第8話 話し合いと暴行

 

「どうだ、美味いだろう?」


「ああ、美味いよ。魔物の肉を食べるのにちょっと抵抗あったけど、こんなに美味いなら魔物肉だなんて気にならないな」


「安心しろ、もちろん魔物肉はきちんと浄化済みだ」


神聖力で瘴気の毒素を抜くことを浄化と言うらしい。

ここのコロニーでは聖女の手助けが手厚いようで、魔物や土の浄化なんかも問題無くできているらしい。

だから拠点内で小規模とはいえ栽培とかできてるんだな。


「どうせこんな美味い肉があるならステーキで食いたかったぜ」


「そうだよな、干し肉にしちまうなんてもったいねぇ」


「こんなのパンじゃないわ、私には食べられない」


「きゃっ、酸っぱい!こんなの客に食べさせるなんてどうかしてる!」


転生者の半数ほどは『意外と美味しい』等とぼそぼそと会話しているが、もう半数は不遜にも出された食事にケチをつけながら食べている。

初期配布の干し肉を食べるよりは随分と豪勢な食事だと思う。


というかここでは食料が貴重という話を聞いてなかったのか?

奴らは自分の口に合わない物は少し手をつけただけで残してしまった。


「腹が膨れたら眠くなってきたな」


「そうね、昨日は牢屋で寝るしかなかったからろくに眠れなかったし。客室に案内してもらえる?」


「あ、それだったら寝るより先にお風呂に入りたいな。泥だらけで気持ち悪いし」


「そうだよね。着替えは用意してくれるんだよね?私たちこれ一着しか持ってないし」


好き勝手言う転生者たちをアメルダ含むコロニーの住民たちは冷ややかな目で見つめる。


「なにか勘違いしているようだから言っておくが……貴様らは決して客人などではない。我々からしたら侵入者であり今のお前たちは捕虜の立場だということを肝に銘じておけ」


「な……っ!誤解は解けたって言ってたじゃないか!」


「それは貴様らを女神教の者であり略奪者だと思い込んでいた件であって、貴様らが我々のテリトリーに侵入し好き勝手していたことを許す意は無い」


「そんなの横暴だ!俺たちだって好き好んでこんなとこに来たわけじゃねぇんだぞ!」


「それは我々とて同じこと、好き好んで貴様らを招き入れたわけではない。さて、飯は食わせたことだし礼儀は果たした。腹が膨れたならとっとと出て行ってもらおうか……と言いたいところだがお前たちも今後の相談をする時間は必要だろう、今日1日だけここに滞在することを許す。明日の朝になったら追い出すからきちんと話し合っておくように」


そう言ってアメルダは他のコロニー構成員に指示を出し、この部屋を去って行った。

見張りと思わしきコロニー構成員が数名とニアノーはこの部屋で待機するようだ、恐らく俺たちの話し合いを把握するためだろう。

転生者たちはぶつぶつ文句を言いながらも、明日追い出されるのなら話し合いは必要だろうということで話をすることになった。


「最初はここのコロニーを拠点にして活動範囲を広げようと思ってたけど、あんな態度を取られるんじゃ長居もできないよな」


「そうよね、せっかくの異世界からのお客様をずさんに扱うなんて考えられない。あーあ、下手に出るなら高度な文明知識を教えてあげても良かったのにアレじゃあね」


「飯がこれじゃあこっちの世界の文明だって底が知れてるし、俺たちが知識を持ち寄れば文明革命だって夢じゃないぜ?いっそ国とか作っちまうか」


「そうなると私王女様?悪くないわね」


きゃっきゃと好き放題言う転生者たち。

高度な文明知識とか言ってるけど、こいつら車の作り方とか発電の仕方とか知ってるんだろうか。

『車という乗り物のことを知っている』のと『車の構造を理解して組み立てて運用できる』のとは全く価値が違うぞ。


自慢じゃないが俺は現代日本で活用されていた知識なんかはほとんど知らない。

なんならテンプレな手押しポンプの仕組みや構造だって分かってないし、マヨネーズの作り方すら知らない。

うん、チートが無かったら終わってたな。


「あの……私はアメルダさんに謝って、なんとかここに滞在させてもらえないか頼もうと思います。聞いた話では大きな町では貴族や教会が幅を利かせているようですし、新参者は肩身が狭いんじゃないかと思うんですよね」


