【演劇台本】アンチ・ストックホルム

硝子の海底

アンチ・ストックホルム

       舞台中央にひなた、それを囲んで三人。



小鳥「ストックホルム症候群」


御影「誘拐事件または、監禁事件などの被害者が生存戦略として犯人との間に心理的な繋がりを築くこと」


久遠寺「これは、いびつ故に美しい、ひとつの愛の物語」


       御影、ひなたの手をとりはける。

       久遠寺、下手で椅子に座る。



小鳥「おはようございます、師匠!」


久遠寺「朝から騒々しいぞ、小鳥」


小鳥「だって久しぶりの依頼ですよ?私が師匠のところに来て約一か月、初めての!」


久遠寺「押しかけてきた、な」


小鳥「あっ、あと師匠。私のこと小鳥って呼ぶとき、絶対名前じゃなくて鳥だと思ってるでしょ。いいですか、小鳥は名前であって、私は鳥じゃないんですからね」


久遠寺「あんまり囀っていると焼き鳥にするぞ」


小鳥「ほらまた…」


       チャイム音。


小鳥「依頼人さんですかね、私出てきます!」


       小鳥はける、暗転。




       上手で手帳を持って立つ小鳥と、下手で椅子に座った久遠寺

       


小鳥「依頼内容は人探し、対象は依頼人の小学校時代の同級生です。小学校二年生の時に失踪しましたが親は捜索願・失踪届を出さなかったため、警察も動かず事件として扱われなかったようです。一週間前に行われた同窓会に参加した際、誰も対象の動向を知らなかったことを不思議に思い、彼女が失踪した謎と現在の居場所を明らかにするため、この久遠寺探偵事務所に依頼を持ちかけた、と…」


久遠寺「愚かだな。生きていれば依頼人と同じ二十一歳だ、顔も多少は変わっているだろう。依頼人の小学校に確認したところ名簿からは完全に消されている、在籍していたことどころか入学した痕跡すらなかった。顔も名前もわからない消された少女を探してくれだと?愚かにもほどがある」


小鳥でもお友達を探してあげたいって気持ち、蔑ろにするような師匠じゃないですよね?」


久遠寺「それこそ、この謎の最も愚かなところだよ。なぜ今まで放っておいたのか?なぜ今になって対象の安否を…いや、居場所を知りたいと思ったのか。十年以上も失踪しているのならまず、生きているかどうかも怪しい。しかし依頼人は、「彼女が失踪した謎と現在の居場所」の調査を依頼してきた。…不思議だとは思わないか?」


