第13話 中年を(精神的に)殺す回

 翌日の放課後。


 啓二は渋々オタク研究会に与えられた小さな部室にやって来ていた。


「という訳で!」

「約束通りゲーム教えろよ!」

「え、ぁ、えっと……ざまぁ!」


 雛子達が言った後、海璃は困ったようにキョロキョロし、ビシッと啓示に人差し指を向ける。


「特に言う事がないなら黙ってろよ」

「私だけ台詞がないと寂しいでしょ!?」

「知るかよ」


 海璃の戯言を適当に受け流す。


「それにしても、よくオタク研究会なんてのが認められたな」


 そんな部はラノベや漫画、フィクションの世界にしか存在しないと思っていた。


「ね! 凄いでしょ! 三人で頑張ったんだよ?」

「こう見えてオレ達見た目だけじゃなく中身もイケてる優等生だし?」

「あくまでも真面目にオタク文化を研究する部って事にして、月一でレポート出す事を条件にオッケー貰ったのよ」

「で、そのレポートは誰が書くんだ? 先に言っておくが俺は絶対にやらないからな」

「言われなくたってお前に期待はしてねぇよ」

「あたし達、昔から三人で自由研究とかやってたから。なんとかなるんじゃないかなぁ?」

「雛子のアイディアにテトラの絵、そこに私のレポート力が加われば〇ヴァイ兵長に立体起動装置よ!」

「〇ンジにチェーンソーだぜ!」

「じゃああたしはキ〇にパースエイダー?」

「……覚えたての言葉を使いたい小学生かよ」


 いつの間にかすっかりオタクに染まった三人である。


「それで、肝心のゲーム機はどこにあるんだ?」

「ここにありま~す!」


 ポンポンと雛子がテーブルに置かれたダンボールの箱を叩く。


「……デカくないか?」


 ゲーム機一つ入れるにしては大きすぎるサイズだ。


「色々買ったからな!」

「オタク研究会のオッケーを貰った後、みんなでゲーム機を買いに行ったのよ。そしたら安い中古品が沢山あって。どうせ共用だし、それでいいかなって事になったのよ」

「いや、中古って言ってもそんなに安くはなかっただろ」


 状態にもよるが、元の値段が高いから安くたって数万はするはずだ。


 ソフトも買わなければいけないし、三人で出し合ったって幾つも買えるはずはないのだが……。


「え? 普通に安かったよ?」

「高い奴でも五千円くらいだったよな?」

「こんなに安いなんて知らなかったらビックリしたくらいよ」

「高くても五千円? ありえないだろ。ジャンク品でも掴まされたんじゃないのか?」


 なんだか嫌な予感がしてきた。


「そこはちゃんと店員さんに動くか確認しました!」

「本体だってカオスゲートに置いてるのと同じの選んだし」

「単純に私達が買い物上手だったってだけでしょ。変な言いがかりはやめてよね」

「だったら中身見せてみろよ」

「いいけども。まずはコレでしょ?」


 ゴソゴソと雛子が箱の中から薄っぺらい灰色のゲーム機を取り出す。


「〇レステ!?」

「ビックリした! 急にデカい声出すなっての!」

「なによ。文句あるって言うの?」

「いや、だって、〇レステだぞ!?」

「知ってるわよ。物凄く人気で売れてるゲーム機なんでしょ?」

「その認識は間違ってないが……。お前ら絶対勘違いしてるだろ。これは初代で、最新のは〇レステ5だぞ? 買うなら最低でも4からだろ……」

「そうなんだ?」

「まぁ、動きゃいいだろ」

「ねぇ。初心者なんだし、多少動作が遅くても気にしないわよ」

「〇イフォンじゃないんだぞ!? ソフトの規格が違うんだよ! それにそいつは30年も前に出た機種だ!」

「「「30年!?」」」


 やはり知らずに買ったのだろう。


 三人が声を裏返らせる。


「そんな事だろうと思ったぜ……」


 やれやれと溜息を吐く。


 この様子なら他の本体も古代種なのだろう。


「じゃあ、これはどうなんだよ!」


 焦った様子でテトラが取り出したのは白い本体に赤い渦巻のロゴが入ったゲーム機だ。


「〇リームキャストって……」


「な、なによ! そんなにダメなゲーム機なの!?」

「いや、ダメって事はないが……。一応世代的には初代〇レステより新しいし……」

「そうなんだ?」


 ホッとしたように雛子が胸を撫でおろすが。


「新しいって言っても26年前だぞ?」

「26年前……」

「オレ達余裕で生まれてねぇって!」

「骨董品じゃない!?」

「まぁ、その年に発売されたってだけで製造年数的にはもっと新しいんだろうが……。なんにしても大昔のゲーム機な事には変わりない。ソフトだってもう出てないし。てか、なんでそいつを選んだんだ?」

