第6話
グリスニアは街全体をぐるりと石壁で囲んでいる、いわゆる城塞都市というやつだった。
なんでもいざという時の魔物の襲撃に対応するために、こんな作りにしているんだとか。
一般に開放しているのは東西南北四つの門。
西と北の街道で他領とつながっているため、その二つの門だけは往来が常に多いらしい。
この二つの門は商人達の行列でいつも賑わっていて、二時間三時間待ちもざらだという話だった。
ちなみに西に続く街はいわゆる迷宮都市というやつらしく、アリステラにはダンジョンも存在しているらしい。
一応ダンジョンは王都にもあるらしい。
大したお宝が出ないからか不人気らしいけど……。
……っと、話を戻そう。
東を進んでいくとまずは草原が、次に森が広がっており、そこを抜けてから更に先まで行くとかつて王国が順調に開拓をしていた頃にできた開拓村に続いている。
なので東門は基本的には仕事をしに来た薬師や冒険者くらいしか通ることはない、不人気門なのだという(ちなみに俺がやってきたのは、この東門だ)。
南へ進むとどうなるかというと、海へたどり着くようだ。
ただ水棲の魔物がかなり強力らしく、今のところ港町は作れていないのだという。
え、俺がなんでそんなことを知っているのかって?
それはだな……
「――っとまぁ、王都の説明はこんな具合だな」
「な、なるほど……ご親切にありがとうございます」
門番続けて二十年、ベテラン衛兵であるバンズさんが手取り足取り王都のことを教えてくれたからだ。
俺がやってきたのは東門。
そして来る時に服で怪しまれないよう、家にあった一番ぼろい服を、わざと縫製をズタズタにしている。
更に言えば俺は両親以外と久しく話してこなかったため、現在極度のコミュ障状態。
それらの要素が全て奇跡的に噛み合い……バンズさんは俺のことを命からがら開拓村から来た、冒険者志望の夢見る若者だと勘違いしてくれたのだ!
バンズさんは人見知りをしない質らしく、明らかに挙動不審な俺に対しても気さくに話しかけてくれた。
おかげで俺も、そこまで緊張せずに話をすることができる。
「開拓村から来たってことは、やっぱり冒険者志望かい?」
「え……ええ。危険だろうとなんだろうと、お金を稼がなくちゃいけないので」
「くううっ、若さが眩しいぜ……」
目を細めながら手で庇を作るバンズさんのコミカルな動きに、笑みがこぼれた。
この世界にも冒険者が存在していることにホッとしながら、とりあえず話を合わせておく。
聞いてみた感じ、この世界でも魔物の討伐などをするのは冒険者で間違いないようだ。
荒事メインの何でも屋、くらいの認識だろうか。
色々ともめ事を起こすことも多いため、衛兵のバンズさんからすると彼らの存在は悩みの種らしい。
「でもいいんでしょうか、こんなに色々としてもらってしまって……」
「いんだよいんだよ、親切は受けられる時に受けとけって」
俺が通行料の銅貨一枚を持っていないことを知ると、バンズさんは力強く肩を叩いて、俺に銅貨を渡してくれた。
「未来の大冒険者への先行投資と思えば安いもんさ」
そう言って自然に笑っている彼の表情を、きっと俺は生涯忘れることはないと思う。
情報だけじゃなくお金まで……ありがとうバンズさん、この恩は忘れません。
もしちゃんと金が稼げるようになったら、何かプレゼントでもして恩を返せたらと思う。
俺はアリステラの人の優しさに触れながら、冒険者ギルドへと向かうのだった――。
そもそも宿に泊まるつもりもないため、宿探しはせずにそのまま冒険者ギルドへと向かう。
幸いその建物はグリスニアでもかなり目立つ一等地にあるため、すぐに見つけることができた。
重厚な扉を開いて中に入る。
するとそこにあったのは……冒険者達というもののイメージそのままな、混沌のるつぼだった。
奥を見れば、にっこりと愛想笑いをしている美人の受付嬢がいる。
良くなった耳が拾ってくれたが、どうやらディナーの誘いを断っているようだ。
併設されている酒場では、傷に乱暴に塗り薬を塗って応急処置をしただけの冒険者らしき男が、酒を呷っていた。
何時死ぬともわからない危険な仕事だから羽目を外したくなるのもわかるけど、ちょっとワイルド過ぎると思う。
少し離れたところには素材を査定をしているギルド職員がいて、手前側に置かれているボードには受注可能な依頼が張り出されている。
神様が言っていた通り、全て日本語ですらすらと読むことができた。
えっと、冒険者登録をするのは……あの受付カウンターでいいのかな?
先ほどディナーを断っていた受付嬢さんがテキパキと処理をしている列の最後尾に、俺も並ぶことにした。
すると……ガシッ!
いきなり肩を掴まれる。
後ろを振り返るとそこには――強面の大男の姿があった。
「おいそこのガキ、お前まさか……冒険者志望だなんて言わねぇよなぁ?」
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