第7話
男の体躯はずいぶんと大きい。身長は2メートルはありそうだ。
頭はツルツルのスキンヘッドで、頭から頬にかけて大きな傷があり、強面に拍車をかけている。
背中にかけているのは無骨な大剣で、着ている革鎧は使い込まれなければ出ない、革製品特有の光沢を発していた。
恐らくはかなりのベテラン冒険者だろう。
態度にちょっと思うところもあるけれど、一応先輩は敬っておくべきだ。
「はい、冒険者になろうと思って上京してきました」
「――かあっ、やめとけやめとけ! 大方田舎から出てきて夢を見てるクチだろうが、おめぇみたいなひょろっとしたガキに冒険者なんざ務まるわけがねぇ!」
ベテラン冒険者のおっさんが、バシバシと俺の肩を叩いてくる。
間違いなくあざになってるだろって思うくらいに力を込められ、思わず顔が歪んだ。
その手を払いのけ、そのまま服ごしにLV2の光魔法であるヒールを発動させる。
じんわりと発光していく光が、肩の痛みをじんわりと取っていってくれる。
ふぅ……と一度大きく息を吐き出してから、ゆっくりと顔を上げる。
相手を敬っておこうなどという考えは既になくなっていた。
「……ガキじゃない、これでも十六歳だ」
俺のモットーは、『優しくしてくれた人には優しく』だ。
キツい態度を取ってくるっていうんなら、こっちにも相応の態度を取らせてもらう。
もちろんいきなりこの場で戦ったりするつもりはない。
どうするか迷ったけど……荒事をこなす冒険者っていうのは、面子や信用が何より大切なはずだ。
つまりこれから冒険者としてやっていくのなら、同業者に舐められるわけにはいかない。
ここはいっちょかましておかなくちゃ、だな。
「ライトニング」
ここに来るまでに魔物相手に何度も試したおかげで、今ではLV1の魔法であればある程度自在にコントロールすることができる。
俺は雷魔法LV1のライトニングを今できる最小の魔力で発動させ、微弱な雷を指の周りに巡らせた。
どうだハゲちょびんめ。
これを見れば「な、何ッ!? お前は魔法使いだったのか!?」的な展開になって、上手くこの場を上手く切り抜けられ……
「おいおいそれってまさか……光魔法か!?」
「……? いや、違う。光魔法はさっき使っただけだ。これは雷魔法で……」
「か、雷魔法だとおっ!? おまけに光魔法まで!? ――おい皆っ、とんでもねぇルーキーが現れやがったぜ!!」
さっきまで俺のことを見下ろしていたハゲのおっさんは、気付けばとんでもない大声を出しながら周りの皆の耳目を集めていた。
当然ながら彼らの視線は、指に蛇のように雷を絡ませている俺に集中する。
「雷魔法だと、冗談も大概に……っておい、あれってまさか……?」
「ねぇねぇ、光魔法使えるって本当!? それなら是非お姉さん達のパーティーに……」
「ええいっ、何を言っている! ここは魔法使いである僕ら『黎明の夜明け』に譲りたまえ!」
恥ずかしくなって雷を消すと、ものすごい勢いで周りに冒険者の人達が集まりだした。
……引きこもり卒業ほやほやの俺に、この量の視線は致死量なんだが?(吐血)
めっちゃ見られたり指笛を鳴らされたり、勧誘を受けたり……思っていたよりずっと温かい感じの雰囲気に慣れずにゴリゴリとSAN値を消費していると、ようやく俺の番が回ってくる。
美人の受付嬢さんが、少しだけ引きつった笑みを浮かべながらぺこりと頭を下げた。
「すみません、さっき話をされていた冒険者の方はカイビキさんと言いまして。昔から冒険者志望の子達に心構えをつけさせるのが好きという変わった趣味を持っており……」
「あれですか? もしかして見た目は怖いけど中身はいい人的な……」
「――ええっ! ええそうなんです! 見た目は怖いかもしれませんけど、本当にいい人ですから! もし冒険者をしていて困ったことがあったら、カイビキさんに遠慮なく聞いてあげてくださいね、本人も喜びますので!」
どうやら一発かましたろうと思っていた俺の行動は、全てが空回りに終わったらしい。
……どうしよう、一回自宅に戻って態勢を立て直そうかな?(錯乱)
引きこもり特有の後ろ向きな思考を発動させながらどよーんとしていると、先ほどまで愛想笑いを浮かべていた受付嬢さんがキリリとその表情筋を引き締める。
「では改めまして――ようこそ冒険者ギルドグリスニア支部へ。私受付嬢のメリッサと申します。本日は冒険者登録でよろしかったでしょうか?」
「あ……はいっ! よ、よろしくお願いします!」
ちょっと遠くに飛びかかっていた意識を呼び戻し、ぺこりと頭を下げる。
すると先ほどまで俺の周りにいた冒険者の皆様方が、なぜか拍手をして俺のことを歓迎してくれた。
もっと殺伐とした雰囲気だとばかり思っていたけど……どうやら想像していたよりずいぶんとアットホームな空気感のようだ。
これならあまり人付き合いや競争が得意ではない俺でも、なんとかやっていけるかもしれない。
そんな風に思えることに感謝しながら、俺は冒険者となるための第一歩を無事踏み出すのだった――。
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