秘密が隠されているのは・・・書庫だけじゃないんかいっ




 和やかな雰囲気漂う昼どきの職員カフェ。

「はじめての始末書が、なんと二十枚もの紙束だったんだよ。それを通常業務の片手間に半日で仕上げろって言われてもさ、そんなの無理じゃね!?」

しおしおにしおれた苦笑いで愚痴ぐちるフェルナンド。

「まぁまぁ、落ち着いて。君のことだから、それでもちゃんと仕上げたんだろ? ならば、アルフレド殿は君の能力のほどを正確に把握しているってことじゃないのかな」

「うーん、どうだろう。……そうなのかなぁ」

いつも一緒にランチを過ごす同期事務官の一人がおだやかに彼をさとす。

そこにもう一人が楽しげに茶々を入れる。

「ま、僕ら新人は先輩方にまれたりしぼられたりするのが仕事みたいなもんだからね。そんでもって、先輩方は僕らにこうやって愚痴を言われるのも仕事のうちさ」

残りのもう一人も調子を合わせ。

「そうそう。皆そうやって成長していくんだろうよ」

「むう。そういうもんかねぇ……」

「きっと、そういうもんさ。知らんけども」

ハハハハハっと場に楽しげな笑い声が響く。



 おもむろに最初の穏やか君が話題を変えた。

「そういえば、ボクもこの前始末書を書く羽目になったんだよ。うっかり当代賢者様の恋文を古書研究会会合のお知らせ書簡と混ぜちゃってさ……同じ封筒だったものだから、いちいち中身を確認して数百通の中からたった一通を探し出すのに苦労したのなんのって。その挙げ句にしこたま怒られちゃった」

それに食いついたもう一人。

「その古書研究会って、じつは地下の遺跡をほじくり返して発掘してるお宝探し同好会なんだってもっぱらの噂だよ。分析鑑定室に所属している知り合いの鑑定士がコッソリ教えてくれたんだ」

「何それ?」

思わずフェルナンドも反応を返す。

それに応える穏やか君。

「それはね、古書研究会の名誉会長でもあらせられる当代賢者様が、先頭をきって遺跡に潜り込んで……何か大掛かりなことをしているらしいんだ。なんでも古代の魔法生物が化石化して出来た魔石を採掘しているって話だよ。それが賢者様のヘソクリになったり、この大図書館の資金源になったりもするんだって……聞いたことが…………あっ。これ内緒……極秘事項だったっけ!? ……ああっ、賢者様に秘密の恋人がいることも内緒だって厳命されてたんだった!」

ベラベラと上層部の内部機密をバラしてしまった穏やか君。

うっかりフェルナンドに知られてしまったと、焦って青い顔になっていた。

「「あーぁ、また始末書かもね」だねぇ」

ほか二人の事務官同僚には呆れられたり冷やかされたり。

始末書で済むのだろうか、これ。

あと、もしかしたらだが、コイツらも連帯責任とかを問われるんじゃなかろうか。

「いやいや、フェルナンド君の記憶を今すぐ抹殺しておけば問題ない。それが無理ならば、存在ごと消してしまおう。まだ間に合う、大丈夫ダイジョウブ……」

何やら不穏な台詞を言い出した穏やか君。

いやいや、記憶も命も消されちゃ困るぜ。



 ちょっと奴の目付きが怪しくなってきたかもだ。

ホントに殺られたら堪ったものではない。

「あ、そろそろ昼休憩が終わる時間だ。それじゃあ僕は失礼するよ! 君たちも、せいぜい頑張って始末書を書いてくれたまえ!」

午後からは、彼の先輩に魔本の修繕作業を教えてもらう約束になっている。

少しずつ色々なことを身につけて成長したいと、近ごろは心が浮き立っている初心者司書官だ。

フェルナンドは素早く食器を片付けて、アルフレドのもとへと退散することにしたのだった。





(……fin)


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就職した職場が秘密保管庫なのは秘密。 代 居玖間 @sirokuma-smiley-u-

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