小鳥「それは…確かに…」


久遠寺「まぁ、私好みの美しい謎ではないな」


小鳥「…お断りの電話、入れてきます」


久遠寺「おい、引き受けないとは一言も言っていないだろう」


小鳥「えっ?」


久遠寺「なんだ、愚かだからといって調査しないような、崇高な偏食家だとでも思われていたのか?」


小鳥「でも、好みじゃないって」


久遠寺「好みじゃなくても仕事はするよ」


小鳥「やった!すぐに伝えてきます!」


       小鳥、はける。


久遠寺「醜さと愚かさ、美しさは表裏一体だということ、そろそろあいつにも教えておくべきだろう」


       暗転。



       明転。


小鳥「師匠、ここは?」


久遠寺「調査対象…消えた少女Xが小学生の時に住んでいた家だ。周辺で情報を集めることにする」


小鳥「聞き込み、ですね!任せてください!」


久遠寺「あぁ」


小鳥「ところで少女Xって何ですか?」


久遠寺「察しの悪い鳥だな」


小鳥「まさか、師匠独自のルートで既に手がかりを掴んでいて、Xはその暗喩だったとか…!」


久遠寺「…雰囲気作りだよ」


小鳥「…いってきまーす」


       上手、下手に分かれてはける。

       照明、オレンジっぽく変化。

       小鳥と久遠寺、はけたところから戻ってくる。


小鳥「疲れた…」


久遠寺「小鳥、収穫は?」


小鳥「まったく。収穫と呼べるものは何も…」


久遠寺「想定内だな。」


小鳥「師匠はどうでしたか?」


久遠寺「ん?」


小鳥「聞き込み、何か収穫あったんですか?」


久遠寺「私は聞き込みなんかしていないが」


小鳥「へ?」


久遠寺「小鳥が言ったんだろう」


小鳥「えっと…」


久遠寺「任せてください!」


小鳥「それは…」


久遠寺「もう日も暮れた。鳥目にはつらいだろうし、続きは明日にして帰るぞ、小鳥」


       久遠寺、小鳥の横を通ってはける。


小鳥「…コーヒーの、匂い。私に全部押し付けて、ずっと喫茶店にいた、ってこと…?」


小鳥「師匠のばかぁーー!だいっきら……ばか!!!!!!」


       暗転。




       明転。


久遠寺「さて、小鳥。今日は椚町に行く」


小鳥「いつものことながら突拍子のないことを言いますね、師匠。お土産楽しみにしてます」


久遠寺「寝言は寝て言え、小鳥も行くんだぞ」


小鳥「椚町に?」


久遠寺「あぁ」


小鳥「私が?」


久遠寺「お前以外に小鳥を飼っているように見えるのか」


小鳥「なんで?」


久遠寺「バカンスでなければ十中八九仕事だろう」


小鳥「なんで椚町なんですか?」


久遠寺「質問が多い。いいから黙ってついてこい」


       久遠寺、小鳥、いったんはける。


       久遠寺、小鳥、再登場。


小鳥「なんというか…閑静なところ、ですね」


久遠寺「田舎だな」


小鳥「いくら私がオブラートに包んで発言しても歯に衣着せぬ物言いで全部台無しにしていくスタイル、嫌いじゃないですよ~」


久遠寺「ここで小鳥に一つ仕事をしてもらう」


小鳥「はぁ…また聞き込みですか?」


久遠寺「いや…まぁ、そんなところだ。重要な情報を持っていると思われる女性がいる。彼女はかなり臆病でな、単刀直入に聞いたところで教えてくれるとは思えない」


小鳥「つまり?」


久遠寺「彼女が情報を話しやすいよう仲良くなれ」


小鳥「師匠じゃダメなんですか?」


久遠寺「適材適所、だよ。私に人心掌握は向いていない」


小鳥「なるほど…要するに、師匠が私のこと頼りにしてくれてるってことですね!」


久遠寺「都合よく解釈してくれて助かるよ」


小鳥「で、その女性というのは…」


久遠寺「あぁ、彼女だ」


       ひなた、登場、椅子に座って本を読む。


小鳥「…とっても、話しかけづらそうな方ですね…?」


久遠寺「行ってこい」


小鳥「面倒事を押し付けてるだけじゃないんですよね?」


久遠寺「行ってこい」


小鳥「師匠、私の話聞いてます?」


久遠寺「行ってこい」


小鳥「あーもう、わかりました!行きますよ!行けばいいんでしょう!」


       小鳥、ひなたに近づく。

       ひなたの横を通り過ぎるときにハンカチを落とす。


       ひなた、ハンカチを拾う。


ひなた「……あ、あの」


小鳥「…」


ひなた「あの、落としましたよ」


小鳥「?…あぁ、ありがとうございます!大切な人からもらったものだから、なくさなくて本当に良かった……何かお礼をしたいんですけど、どう?これから時間とか…」


ひなた「け、結構です。偶然目の前に落ちただけなので、私、何もいりません、お引き取りください」


小鳥「お引き取りって…あ、その本」


ひなた「まだ何か…?」


小鳥「私もそのシリーズ好きなんです、突飛なSFかと思ったら重厚なミステリだったり、主人公の仲間が漏れなく個性的で表情豊かだったり。特にあの、料理人の……」


ひなた・小鳥「蠅の悪魔!」


小鳥「私が小学生の時に出版されたから…十年以上になるんだ」


ひなた「私も、小学生のときに読んで、ずっと好きで…」


小鳥「ちょっと待って、あなた何歳?」


ひなた「えっと…あんまり言っちゃいけないの…」


小鳥「歳くらいいいじゃない、十八くらい?」


ひなた「に、二十一です」


小鳥「うそ、ぜんっぜん見えない。いいなぁ、かわいい」


ひなた「あの、そろそろいいですか、家族が心配するので…」


小鳥「家族と住んでるんだ。ねぇ、名前と連絡先教えてくれない?後日改めてお礼させて」


ひなた「名前は、ひなた。連絡先は…携帯、家に置いてきたから。でも持ってても、教えちゃだめだから」


小鳥「…仕方ないから連絡先は諦めるか。じゃあまたここに来てくれる?」


ひなた「…わかんない、来るかもしれないし、来ないかもしれない」


小鳥「うん、それでいいや。もう来ないって言われたらどうしようかって思ってた!私は小鳥、二十四歳です。定金って町から恋人と来たの。また会えるの、楽しみにしてるね!」