そう言っておずおずと主張したのは栗色の髪の女性だ。

声をでかくして図々しいことを言うのは半数ほどの転生者で、後の半数は大人しいものだ。


「は?そうやってビクビクして一生町に入らないつもり?コロニーなんて所詮浮浪者の集まりなんだし、そんなとこにいつまでもいたら駄目な人間になるわよ。こいつらみたいにね?」


はんっ、と鼻で笑って壁際に立っている構成員を見る転生者の女。

アメルダがいなくなったから自分の立場が強くなったと勘違いして大きな顔をしているようだが……。

構成員は無言で女の後ろに立つと、その女の後頭部を殴った。


「ぎゃっ!」


汚い悲鳴を上げて椅子から転がり落ちる女。


「な、何するんだ!?」


「こいつ女を殴った!最低な野郎だ!」


「これだから犯罪者集団は!乱暴者!痴漢!セクハラ!殺人鬼!!」


「手ぇ出しやがったな!言い逃れできねぇぞ、どう落とし前つけてくれやがる!!」


一斉に騒ぎ出す転生者たち。

しかしそれに怯むことなく、構成員たちはお互いにこくりと頷き合うと歩み寄ってきた。

あ、これは不味いな?

調子に乗っていたのは半数だけとはいえ、相手からしてみれば全員同じに見えるだろう。

まとめて袋叩きにされる予感がする。


俺は対策しているからボコられることは無いが、俺だけボコられなかったら転生者たちに詰め寄られる気がする。

咄嗟に[転移]で逃げ出す方に意識を向けた時、ニアノーが武器を鞘に入れたまま壁に叩きつけた。

大きな音が鳴ってそっちに注目が集まる。


「ろくなスキルも力も無い、外に出たらどうせ野垂れ死ぬ奴ら。殴る価値も無い」


「だがよニアノー、ここまで舐められて黙ってろってか?そんな腑抜けここにはいねぇよ」


「落ち着け、すぐ頭に血が昇る良くない。こっち来い」


ニアノーが部屋の外に出て手招きする。

構成員たちは顔を見合わせると、ぞろぞろと出て行った。


「へっ、なんだよ口だけじゃねぇか。暴力振るう勇気も無いくせに虚勢だけは一人前だな」


「腑抜け!腰抜け!玉無し!あんたらみたいなクズ男、どうせモテないんでしょ!」


「ちょっと、大丈夫?立てる?」


「うう……痛い、血出てない?くらくらする……」


「あーああのままバトル始まったら俺のスキルでぶっ飛ばしてやったのによお」


結果的にボコられなかったからと、さっきまでビビった顔していた転生者たちはほっとした顔で暴言を吐き始めた。

それに対し大人しい転生者たちはどん引きした表情で、一緒にされたら敵わないと移動を始めて部屋の中でグループが二分化した。


ニアノーたちが戻って来ないので、話し合いが再開される。

その結果、『王都に行く派』『単独行動したい派』『このコロニーに残りたい派』と意見が分かれた。

意見をぶつけ合ってもお互い納得せず、そのままグループが分裂してそれぞれ別行動をすることとなった。


あの金髪イケメンは王都派だったが、別行動するとなればもう俺には関係の無い話だ。

ちなみに俺はしばらくこのコロニーに滞在させてもらってアメルダやニアノーと交流を深めたいと思っている。

なので、俺たちここに残りたい組は構成員の案内でアメルダのところへ行き、直談判することとなった。

ずっとここに居座るつもりは無いけれど、しばらく考える時間が欲しいとかもう少しこの世界のことを知ってから行動したいといった面々だ。


アメルダは俺たちの顔ぶれを確認して、何やら考え込んだ後に承諾してくれた。

ただし、客人扱いはしない。

臨時とはいえコロニー構成員となり、扱いは新入りの下っ端と同等となる。

先ほどのような豪勢な食事は出せないし、1人部屋やベッドなんて贅沢な物は無い、仕事だってしてもらう。

しかしここにいれば少なくとも瘴気に怯えず過ごせるし、仕事さえすれば飢えない程度の食事は配給される。


俺たちはその場で面談され、書類に署名をした。

 



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