ、メイディさんは? 唯一まともな彼女にちゃんとした意見を言わせて、なんとかこの場を収めてもらおう!
「メイディさん、メイディさ~ん! どこですか~!?」
「はい~! わたしはここだよぼぼぼぼっ!」
なんてことしてくれてんだ信者~! あんたらのせいで、メイディさんが人波にさらわれてるじゃん! どうしよ……一人くらい殴って、強制的に落ち着かせればいい感じ?
比較的少ないダメージで済みそうなヤツを探しながら拳を構えていると、物好きな弟子がいの一番に反応する。
「師匠、殴るならオレにしてください! ストレス解消のついでに、オレに攻撃を耐える修業をさせてくださいよー!」
「ああ分かった、分かったから! 修業させてやるからもうあんたは黙って……てっ!」
生粋のバカ弟子のお腹に、さっきよりほんの少し強い一撃を浴びせる。威力を強くさせていかないと修業にならないからなぁ……調整がムズかったけど、多分死にはしないはずだ。
「うぐっ、痛ってぇぇぇぇー! やっぱ師匠の一発は効きますねー!」
まだ二発目っしょ、なんで通ぶってんだよコイツは。
でもイルガが殴らせてくれたおかげで、ドン引きに近い形で信者たちを鎮められた。そうそう、分かればよろしい。勇者の適正アリでこれだ、こんなもん食らいたくないよな?
「――はい! あなたたちが私の運にあやかりたい気持ちは、十分に分かりました。ですが、今みたいにいっぺんに来られると、私だけでなくマキさんやイルガも大変なんです! 現に今ので、イルガのお姉さんであるメイディさんが、もみくちゃにされていたんです!」
「あはは……なんとか生きてま
「「「うわぁぁぁぁ! ごめんなさい!」」」
信者たちはウチの腹パンにドン引きした後、そちらにもドン引きする。あんたら、色々と引きまくってて忙しいなぁ。一旦落ち着きな?
そんなあまりにも熱心な信者たちを、マキで目で追いつつ舌を軽くぺろり。ま~たロクでもないことでも考えてるんじゃないだろうな……?
「――そうだ。ゼラヴィア教会の改装工事が終わるまで、大体あと一週間なんですよね~……皆さん、そんなの待てますか~?」
「「「待てるわけないだろー!」」」
「よ~し決まりだ! それじゃあ皆さん、このまま現場に行っちゃいましょうよ! 役所のヤツらのおっそい工事なんて、いちいち待ってられないんですもんね~! な~にが『一週間』って話ですよ、みんなの力を合わせて『三日』で終わらせましょうや!」
「「「おおおおー!」」」
えぇ……。教会の改装が早く終わるのはそりゃ嬉しいけどさ、コイツらって、工事に関しては素人なわけでしょ? 役所のヤツらからしたら、邪魔でしかなくない?
「ほらクラリス、イルガ! さっさと行くよ! こんな大チャンス、絶対に逃しちゃいかんのでね~!」
その両目はキラキラと輝いていた。シスターとしても、そして『商人』としても。
彼女は降ってきた『ウチ』というチャンスを余すことなく使いまくって、家業であるゼラヴィア教会を大きくしようと駆けている……。
――なんとなく『カッコいいな』って思った。こんなもん本人に言ったら絶対に調子に乗るから、心の内に留めとくけどね。
宿から十数分して、ウチらはボロ教会だったものに到着する。建物の周りに金属の地面みたいなものが組まれていて、そこに役所の人間たちが乗って作業しているのか。
さっきマキは『おっそい工事』だなんて言ってたけど、これはさすがに一週間はかかるだろ。なんなら早すぎるほどだ。
「お疲れ様で~す! こちらとしては教会を少しでも早く改装してほしいので、信者の皆さんを連れてきました~! 素人でもできそうな作業ってありますか~?」
「ねぇよ! そんなもん何人も連れてきたって、どうにもなるわけねぇだろうがよ!」
作業している中で一番偉いであろう人間に、容赦なく暴言を吐かれるマキ。そりゃあそうだろうよ、作業のを邪魔された上に、連れてきたヤツらが素人なんだもん。
こういう専門的なヤツだと、ウチらにはできることなんてないって。大人しく待とう?
「なあオッサン。積み上げてるそのレンガって、魔法で作ったヤツでも大丈夫なのか?」
「あぁ、誰がオッサンだって!? ……まあ、レンガだったらなんでもアリだ。なんだぁ? お前は『レンガを作る魔法』でも使えるってのかぁ?」
魔法ねぇ……人間が上手いこと技術を高めて、急にできるようになったアレね。確かにイルガの適正を視た時の映像だと、コイツは土を使ってたな。
でも、いくらなんでもそんな都合よく使えるってのかぁ? さすがにムリがあるっしょ?
「――おう、できるぜ」
「「できるんだ!?」」
「いや、なんで師匠まで驚くんですか? そんなこと言って、どーせ師匠にもできるんでしょ?」
おい弟子、あんまり師匠を甘く見るなよ。ウチは一応『記憶喪失美少女シスター』なんだぞ、ウチはその『レンガ』ってヤツが、一体何なのかすら分かってないんだぞ。
「私はそんな魔法は知らないから、ちょっとやって見せてよ」
「分かりましたー! っしゃ、修業じゃあー!」
なんでそんなに張り切れんだよ。この弟子、さてはウチに言われたことを全部修業だと勘違いしてるな?
「いきますよ師匠! はぁ……どりゃっ!」
イルガは一度手を合わせ、そこから同時に離していく。すると離した手のひらの間から、教会の石と同じ色をした、四角いもの……レンガができあがっていく。おお、これが魔法かぁ……!
「すごいじゃん。こんな近くで見るのは初めてで基準は分かんないけど、さすが私の弟子って感じだよ」
「よっしゃー! ありがとうございます師匠!」
褒められたのがよほど嬉しいのか、イルガは屈託のない笑顔を見せる。そんなにテンション上がんなくてもよくない? さっき知り合ったばっかりなのにウチのことを慕いすぎでしょ。まあ、悪い気はしないけどね。
「そんじゃ師匠もやってみてくださいよ! 師匠が『土』の魔法を使えるなら、結構すぐできると思いますんで! コツとしてはですねー……『何を作りたいか』って考えるのが重要ですね! おお、なんかオレが師匠みてーだ! なんかすみません!」
な~に一人で勝手に盛り上がって、勝手に謝ってきてんだよコイツは。人助けの手伝いしろとか言わなきゃよかったなぁ、暑苦しい……。
そんで何? レンガで何を作りたいか考えながら手を合わせて、そこから離せばいいんだっけ? じゃあ仮に『教会』とか考えてたら、すぐ完成しちゃうんじゃないの?
現場から少しだけズレたスペースに、教会ができるように考えながら魔法とやらを使ってみる。そもそも神様なんだから、魔法なんてのは使えるかすら分かんないんだけど。
でもなんかイルガが目をキラキラさせてこっちを見てくるもんだから、引くに引けない……。
「じゃあちょっとやってみるか……。手をこうして、邪魔にならなそうな所で……離す!」
――はい、特に何も起こらないね……嘘でしょ!?
手を向けた先から、レンガたちが勝手に積み上がっていくんだけどぉ……なにそれぇ……?
「ヤバい……ヤバすぎますって師匠! 三日どころか、十分でできちゃいましたねー!」
「皆さん見ましたか!? これが勇者の師匠でありゼラヴィア教会の看板娘、シスター・クラリスですよ~!」
あは、あはは……もう教会できちゃったぁ、神様なの絶対バレたぁ……。
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