第32話 アリス:第1世界:解呪ポーション
「この国で高く売れる物を教えてほしい、ですか……?」
回りくどい話は無しで、直球で話してみた。
「うん、実は故郷から出て来た仲間の1人に商家の人がいるんだけど、その人がいくらか物資を持ち出して来たんだ。どれも高値で売れそうな物ばかりなんだけど、この国でも価値があるのかどうか分からなくて」
「なるほど。高値で売れる物と言えば……やはり魔道具やポーションなどの類ですね。特に魔導文明時代の魔道具が発掘されれば、1つ1つオークションにかけられ物によってはかなりの高額で落札されることもあります」
魔導文明時代の魔道具か。
俺はこっちでまだそれらしき物を見たことが無いんだよな。
町に立っている街灯っぽいのは魔道具か?と思いはしたけど、防犯も無しに普通に立っているのを見るに光を放つ魔道具はあまり高額な物でも無いのだろう。
「貴族相手ならやっぱり宝石や美術品の類よね。貴族は見栄を大事にするから、高名な美術家の絵画や精密に織られた美しい織物を壁一面に飾っている貴族なんかもいるわ」
「高額と言えば強い魔物の素材だろ。ドラゴン素材なんて夢だよな、牙の1本でも丸ごとあれば高位貴族がとんでもない値段で買ってくれるぞ。いや、王家が動くかな?」
貴族向けか。
リオが動くなら絶対避けたいが、謎の商人が動くのなら誰が相手でも構わない。
ドラゴンか……1度会ってみたいな。
「エリクサーなら多方面がいくらでも欲しがるだろうな。普段は運良くダンジョンから手に入っても真っ先に王家に献上されるから、それ以外が手に入れる機会などほとんど無い」
「エリクサーがあれば死んでさえなければ元の状態に戻るらしいですからね。神官でも解呪できない呪いなんかも……」
と話していた途端、ピタッと会話が止まってその場の空気が重くなった気がした。
何だ……?何か失言でもしたのか?
エリクサー、呪い、神官……。そしてユリアの様子をチラリと窺うような視線。
「誰か知り合いが呪いに罹ってるの?」
と、何気無く言ってみた。
すると、バッと俺へ集まる視線。
警戒と緊張ってところか。
数秒の沈黙の後、ユリアがため息を吐いた。
「そんなに頑なに隠さなくても良いわ、一部の人たちは知ってることだもの。それにそんな態度じゃ図星だってバレバレよ」
ユリアがぐっと冷めてきた紅茶を飲む。
彼女に指摘されて他の面々は気まずそうにしていた。
「あのね、呪いに蝕まれているのは私なの。あ、安心して?人に感染るようなものじゃないから」
そう言ってユリアが袖を捲ると、手首の先に包帯が巻かれていた。
その包帯の隙間から除く肌は真っ黒で、若干波打つように蠢いていた。
「服の下はほとんどこんな感じで、もう体も満足に動かないの。高名な大神官や聖女と呼ばれている人も訪ねてたくさんお金を積んだけど結局治せなかった。だけど諦め切れなくて、死んでいなければどんな悪い状態も治ると言われているエリクサーを探し求めて旅をしているの。今回ディンダに会いに来たのも、エリクサーを手に入れてないか聞きに来たのよ」
なるほどな。
ディンダさんはポーション屋だから、一抹の望みを賭けて訪ねて来たのか。
「私ね、元貴族で婚約者がいたんだけど、その元婚約者のことが好きな令嬢がいたの。その令嬢は嫉妬に狂って呪術に手を出して、私を呪った。だけどその呪いは素人が手を出すには危なすぎる類のものだったみたいで、その令嬢はもちろんその屋敷にいた家族や使用人たち全員の命を贄として持っていかれたんだって。で、私は呪われた娘として婚約破棄された上に実家から追放されたってわけ」
うーむ、どろどろだな。
なんとも傍迷惑な話だ。
婚約だって家同士が決めたものだろうに、それで嫉妬して呪われたんじゃたまったもんじゃないな。
ふむ、呪い……か。
解呪屋、儲かるだろうか?