ひなた「小鳥…鳥さん?飛べるんですか?」


小鳥「小鳥って名前なの!」


ひなた「あっ…ごめんなさい…」


小鳥「…私こそ、大声出してごめんね。ついいつもの癖で…びっくりさせちゃったよね…ハンカチ、拾ってくれてありがとう。またね、ひなたちゃん」


ひなた「…さようなら、また。」


       ひなた、はける。


小鳥「…師匠」


       久遠寺、登場。


久遠寺「まぁまぁだな」


小鳥「他にもっとないんですか…じゃなくて!彼女って、もしかして」


久遠寺「おそらく、少女Xで間違いないだろう」


小島「それって、つまり…」


久遠寺「彼女は生きていて、現在彼女の生活を守っている…個人情報についての発言や他人との接触を控えさせる人物がいる。ほぼ間違いなく誘拐だな」


小鳥「どうしてここにいるってわかったんですか?」


久遠寺「昨日、小鳥が飛び回っている間に、近くの喫茶店で集めた情報から推測しただけだ。簡単な作業だよ」


小鳥「私には何も言ってくれなかったじゃないですか!」


久遠寺「小鳥が飛ぶ練習をしているんだ。やめさせる飼い主なんて無粋だろう?」


小鳥「そうやってすぐペット扱いする…」


久遠寺「ちゃんと仕事になったんだからいいじゃないか」


小鳥「それはそうですけど…てっきり、私が引き留めてる間に通報するのかと思ってました。よかったんですか?」


久遠寺「探偵がそんなことをしていたら、真実なんかいつまで経っても明かされないよ。警察は真実には興味がない。正義と真実は、時に背を向け合うものなんだ」


小鳥「…私は、師匠の求める真実のために、ここにいます。それが正義に反していても、私は気にしません」


久遠寺「やれやれ、ずいぶんと惚れ込まれたものだな」


小鳥「あったり前です、私、師匠のことだいすきですから!」


久遠寺「私も、大切な小鳥だと思っているよ」


小鳥「……」


久遠寺「明日も同じように、彼女と話をしてくれ」


小鳥「いいですけど、これっていつまで続けるんですか?」


久遠寺「「保護者」が出てくるまで、かな。展開にもよるけれど」


       久遠寺、小鳥、はける。

       暗転。


       明転。

       何日か小鳥とひなたとの会話を続ける。


       舞台上に小鳥。

       下手からひなた。


ひなた「…小鳥ちゃん、こんにちは」


小鳥「こんにちは、ひなたちゃん。今日は何を読むの?」


ひなた「あのね、小鳥ちゃん、定金から来たんだよね」


小鳥「うん、そうだよ」


ひなた「小鳥ちゃん、私、どんな理由でも、定金に帰るつもりないんだよ、ごめんね」


小鳥「どういうこと?」


ひなた「私、今、幸せなの。大好きな人と、大好きな場所で、生きてていいこの時間が、大切で、大好きなの。だからお願い、邪魔するのはやめて」


小鳥「邪魔なんかするつもりないよ、どうしたの急に…」


ひなた「…知ってるの。小鳥ちゃんが最初、わざと話しかけさせたことも、ずっと私を見てる人がいることも、その人と二人で私を探してたことも」


小鳥「…そっか」


ひなた「だから、帰って、ください。もう来ないから…」


小鳥「…わかった」


       ひなた、小鳥に背を向ける。

       下手に御影。


御影「ひなた」


ひなた「御影…?なんで、」


御影「ひなたがお世話になっている人がいるみたいだったから。僕が気付かないと思った?」


ひなた「あ…迷惑、かけてごめんなさい」


御影「気にしないで、ひなたは好きなところに行っていいって、いつも言ってるだろう」


小鳥「…あなたが」


御影「小鳥さんですね。ひなたを探しに来てくれたのは」


小鳥「来てくれたなんて、おかしな言い方ですね。誘拐したようなものじゃない」