「見た目が可愛かったから……」

「〇リームをキャストって名前もなんかかっこよかったし……」

「ここに小さな〇イフォンが入ってるのよ! 見るからに未来的でお得じゃない!」


 コントローラーの拡張スロットに入った〇ジュアルメモリの事を言っているのだろう。


「……まぁ、確かに小さな〇イフォンに似てない事もないが」


 言ってしまえば簡単なゲーム機能のついたデカいUSBだ。


 小さな〇イフォホンみたいな物と言えない事もないが、それにしては性能差が違い過ぎる。


「容量だって1メガしかないぞ」

「いやいや、流石に1メガは嘘だよ」

「それっぽっちじゃなんにも保存出来ないだろ!」

「私達がにわかだからってからかってるでしょ!」

「だったらいいんだけどな。残念ながら本当だ。まぁ、ゲームデータを保存するだけなら別に問題は……。ないとは言い切れないが……。ゲームデータの記録媒体としてもちょっと容量は少なめだ。あとそいつを動かすには電池が要る」

「えぇ……」

「なんでだよ!?」

「コントローラーに挿さってるのよ!? 充電出来るんじゃないの!?」

「26年前の遺物だぞ? そんなハイテク機能は搭載されてない。ちなみにだが、この拡張スロットにはメモリーの他に振動パックやマイクなんかを付け替えられる」

「振動パックって凄いのか?」

「わかんないけど、お店にある新しいゲーム機はそんなのなくてもブルブルするよね?」

「でも、マイクは凄いわよ! マイクが付いてるって事はゲームのキャラとお喋り出来るって事でしょう?」

「………………まぁ、一応」


 相手はキモイ人面魚で、意思疎通も困難だが。


 勿論啓二は世代ではないが、ゲームも嗜むので多少の知識はある。


 カオスゲートには大抵のゲーム機が揃っているし、その影響で啓二もメジャー所は一通り集めていた。


「最後はこれなんだけど……」


 しょんぼりした様子の海璃が取り出したのは四色の円がロゴに描かれたカセット式のゲーム機だ。


「スーパー〇ァミコン……」

「これも古いの?」

「一番古い。発売されたのは34年前だ」

「34年とか親と同じくらいだぞ!?」

「っていうかゲーム機ってそんなに昔からあったのね……。なんだか驚きだわ……」

「で。これを選んだ理由は?」

「安かったから!」

「ソフトもいっぱいあったしな」

「カオスゲートでも結構人気あったじゃない!?」

「まぁ、あそこはレトロゲームを遊びに来る客も多いから間違ってはいないんだろうが。ゲーム初心者の入門機としてはどうなんだろうな……」


 レトロゲームだから悪いという事はない。


 啓二自身昔のゲームを遊ぶことは結構ある。


 今のゲームと比べると〇レステや〇リキャスのCGはかなり劣るが、これはこれで味があるし、それを補って余りある良さを持つ作品だって沢山ある。


 スー〇ファミはドットの作品が多く、こちらに関しては今のゲームよりも綺麗に感じる程だ。


 ゲームの内容や雰囲気だって最近の物とは全く違っていて、レトロゲーでしか楽しめない作風も多数ある。


 だから悪い事はないのだが。


 なんと言うか、ここから始めるのはコア過ぎて今後のゲーマー的性癖が歪みそうな気がしてしまう。


(……なんて思うのはオタク特有の余計なお節介か)


 実際三人はがっかりしたような顔をしている。


 せっかくのご新規様を追い返すようなマネは啓二もしたくはない。


「そんな顔するなよ。確かにこいつらは古いゲーム機だが、どれもこれもその時代では大人気の名機だったんだ。古いって事はそれだけ沢山の名作が出てるって事でもあるしな。見た感じソフト選びは問題なさそうだから、それなりに楽しめるだろ」


 それを聞いて三人がホッとする。


「よかったぁ~!」

「雛子が店員にオススメ聞いてくれたお陰だな!」

「っていうか、あんたが脅かすような事言うから悪いんでしょ!」

「それを言うならお前らが俺に相談しないで買うのが悪いんだろ」

「だって間君忙しいって言うし……」

「いつも頼ってばっかりじゃ悪いと思って気を使ってやったんだろ!」

「そうよそうよ!」


 そんな殊勝な事を考えていたとは知らなかった。


「……悪かったよ。そのくらいの面倒は見てやる。次からはダメ元でラインしろ。内容によっては助言してやる」

「そうしま~す」

「頼むぜマジで」

「じゃあそっさくだけど、これを遊べるように繋いでちょうだい」

「助言すると言ったんだ。お前らのパシリになると言ったわけじゃない」

「私達がお金出して買ったのよ! あんたも遊ぶんだし、それくらいしてくれてもいいと思うのだけど!」

「……わかったよ! やればいんだろやれば! その代わり、お前らも見て覚えろよ!」

「「「え~!」」」

「え~! じゃない! 難しくないし、出来ないと俺がいない時に困るだろ!」

「「「は~い……」」」


 不満そうに返事をする。


「ったく……」


 ぼやきつつ、とりあえず啓二はスー〇ァミのセッティングを始めるのだが。


「ぁー。こりゃダメだ」

「なんで!?」

「もしかして不良品だったのか!?」

「え~! 楽しみにしてたのにぃいいい!?」

「いや、店員が動くって言ってたなら動くとは思うんだが……」

「じゃあなにが問題なのよ!」


 せっつく海璃に啓二は赤、白、黄色の三本コードを振ってみせた。


「見ての通りだ。こいつはHDMIじゃないから変換アダプターがないとテレビに挿さらん」

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