告白

 供述書を改めて読み返し、警察官は目の前の男へ視線を向ける。つい先日、事情聴取を全て終えたばかりの虚な目をした容疑者へと。


「見つかりましたか」


 第一声に、男はそう言い放った。


「ああ……まあ……」


 警察官は、どこか心苦しそうに言葉を濁した。曖昧な返事を受け、男は空っぽな瞳のまま、おもむろに首をかしげる。


「一応確認するが、これは先日、山で見つかった身元不明の遺体に関する供述で間違いないな?」

「はい、おっしゃる通りです」


 ペラペラといくつか書類をめくり、警察官は小さく咳払いをした。


「二つ、お前に言っておかねばならないことがある」

「二つ、ですか?」

「そう、一つではなく、二つ」


 書類をトンと脇に置き、警察官は「落ち着いて聞いて欲しいのだが」と前置きの言葉を吐く。


「まず一つ目に、山から見つかった遺体はなにも一人だけではない。少なくとも、二人分」

「……は」

「心当たりは?」


 驚きのあまり声すら出せない容疑者の様子に、警察官は「なさそうだな」と冷めた目で独りごちた。


「では二つ目だが……自首した人間。これに関しても、お前だけではない」


 男の瞳に、僅かばかりの期待が光る。


「この顔に、見覚えは?」


 警察官から差し出された写真に食らいつくかのように男はつんのめり、そのまま両目を大きく見開いた。目玉がこぼれてしまわないかと誰もが心配になるほど、その姿は病的で異様だった。


「……違う」

「知っているのか、知らないのか。そう聞いているんだが」

「違う、こいつじゃない! 私は……!」


 取り乱し顔を掻きむしる男に対して、警察官は冷静に写真を下げ、一つの証拠品を目の前にぶら下げる。


「お前の証言を元に人間関係を洗ったところ、先程見せた女もあっさり自白してな」


 酷く老いぼれた女性の顔写真に重なるように証拠品の指輪を下ろして、警察官は淡々と捜査の結果を告げた。


「娘を殺して、教祖様と同じところに埋めてやりましたってさ」


 男の望み通り、事件は解決した。男は口角をこれでもかと吊り上げて、充血しきった双眸からポロポロと涙をこぼしていた。

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せめて机上の愛を教えて 御角 @3kad0

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