父好みの味を追求せよ!!〜豚汁編〜 失敗?

明鏡止水

第1話

今日はお天気の影響で電車のダイヤ? が乱れた。

スマートに帰ろう。

そう思っていた……。

しかし。

途中下車。

お金もなけなしの一万円くらいしかないのにアニメイトへ行ってしまった。


アニメイト。


昨日も一昨日も行ったんじゃないか?

というくらい行ってる。

ちなみに三千円以上するフリーサイズのTシャツとか買ってる。


同じの一つ持ってるのに……。


だって、勿体無くて、封を切れない!


!! なら、もう一枚買えばいいんだ!


豚汁の話をします。

私の父は豚汁が好きです。

できるだけ「そのまま」の豚汁が好きです。


「そのまま」とは。


母がですね、農家ではないにしても趣味で野菜を作っている田舎の生まれなので、けんちん汁だろうが豚汁だろうがとにかく、獲れた食材をぶち込むのですよ……。


「普通のもん作れよ!!!!!」


父の強い主張。

父の家庭は共働きで温かいご飯も出ず、美味いものは全て祖父へ。出されるおかずはミートボールなどが単品でお皿に乗ってくる。

質素で、言ってしまえば工夫のない単品料理でした。けして祖母は料理が下手だったわけではなく、忙しくて凝ったものを作っている余裕が無かったのです……。


おっと、お話を豚汁に。


今年のお正月のお雑煮の汁もね、不味かった……。

年々母が料理の腕を落としている。

働いていて朝工夫を凝らして素敵なお弁当も作れるのに、なんか、人の作ったものにケチつけて悪いけれど、不正解なんですよね。私の舌では。大根かたいし、おつゆも美味しくないし、白菜は無駄に大きくて一口ではいけず、つゆが滴り落ちぬよう、苦労して食べる……。かまぼこは飾り切りもなし。

ほうれん草は別茹での、冷めた冷たいおひたし用をちょこんと乗せられる。


まっず。


自分でいよいよ料理をせにゃ!


明鏡止水は、アニメイトで三千円と、ガチャガチャに二千四百円。ベルクで五千円くらい買い物して。


日頃の感謝を伝えるため、父に至高の父好みのシンプルなお店で出るような。

豚汁をご馳走したい!!!!!


しかし、予算は限られています。


出汁入りの「豚汁・けんちん汁のもと」を買いました。「里芋」のパウチも買いました。時短と、手間の節約です。


豚肉はたくさん入れてあげたい!

大きいパックのを買いました。

生姜焼き用のお肉も値引きだ! 買おう!!

きのこ類も安い! 父、きのこ大好き!

寒いから家にある一番小さい鍋に湯豆腐も作ってあげよう!

5種盛りのお刺身が五百円? 父、お刺身も好き!


買います!!


あとは自分の好きな辛子明太子や焼き芋です。


家に帰って、まず湯豆腐を用意。

ご飯がなかったので米を5号炊きました。

さて!

豚肉を汁物用の鍋でサラダ油をしいて、炒めるところから。

そして、豚汁の素! 水は500mlでいいそうです。

ちゃんと量った。というか普通量る。

困ったのは、軽量スプーンが無かったことです。


しかも、

醤油 大さじ1

味噌 大さじ1


足りないよね? 薄いよ……、絶対……。

パッケージのレシピに不満が募ります。しかし、シンプルかつ、スマートな豚汁を作るんだ!!

薄かったら味噌を足せばいい!!


そこへ。


魔王が、帰ってきました。


私は調味料の配分で混乱して掬い損ねた豚肉の灰汁を一生懸命除去しているところでした。


私の味見では、やはり、薄いのです……。


魔王に味見を頼みました。一瞬で不味そうな渋い顔をして

「なんか、変な味する! なんだろう、生臭いような!」


外国産の肉がいけなかったのでしょうか。

すると、魔王たる母は。


調味料入れからとあるモノをおたま一杯溜めて、鍋の中にぶち込みやがったのです。


「……いまのなに?」

「へ? めんつゆ」


「め ん つ ゆ !!」


「豚汁にめんつゆって入れるの?……」

「? 豚汁作ってたの?」


馬鹿。

超馬鹿。


悔しい。私が精一杯父を思ってパッケージのレシピ通りにシンプルなすき屋とかはま寿司とか、チェーン店で男の人が思わず頼んでしまうような「ちょっとした、しかしうまい豚汁」を錬成していたのに。