御影「誘拐……そうかもしれない。ひなたにかわいそうなことをしている自覚はあるよ。まともに学校にも行けず、友達を作ることさえさせてあげられない」


小鳥「だったらなんで、」


       久遠寺、上手から出てくる。


久遠寺「小鳥」


小鳥「…師匠」


久遠寺「そんな頭ごなしに否定するものではないよ。まずは相手の話を聞くことから、ね?」


小鳥「…すみません」


御影「そうは言っても、こちらが話すべきことなんてないんじゃないですか?ここがわかったってことは、あなたは全部知っているのだと思っていましたが」


久遠寺「えぇ、まぁ。あとは仮説の答え合わせをするだけだ。付き合っていただけますね?」


御影「…えぇ、あなたのためではなく、ひなたのために」


       暗転。




       舞台中央にひなた。ピンスポ。


御影「僕がひなたに出会ったのは、彼女が小学校に入学したばかりのときだった。小さな体で、世界中の輝きを集めたみたいに笑う彼女を、「近所のお兄さん」として見守っていた、それだけだった」


       地明かりに切り替え。


ひなた「おはようございます、おにいさん!」


御影「おはよう」


御影「三か月が過ぎたころ、ひなたの頬に痣ができているのを見つけた。彼女に聞いても何も教えてはくれなかった。でもその頃のひなたは、苦しげに笑うばかりだったから、僕は虐待を疑った」


ひなた「なにもないの。おかあさんもやさしいし、がっこうもたのしいよ」


御影「…そうか」


ひなた「お母さんは、お父さんがいなくなってから私を毎日蹴ったの。私の顔が、お父さんに似てるから。学校でも、背が低いってそれだけが始まりで、男の子にも女の子にも仲間外れにされて、すごく嫌だった。でも、御影に迷惑かけるのは、もっと嫌だった」


御影「おはよう」


ひなた「…おはよう、お兄さん」


ひなた「そしたら、二年生になったばかりのとき、御影が私を助けてくれた」


御影「…その怪我」


ひなた「……しにたい」


御影「は?」


ひなた「しにたい、わたし、いなくなりたい。もういたいのも、かなしいのもやだよ…」


御影「……じゃあ、僕が、君をしなせてあげる」


ひなた「ほんと?」


御影「あぁ。もう、痛いのも、悲しいのも終わりだ」


ひなた「…うれしい」


      御影、ひなたを撃つ動作。


御影「ばん」


ひなた「え?」


御影「今、君はしんだ。今からは、生まれ変わって、別の人間として生きていい」


ひなた「…学校にも行かなくていい?家にもかえらなくていい?」


御影「あぁ。居場所はこれから探せばいいし、見つかるまではうちにいていい。名前も新しく…そうだな、ひなた。ひなたがいい」


ひなた「ひなた…」


御影「お日様の当たる、明るい場所のことだよ」


ひなた「…ひなた。わたし、ひなた!」


御影「大きくなって、帰りたいと思ったら帰ってもいい」


ひなた「…ありがとう」


御影「あぁ」


ひなた「お兄さんは、どうしてやさしいの?」


御影「僕は優しくないよ。ひなたに優しくするのは、ひなたに優しくしたいからだ」



       暗転。




       明転。


久遠寺「ふ。ストックホルム症候群か」


御影「…そうかもしれない」


小鳥「ストック…何ですかそれ?」


久遠寺「生存本能から発生する一種の依存感情だよ」


小鳥「…そんな」


ひなた「そんなものと、一緒にしないで!」


小鳥「ひなたちゃん」


ひなた「誰も助けてくれなかった、みんな見えないふりをした、御影だけが私を助けてくれたのに。御影しか助けてくれなかったのに。御影が怖いから一緒にいるなんて、そんな言い方しないで!そんな病気と、一緒にしないで!」


