第33話 シア:第2世界:人のいる場所に行こう!
俺戦隊、シアです。
水色のサイドツインテール、清楚美少女ですわ。
「前回までのおさらい。1人用小型船を創造した私は近くの町を目指して飛行中。しかし10分で空の旅に飽きて顕現させた精霊たちとトランプをしておりました」
『誰に話してるにゃ?』
「他の私へ向けての説明ですよ」
風の精霊、緑色のマスコットのような猫をもちもちする。
前回は風の精霊、水の精霊、火の精霊を顕現して大富豪をしていた。
今回は風の精霊1匹だけだ。
というのも、今回は時間を潰す必要は無い。
どうにもこの近くに人の集まる場所があるようなのだ。
操縦席に設置されているレーダーにはたくさんの生体反応が記されている。
魔物なら違う色で記されるように設定しているので、この色はヒトのはずだ。
ヒトでも魔物でもない生物なら見たことが無いので分からないが……。
遠くの空に浮かび上がってきたのは広大な地面。
しかし浮いているので大地ではなく、これも浮島の1つだ。
その周囲を魔物の生体反応が飛び回っていた。
もしかして襲撃されているのか?と思いはしたが、その魔物は規則的な動きを描いて浮島へ向かったり飛び立ったりしている。
近付いてよく見てみれば、その魔物はドラゴンだった。
ドラゴンと聞いて思い浮かべるのは厳ついトカゲ頭の恐竜のような姿だが、それらのドラゴンはデフォルメされたキャラクターやマスコットのような可愛らしさがあった。
浮島にいる人間たちが指笛を吹いて光る棒で指示を出すと、それに合わせてドラゴンが飛び動いているようだ。
世界を選ぶ時の最初の説明を思い返す。
『ドラゴンが多く生息しており、人々のパートナーとして一緒に育ち生活している。』と書いてあったな。
なるほど、このデフォルメドラゴンが人々と生活を共にしているドラゴンなのか。
上空からモニター越しにそれを眺めていると、ドラゴンに指示している物とは違う笛の音が聞こえた。
そっちを見てみると、手旗でこちらに向かって何やら指示しているようだ。
うーん?手旗信号とかいうやつだろうけど、生憎そういう類の物の知識は無い。
素直に降りて尋ねに行くかと人のいない場所を狙って飛行船を降ろしにかかったのだが、すぐに失敗したと気付いた。
俺の飛行船が近付いて来るのを見たドラゴンたちが驚いてあっちこっちに飛んで行ったり、威嚇するように唸り声を上げたり、そんなドラゴンたちを宥めようと人間たちが右往左往。
向こうからしてみれば突如空から飛来した未確認飛行物体だ、警戒しないわけがない。
いや違うんですよ!とこちらからアクションしたら逆に警戒させてしまうので、向こうからのアクションを待った。
するとやはりというかなんというか、大きなデフォルメドラゴンを従えた地位の高そうな人がその背に乗って向かって来た。
それに合わせて飛行船のデッキの部分に出て行く。中にいたらコミュニケーションも取れないので。
「あー……君、ここはピュアドラゴン教習所のど真ん中である。停泊ならばあちらに船着き場があるからそっちへ行ってくれんか」
「あっ、はい。申し訳ありませんわ」
てっきり怒られるかと身構えていたが、何やら慣れたような対応。
一旦上空へ浮かび、でっかいドラゴンに並走してもらって停泊所へ向かった。
なるほど、ドラゴンたちが訓練している場所は光る柵で区切られていたようだ。
そこを抜けて向こう側へ行くと、そこには多種多様の飛行船が停泊していた。
駐車場みたいに区切りがあるな。ほとんどの船がその線の中に入りきらずにぶち抜いてるけど。
オーソドックスな船の形の物もあれば、四角い箱に申し訳程度に羽根がついているだけの物、恐らくドラゴンを模したであろう飛行船、あと表現し難いなにか……前衛的な……なにかの形の飛行船もあった。いや、あれ飛行船なのか?なんかぐにょぐにょしてないか?
