第2話 ウチがシスターに!?

 つっても、こんな教会に人間を呼ぶのはムズいっしょ? 城下町から離れてるし、ウチが光ってないと昼間でも真っ暗だし。なにより、建物そのものがボロっちぃし……。


「これさぁ、教会を一旦建て直した方がいいんじゃない? このままじゃ人間なんて来る気しないんだけど……」


「そんなの絶対ダメです~! 私にはお金がないんです、教会を建て直すなんてマネはとてもできませんよ! というか、そんな大金があればとっくにシスターなんて辞めてます!」


 マキはシスターをなんだと思ってるんだろう……絶対に現役のマジシスターが言っていいことじゃないと思う。ウチのことを信じるのに、もうちょっと誇りを持ってほしいんだけど。


「お金かぁ。でもお金って、どうやって手に入れんの? ウチも持ってないんだけど……」


「そりゃ神様ですもんね。というか、神様ならお金くらいジャラジャラ出せるんじゃないんですか? 出せますよね? 神様ですもんね!?」


「いや、いくら神様でもそういうのはできないって……」


「神様なのに!? そんなの祈り甲斐がなくないですか!?」


 マキは困惑と失望が混ざったような表情でこちらを見てくる。おいやめろその顔。コイツはどうやら、神様のことを『なんでもできる存在』だと勘違いしてるっぽいなぁ。

 神様ができることなんて……せいぜい空を飛んだり、腕っぷしが特別強かったり、火や水を操ったり、それこそ全身を光らせるくらいしかないってのに。


「いや、勝手に期待して勝手に失望しないでよ……。とにかく、教会に人間を呼び込むのにウチの力はあてになんない。逆に少しでも呼び込めたなら、ウチは助けを求める声を直接聞いて動ける。そこから口コミで広めてもらおう!」


「なるほどです。となると、まずは環境づくりからですね。でも、設備を整える資金もない~……あ、そうだ!」


 さっきまで曇りきっていたマキの表情が、一気に晴れやかなものになる。ヤバい、なんだかめっちゃ嫌な予感がする……。


「ねえその顔、ウチを使って何かする気っしょ!? 言っとくけど、悪いことはしちゃダメだからね!?」


「そんなことしませんよ! ただ、神様を私と同じ!」


「はぁぁぁぁ~っ!? ……ちょっと待って、なんでシスター?」


 神様であるウチが、マキと同じシスターになる……?

 でもそれで何になるっていうんだろう? コイツは何を考えてるんだ!?


「ざっくりと説明するとですね……シスターが増えれば、教会に資金が入るんです! だから神様をこの『ゼラヴィア教会』所属のシスターにすることで、資金の確保と宣伝をダブルでやっちゃうんです~!」


「おお! 確かにそれなら、いずれ人間が来るようになるかもだね~。それじゃ、ウチもシスターになっちゃおうか!」


 シスターがどんなことをすんのかはまだ詳しくは分かんないけど、要は神様の存在を信じて、祈ればいいってことっしょ? ならウチは神様ウチを信じればいいってこと! 簡単!


「本当に助かりますぅ~! そうと決まれば、城下町の『地域教会役所ちいききょうかいやくしょ』まで、爆速で行きますよぉ~!」


 マキはウチの腕を掴んで、そのまま教会を飛び出す。ちょ、いきなり引っ張るな~!

 そのまま十分ほど歩かされ、ウチらは城下町へとたどり着く。飛べば十秒もあれば余裕な距離だけど、マキ曰く『神様がシスターになって人々を救うにも、まずは人のことを知らなくては!』という謎のゴリ押しをされたので、とりあえず従うことにした。


 確かに雲の上からとじゃ、やっぱり雰囲気が違って感じるな……今まで何一つ聞こえなかった人間たちの生の声って、こんなにも多種多様だったんだなぁ。


「左の子と右の子、どっちがイケると思う!?」


「金髪シスターに、アレは貴族の女の子か? ……どっちもアリだな!」


 ……良くも悪くも、人間らしい声が目立つなぁ。勝手に見られて、勝手にストライクゾーンに入れられたんだけど。というか、ウチって貴族だと思われてるのかぁ。

 それでも、ここにいるみんなやアイツらもウチのことを信じて生きていると思うと、なんかめっちゃありがたいよなぁ。自分の存在が認められてるって、こんなにも嬉しいんだ……。


「そうだ神様。服、どうします? さすがにそんなにキラキラした格好だと、シスターとして認めてもらえないかもしれないですね~」


「マジかぁ。ウチってずっとこの状態で生きてきたから、着替えたこともないんだよなぁ……じゃあ、それっぽいものを買ってくれる?」


「分かりました~! それじゃ、先に服屋さんの奥にある、試着室って所で待っててください!」


 役所に行くまでにちょっとだけ寄り道。ウチの見た目である少女らしい服を、かつて本当の少女として過ごしてきたマキに選んでもらう。ウチは「シチャクシツってどこですか?」と店員さんに尋ね、彼女が服を持ってくるのを今か今かと待っているところだ。


「お待たせしました! はい、服これです~!」


「結構待ったけど、服って選ぶのに時間かかるもんなの?」


「ちゃんと似合いそうなヤツを選びましたよ~……これで完璧だと思います!」


 謎に自信満々なマキから服を二枚受け取る。自分のと見比べてみて、上から着るのと下は……脚から通すヤツか。なるほど、この二枚セットで暮らしてるんだなぁ。

 でも、人間はこんなただの上下の布に、まあまあなこだわりを持っているみたいだ。何か違いがあるもんなんかねぇ……まあ、ウチという神様的美少女が着てしまえば、どれも等しく一級品になるんだけどさ。


 キラキラした元の服を脱いで、マキの選んだ服に着替える。似合うかどうかは別として、これ結構着やすいなぁ。そういう面でも考えてくれたのかなぁ?


「こっちの服、着替えの邪魔にならないように私が持っておきますね」


「ありがと……って、!?」


 小さい背丈、緑色の両眼、短くて赤い髪。なんでシチャクシツに、ウチそっくりのヤツがもう一人いるの? しかも動きもマネして、気持ち悪い……あ、ハイタッチしちゃった……。


「もう一人って……それは鏡ですよ。服やお化粧が似合ってるかどうか、この鏡で確認するんです」


「へぇ……人間って頭が良いんだなぁ。もう神様よりなんでもできるんじゃない?」


「かもですね。じゃあお会計……お金を店員さんに渡して、その服を買いますね」


 あ、わざわざ言い直してくれた。人間とは言語が通じるだけだもんなぁ、ウチの知んない言葉がまだまだたくさんあるんだろうし、シスターをやるんなら、その辺も覚えてかなきゃだなぁ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る