小鳥「ひなたちゃんを探してる人がいるんだよ、帰ろう?」


ひなた「私はひなた。その人が探してるのは、ひなたじゃないでしょ」


久遠寺「なるほど、一理あるな」


小鳥「師匠!?」


久遠寺「依頼人の探している人物は消えた少女Xであって、我々の見つけた「ひなた」ではない、という理屈だよ」


小鳥「そんなの屁理屈じゃないですか!」


久遠寺「あぁ、屁理屈だ。…御影さん。一ついいかな」


御影「あぁ」


久遠寺「彼女を殺した理由を知りたい。内容如何によっては、我々は目を瞑る」


御影「子供騙しでも、自己満足でも…ひなたが、もう一度太陽みたいに笑えるようにしてやりたいと、その一心だった」


久遠寺「後悔は?」


御影「何度か」


久遠寺「ふ。美しいな」


小鳥「師匠」


久遠寺「帰るぞ、小鳥。少女Xはすでに死んでいる、見つからなかった。この件は終いだ」


ひなた「久遠寺さん」


久遠寺「なんだ」


ひなた「…ありがとう」


久遠寺「礼なら私ではなくそこの男に言え」


ひなた「…小鳥ちゃんも、ありがとう」


小鳥「私は、納得してないから」


御影「…帰ろう、ひなた」


ひなた「うん」


       御影、ひなた、はける。


小鳥「本当に、なかったことにするんですか。犯罪ですよ」


久遠寺「犯罪上等だよ。私の真実と正義が相反するものだっただけだ」


小鳥「でも」


久遠寺「小鳥は、運命が何か知っているか?」


小鳥「運命、ですか?…奇跡のようなものでしょうか」


久遠寺「偶然がいくつも重なった必然のことだよ。たった一人、誰か一人でも自分の存在を許してくれたら、それだけで生きていける。偶然を重ねて出会ったお互いがその「誰か」だったとき、人はそれを「運命」と呼ぶんだ」


小鳥「…あの二人が運命だって言いたいんですか」


久遠寺「あぁ。実に愚かで美しい」


小鳥「…いつか、納得できるって信じてます」


久遠寺「頑固だな。小鳥には、あの二人がどう見える?」


小鳥「……」


久遠寺「幸せに見えないか?」


小鳥「…幸せ、だと思います」


久遠寺「ならそれでいいんだよ。私たち二人がこの数日間を忘れることで、彼女たちの幸せが守られる。それで十分じゃないか」


小鳥「…わかりました」


久遠寺「小鳥はまだまだ小鳥だな」


小鳥「鳥じゃないです」


       暗転。




小鳥「師匠!」


       明転。


久遠寺「今日も元気そうで何よりだ、小鳥」


小鳥「これ!見てください!」


久遠寺「「西條探偵の愛猫」…?ありがちなタイトルの小説だが、これは?」


小鳥「私の好きな小説の…ひなたちゃんと話すきっかけになった本の作者の新刊なんですけど、あらすじ!」


久遠寺「…探偵が愛猫とともに事件を解決するミステリ、追うのはストックホルム症候群の少女と少女を誑かす極悪人…。なるほど、自虐ネタか?」


小鳥「つまり、御影って人が、作者本人…?」


久遠寺「そうなるな」


小鳥「嘘だ…私の大好きな作家が、ロリコンだったなんて…」


久遠寺「ふ。しかし、よかったじゃないか、小鳥として書かれていなくて」


小鳥「ホントですよね、この本の中では西條探偵の助手役は、彼の溺愛する猫なんです…って、私はペットじゃない!」


久遠寺「はっはっはっ」


       暗転。




       ピンスポ。

       上手から小鳥、御影、ひなた、久遠寺で立つ。


小鳥「ストックホルム症候群」


久遠寺「その愛は枯れゆく運命を持った、ひと時の花かもしれない」


御影「あるいは、いびつな紛い物かもしれない」


ひなた「それでも、今はただ」


御影・ひなた「君(あなた)のそばで咲いていたい」



       終幕。

 

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【演劇台本】アンチ・ストックホルム 硝子の海底 @_sakihaya

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