何を作っているか聞かずにめんつゆをぶち込むなんて。


しかも、私は母に味見してもらうときに「豚汁なんだけど……」と伝えていたのです。


こんな暴挙に出た後でも魔王は私の理想を破壊してきます。常識を問いかけてきます。


「豚汁作ってるならこの牛蒡いれてくれる? 牛蒡好きなの」

「……いいけど、お父さん牛蒡入りの豚汁好きなの? ……そもそも豚汁に牛蒡っていれるの?」


ショックが大きすぎて何が何だかわからなくなってきました。


そして、もう一つ、ショックなこと。


(里芋入れ忘れた!!)


急いで封を切ってとぽとぽと、醤油と味噌とめんつゆの地獄へ投入される皮の剥かれた便利なパウチの里芋さんたち。

しばし、煮よう!


「止水ちゃん、普通、里芋は切るのよ。あの人大きいと嫌がるし」


「切るの?!」


もう、ぐだぐだです。

私の豚汁は既にめんつゆで死んでるんです。


生姜焼きも用意して母にビールのおつまみとして提供。


夕食を食べながら、納得のいかない私は父にLINEを送ります。


〈豚汁作ったら母にめんつゆ入れられた〉


父からの返信。


〈めんつゆは無い〉


晩酌をしている魔王・母に告げます。


「やっぱり豚汁にめんつゆは無いって……」

恨みがましく言うとケンカになりそうなのでそっと伝えました。すると。


「え? 豚汁作ってたの?」


何を言ってるんだこのババアは……。

台所でさっきまであんだけ私が豚汁、父に作る!

豚汁なんだけど! と訴えていたのにっ!!!!!


「……え、な」

「てっきり醤油味の汁物作ってるのかと思ったわ」


だとしたら失敗しねぇーし、そもそもめんつゆいれねえーわ、普段。なんでもめんつゆでカタがつくと思うなよ!!


「油揚げも入れといて。普通入ってるから。あと本当は白味噌がいいのよ止水ちゃん、お味噌足せば大丈夫よ」


次から次へと捲し立てます。


挙げ句の果てには味を整え始めて


「これがうちの味」


無惨にも足された水分。増えた容積。


「ちゃんと水を量って入れたのに!!」


悲しくなってきました。自分の料理が母に味見を頼んだばかりに踏み躙られっぱなしです。


「ネギだって入れる時もあるんだから!」


……、私が今回作りたかったのは父の為の豚汁だと散々伝えたのに。聞く耳を持ってくれませんでした。


……母の料理、食べるの嫌だな。


作ってくれて感謝する日もあるけれど、複雑な心境です。


果たして夜勤から帰った父は、豚汁を食べてくれるでしょうか……。

仮に父が「この具材の入ったこの味の我が家の豚汁がたべたかったんだよお!」と喜ぼうものなら。


私は立ち上がれません。


……。この家で料理の上達って無理かも。


だって生姜焼きも父が

「シンプルでいい。シンプルがいい」

と言って。

我が家ではフライパンで豚肉を焼いた後、その中で醤油とチューブの生姜を菜箸で混ぜ混ぜして一枚一枚に浸らせるのです。みりん? とか、使ってみたときもあるけれど反応は特になし。


同世代の人はどれくらいお料理がうまいのか?


ちなみに湯豆腐さんはえのきと豆腐一丁と椎茸さんをお湯の中にぶち込むだけ。昔は出汁で煮ておくもんなのかなー? と顆粒の出汁の素で軽く茹でてました。


今夜は風も強く寒かったですね。

あったかいものでぬくぬくといきましょう。


明鏡止水の〜豚汁〜 失敗編? 

にお付き合いくださり、ありがとうございました!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

父好みの味を追求せよ!!〜豚汁編〜 失敗? 明鏡止水 @miuraharuma30

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