でも神官や聖女が解呪できるんならそっちに客は行くだろうし、ターゲットにするならユリアのようにそれでも解呪できないような強力な呪いだろうな。
少し反応を見てみるか。
そう考えて俺は[万能創造]でとある物を創った。
エリクサーとやらではない、そんな物持っていたら王に献上しろという話になるそうなので。
「実はこんな物持ってるんだけど、試してみる?」
収納から取り出したるはガラスの小瓶。
クリスタルのように角ばって透き通った小瓶の中にはキラキラと輝く液体。
『解呪ポーション』。怪我や病気は治せないが、呪いであればどんなに強力な呪いだろうと解呪できるポーション。という風に創造した。
「万が一呪われた時に飲みなさいって、故郷を出る時に持たされた物なの。これ、買わない?お代は効果が確認できたらで良いから」
はい、とユリアに手渡す。
思わずといった感じで受け取ったユリアだが、少々困惑しているようだ。
「エリクサーじゃなさそうだし……呪いを解呪できるポーションなんて聞いたことないな」
「私も長年ポーション屋を営んでいますが、噂ですら聞いたことがありませんよ」
「でも、アリスさんの故郷って遠い島国なんですよねぇ?であればここまで話が伝わって来ないのも頷けますが……」
みんなが小瓶をじっくりと眺める中、ユリアはコルクの蓋を開けた。
「ユリア!せめて鑑定してから……!」
「騙すつもりならこんなに大胆にやらないわ。それに放って置いても死ぬ人間に毒を渡す意味だって無いし、アリスちゃんから恨みを買った覚えも無い。それなら疑うよりも僅かな望みに賭けてみるべきよ」
ユリアはそう言ってぐっと小瓶の中身を飲み干した。
すると、ユリアの体が仄かに光って……上半身を中心に光が吸収され、そして黒く澱んだもやがユリアの体から追い出されていく。
そして黒いもやが一塊になり、小さく小さくなって……消えてしまった。
それをみんながぽかんとしながら見ていた。
それからはもう、大変だった。
泣きながらありがとうと連呼して俺を抱きしめるユリア。
ディンダさんから質問攻めにされる俺。
ユリアのステータスを鑑定して呪いが完全に消えているのを確認して、ようやく一息ついた。
かと思えば今度はディンダさんを除く4人が土下座する勢いで頭を下げ出し、パーティー貯金の全財産を渡すと言って金貨が大量に詰まった袋を差し出されて……。
そして今度はディンダさんがその解呪ポーションを仕入れたいと土下座しだして。
大神官や聖女でも解呪できない呪いを解くポーションが手に入るのはどこの国なのか、王に献上すれば爵位が云々、いやそれよりも呪いで前線を退いたSランク冒険者に……と興奮冷めやらぬ様子で騒ぐ人たち。
それとは対照的にしらーっとしながらもらった金貨を数える俺を見て、各々ハッとしたように騒ぐのをやめて席に座った。
「ごめんなさい、つい興奮してしまって見苦しい姿を……」
「うん、まあ、この辺の国では気軽に出さない方が良い物だってことは分かったよ」
冷静で善良そうだと思っていたユリアたちが興奮して騒ぐほどなのだから、明かす人は選ばないといけない。というか、商売として向いてないのかも。
いや、普通の呪いであるなら大神官や聖女なら解呪できるらしいから……解呪ポーションという前代未聞の物なのが問題なのか。
だったら、大聖女を自称して『呪い?そんな物我が国では何の脅威にもなりませんが?私なら指先一つで解呪できますが何か?』と堂々としていればそう騒ぎになることもないのではないだろうか。
ユリアたちから感謝の言葉を受け取りながら考える。
大聖女キャラで解呪商売、うん……権力者に取り入ることもできそうだ。
立ち振る舞いは考えないといけないけど。
でもなあ、瘴気の世界でもリオ=大聖者って話になってるから……また聖女?って思わないこともない。
いや、別に聖女キャラが何人いても不都合は無いんだけど。
如何せん管理するのが俺だから、ごちゃごちゃになりそうなんだよな。
まあ、とりあえずここにいる人たちに口止めしておこうか。
アリスは魔法使いとして有名にしたいから、解呪屋として活躍させる気は無いからな。
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