秘密のあつこちゃん

空本 青大

オサナナジミ

「よいぃ……しょっっっと‼ふぅ、完成!あとは、ショータ君のハートを射止めるだけね、うふふ♡」


◇◇◇


「掃除お疲れー。じゃあねショータくん」

「うん、おつかれー。ばいばーい」


美化委員の仕事が終わり、ボクがそそくさと校門を出ると、スマホからLIONEの通知音が鳴った。

ポケットからスマホを取り出し、画面を見ると幼馴染のアツコちゃんからだった。


【ショータくん、委員の仕事終わった?今から家に来れる?】


校門を背にボクは即座に返事を返す。


【いいよー。なんかあったの?】

【それはひ・み・つ♪楽しみにしててね♡鍵は開けとくから、そのまま私の部屋に来てね!】

【了解】


返信を終えたスマホをポケットに戻し、足取り軽く目的地へと向かう。


(なんだろうなぁ……誕生日はまだ先だし、思い当たる節がないや。)


幼馴染のアツコちゃんは、幼稚園からの付き合いだ。ボクの家の隣に住んでて、何をするにも一緒だった。

思春期を迎えて、疎遠になった……とはならず、昔と何ら変わらない距離感で今も関係が続いている。

普通なら大人になるにつれて、溝ができそうなものだが、不思議なもので仲良くしてもらってる。

というか、むしろ

学校でも、普段でもアツコちゃんとはいつも一緒だ。

今日は珍しく先に帰っちゃったけど、いつもならアツコちゃんのほうから寄ってきて、周りから冷やかされたりするが、正直何とも思わない。


はっきり言うが、ボクはアツコちゃんのことが好きだ――


照れくさくて、勘弁してよみたいな態度を取ったりするが、隣にいてくれるのが嬉しくてしょうがない。

なんだったら、四六時中一緒にいたいし、ボク以外の人とは話してほしくない。

それぐらい大好きだ。


……そうだ、いい機会だ。前々から考えていたことを実行しよう。

一旦ボクの家に戻って、それからアツコちゃんの家に行こう。


◇◇◇


ピンポーン


インターホンを鳴らすが、誰も出てこない。

恐る恐る玄関のドアを開け、「おじゃましまーす」と声をかけるが、迎え入れてくれる人間は見えなかった。

アツコちゃんのご両親は海外を飛び回っているらしく、帰ってくるのは月のうち数日くらいらしい。

まあでも昔からなにかとお邪魔しているので、勝手知ったる他人の家と言わんばかりに中へと侵入した。


アツコちゃんの部屋は二階の角部屋にある。

玄関から入って目の前の階段を、ゆっくりと踏み上がる。

トントントンと足音を鳴らしながら、二階に上がったボクはひどく緊張していた。


アツコちゃんの用事もそうだけど、ボクの計画がうまくいくかどうか……。

考えてもしょうがないと腹をくくったボクは、頬を両手で叩き、アツコちゃんの部屋の前に立つ。

ふぅと呼吸を一息吐き、ドアをコンコンコンと叩く。


「どうぞー」と中から、聞きなれた声が聞こえる。

「はいるねー」と呼びかけながらドアノブを回し、扉を開いた。


するとそこには一面に、暗闇が広がっていた。


「びっくりさせるつもり?もう、子供っぽいんだから」


クスクスと笑いながら部屋の中に入ると、ボクの右足がに触れた。

紐のような感触を感じ、視線を下に移したそのとき―



ドスッ!



鈍い音と衝撃がボクの体に走った。

え……と間の抜けた声が自然と漏れだす。

そして、パァと部屋が明かりで照らされる。

すると目の前には、一丁のクロスボウがボクのほうを向いていた。

ゆっくりと痛みを感じた胸の部分に顔を動かすと、そこには矢が垂直に刺さっていた。

体から力が抜け、そのまま後ろへと、ボクの体は大きい音を立て倒れ込んだ。


仰向けになって天井が見えたとき、上からひょっこりとアツコちゃんの笑顔が覗いてきた。

手には大きななたが握られ、すこぶる上機嫌だった。


「良かった~うまくいって!失敗したらでやろうかと思ったけど、出番なかったよぉ」


なたをポイっと床に投げ、ボクの体の横に正座した。


「ア……ツコ……ちゃん……」

「実はねわたし……ショータくんのこと大・大・大好きなのぉ‼」


目をキラキラと輝かさせ、ボクの顔の至近距離でアツコちゃんは語り始めた。


「どんなに一緒にいたいと思っても、ずっと一緒にいられないの悲しいのぉ……お風呂に入ってるときも、トイレに入ってるときも、寝ているときも一ミリも離れず一緒にいたいのぉ……」


笑顔かと思ったら、すぐさま泣きそうな顔にコロッと表情を変えた。


「わたしとショータくん以外の人達が近づいて邪魔してくるし……もう我慢の限界来ちゃった♪」


そういうと、ボクの頭を抱えて自分の膝の上に乗せ、アツコちゃんの手が優しく髪に触れた。


「ショータくんの体大事にするから安心してね♡」


心の底から愛おしそうにボクの瞳を見つめるアツコちゃんに、ボクはささやきかける。


「アツコちゃん……もっと近づいて欲しい……」

「え?うん、いいよ♪」


ボクの顔に注意がいっている隙に、右手でポケットをまさぐり、を取り出す。

アツコちゃんが顔のギリギリまで迫ったそのとき―



ザシュ



「……え?」


ボクは潜ませていたポケットナイフを握り、アツコちゃんの頸動脈を切り裂いた。

ポカンとした顔が鮮血に染まる。

アツコちゃんの首から、おびただしい血が噴水のように噴き出した。

首がガクンと傾き、ボクの視線とアツコちゃんの虚ろな視線が交じり合う。


「ボク……もね……許せなかったんだ……ずっと片時も離れずいたかったのに……だからさ……今日永遠にアツコちゃんといるために……って決めてたんだ……」


息も絶え絶えにボクは、秘めていた想いを吐露する。


「ふふ……なんだ……相思相愛じゃん……」

「……だね」


2人の顔と顔が触れ合う。

ボクの唇にそっと、アツコちゃんの唇が重なる。

アツコちゃんから流れる血の温度が心地よく、ボクの心は穏やかに満たされる。



こうしてボクたちは一つになった……永遠に―—








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秘密のあつこちゃん 空本 青大 @Soramoto_Aohiro

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