第4話 ずっと一緒だったの



 戸田 志良とだ しいら。去年から同じクラスメイトで、高校に入ってから出来た俺の友人だ。

 戸田は、俺の前の席に座る。それから反転して椅子の背もたれ側にお腹をくっつけ、俺の机に肘を乗せる。


「ま、週明けの学校なんてテンション上がらねえってのは、わかるけどな。

 けどよ、いいよなー辰は」


「なんだよ藪から棒に」


「そりゃ、あんな超絶美人の彼女がいるんだもんよ」


 戸田は声を弾ませ、俺の彼女について指摘した。

 右希うきが俺の彼女であることは、戸田……いや、すでに校内のほとんどの人間が知っていることである。


 それは、俺や右希、もしくは左希さきが周囲に話したから……ではない。


「あんな幼馴染がいたら、学校生活もまさにバラ色って感じ!?

 それにしても右希ちゃん、おとなしそうな見た目しといて勇気あるよなー。入学早々に、あの伝説の桜の木の下で告白なんてさ」


「……」


 右希が、俺に告白をしてきた桜の木……それには、学校でまことしやかに囁かれている、伝説がある。

 その内容が、『校内で一番大きな桜の木の下で告白をした男女は必ず結ばれる』というもの。


 どこかで聞いたような伝説だが、実際に成立したカップルは数しれず。らしい。

 それは、誰もが知っていると言っても過言ではないものだ。忘れてはいたけど、俺だって知っている。


「ま、伝説関係なしに、あんな美人に告白されたら、即オーケーだけどさ!」


「……」


 もちろん、伝説の桜の木の下での告白だけで、それが校内にまで広まることはない。普通ならば。

 問題は、告白したのが右希だということだ。


 晴嵐 右希せいらん うきと、晴嵐 左希せいらん さき。入学してきた美人双子の話は、一日とせず校内を駆け回った。同級生だけでなく、上級生すらも。

 彼女らの動向を気にする目は、多かった。


 それは、入学翌日の告白であろうと。……その話が広まってしまうのに、時間はかからなかった。


「人の口に戸は立てられぬってね。

 入学してきた超絶美人が、一つ上の冴えない男子生徒に告白となれば、そりゃ話は広がるだろ!」


「冴えないは余計だ」


 入学時から注目されていた右希が、伝説の桜の木で告白をした。

 あのとき周囲に人はいなかったが、まあ校内の話だ。どっかで誰かに見られていたんだろう。


 そしてその話は、あっという間に広がったと。そういうわけだ。


「で、今や学校中が知る有名カップル。羨ましい!

 しかも、右希ちゃんには彼女に瓜二つの超かわいい妹までいるってんだから。羨ましい!

 そんな二人と! 幼馴染!」


「わかったから嫉妬の視線を向けるな。あと、馴れ馴れしく右希ちゃんと呼ぶな」


 先ほどから戸田は、右希のことを右希ちゃん右希ちゃんと言っているが、二人に接点はない。顔を合わせたことはあるが、右希が戸田を認識しているかは不明だ。


「くぁー! 俺も生まれ変わったら、あんな美人姉妹の幼馴染になりてぇ!」


 ……入学したての美人女子生徒が、先輩の男子生徒に告白する。これは、周囲の中で大きな反響を呼んだ。

 だって、入学したばかりの子が、先輩に告白したのだ。そりゃ、二人の関係はなんだってなる。


 一目惚れにしたって、急すぎる。ならば、中学以前から付き合いがあったのか。

 そうした憶測が憶測を呼び……ついに、真相を聞き出すために誰かが、右希に聞いた。


 俺との関係性を。すると右希は、答えた。



『えっと、たっく……荒蒔あらまき先輩とは、幼馴染で。学校も、ずっと一緒だったの』



 それはもう、素直にあっさりと。後になって、勝手にはなしてごめんと本人に謝られたものだ。

 俺としては、別に隠す意味もないのだから、別によかったが。……彼女にしろ彼女でないにしろ、美人幼馴染がいるって時点で、嫉妬の視線は向けられるものだ。


 しかも、ただの美人幼馴染ではない。双子の美人幼馴染だ。

 これはもう、うん、すごい。


 ただ、嫉妬の目はあっても直接的になにかされることがないのは、救いと言うべきかな。


「どんな徳を積んだらあの二人の幼馴染になれて、その片方と付き合えるんだよー。教えてくれよ荒蒔先生よー」


「すがるなうっとうしい」


 こうして、戸田のようなお調子者が俺の相手をしてくれているのも、周囲からの軋轢を緩和してくれているのではないかと思う。

 戸田はクラスのムードメーカーのようなものだし、人との距離を詰めるのが……バランスの調整ってやつがうまいのだ。


 だから、俺が孤立しないよう、俺を弄りに来たりしているわけだ。

 戸田本人がそう言っているわけではないし、俺が勝手に思っているだけだが。


 ただ、戸田がからかったりしてくれるおかげで、必要以上に人が寄ってこないのは確かだし、戸田の友達も俺に対して気さくに話しかけてくれる。

 からかってくれるおかげで、クラス内での立場もある程度のものを維持できている。



 キーンコーンカーンコーン



「ほら、チャイム鳴ったぞ。席に戻れ」


「ぶーぶー」


 話し込んでいる内に、」ホームルームの予冷が鳴る。それを合図に、クラスメイトの動きも自分の席に戻るようなものになる。

 時間が来たため、仕方ないと言わんばかりに戸田は退散する。


 教室は賑わいを見せつつも、担任が教室に入ってくると幾分落ち着いた。そして、ホームルームが始まる。

 今日も、いつもどおりの一日が、始まる。

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