まあ、指示された場所に飛行船を降ろして外に出る。
「はいどーもー、ここに魔力流してロックしてねー、じゃないと飛行船イタズラされちゃうよー」
スタッフらしき人の指示に従い、停泊所に設置されている水晶のような板に手を当て魔力を込める。
すると、カチッと鍵のかかるような音がして俺の飛行船を覆うように光の壁ができた。
「出る時はここに同じように魔力流してねー」
「はい、ありがとうございます」
案内してくれたスタッフさんに挨拶していると、さっきの偉いっぽいおじさんがでっかいデフォルメドラゴンを従えてやって来た。
「まったく、直近で君で4組目だぞ、手旗も覚えず外海に繰り出している若者は。最近の飛行船教習所はいったい何を教えているのか……」
とぶつぶつ呟いている。
深い緑色の髪を短く揃えたナイスガイって感じのおじ様だけど、どこか疲れたような顔をしていた。
その顔をでっかいデフォルメドラゴンが舌先でぺろりと労わるように舐めた。
仲良さそうだ、こういった大きな生き物に懐かれるのはロマンだな、ちょっと怖いけど。
しかし俺で4組目というのが気になるな。
もしかして……とは思うが、他の3組は他の転生者か?
「お騒がせしてしまってすみません。なにぶん世間の常識に疎いもので……」
胸に手を当てぺこりと頭を下げると、おじさまは何か言いたげだったのを呑み込んだようだった。
シアを創った時に『良家のお嬢様のような立ち振る舞い』『溢れ出る気品』のようなパッシブスキル(のような設定)を組み込んでおいたので、お辞儀1つするにもまるで本物のお嬢様のような立ち振る舞いができている、はずだ。
なので、『見た目や立ち振る舞いからしてお嬢様に違い無い人物』の『世間の常識に疎い』発言はつまりそういう意味で世間知らずなのだと誤認してもらえるだろう。
「自己紹介が遅れたな、俺は第13位貴族エイベヘル・アストリーだ。ここピュアドラゴン教習所の教官をしている」
おっと?貴族と来たか。
しかも第13位とか聞き馴染みの無い言葉がついてる。
相手が貴族でこちらを貴族と思い込んでいるのなら……こちらも家名つきでフルネームを名乗らないと失礼に値するよな?いや、この子はシアであり家名はついていないけれど。
が、しかし。ここはあえてのファーストネームのみ!
「私はシアと申します。ここではただのシア、ですので……家名を名乗れない無礼をお許し下さい」
深々と頭を下げて申し訳無さをアピール。
家名を名乗れないというか、家名を用意していない、が正解なのだが。
ちらりと窺い見てみると、『やはり訳ありか……』とでも言いたそうな微妙な顔をしていた。
良い感じに誤解してもらっているようだ。
「ああ、いや、そういうことならば仕方が無い。ごほんっ。あー、君は何故ここに?」
「いえ、特に用があって来たわけではないのです。偶々近くを通りがかったらドラゴンさんが飛び交っているのを見たので、つい眺めてしまって。手旗で何か指示を受けたのですけれど、意図が理解できず空いている場所に降りてしまったのです」
「ああ……」
おじさまは頭が痛そうに目頭を摘まむ。
すみませんね。でもこの世界について無知なことは隠しようが無いし、無知ですってことを公開するには『世間知らずのお嬢様』はぴったりフィットする。
それにしてもさっきからでっかいデフォルメドラゴンの大きな瞳が俺を……いや、風の精霊をじーっと見ている。
おじさまも風の精霊をチラッと見てはいるが、そこまで凝視しているというわけでもない。こういうマスコット的な存在はこの世界では珍しくはないのだろう。
「ごほんっ。君さえ良ければなのだが、必要最低限の手旗信号や飛行ルールをここで覚えて行かないか?万が一空で衝突事故でも起こしてしまうと高い確率で命を落としてしまうぞ」
お?これは好都合か。
相手は貴族というのは引っかかるが、向こうがこちらを貴族だと思っている以上下手なことはしてこないだろう。
ましてやこちらはファミリーネームを明かしていないので、万が一こちらが向こうより身分が高い家の娘だとしたら……という可能性を考えればよほどのことが無い限りは余計な手出しも詮索もして来ないだろうしな。
「そう……ですね。やむを得なかったとはいえ、私もろくな知識も無いままに出て来てしまったのを不安に思っておりましたの。こちらで教えて頂けるなら、とてもありがたいお話ですわ」
こいつはラッキーだぜ。
世間知らずを理由にして一般常識的なものを色々と教えてもらおう。
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