☆到着☆

 映画館に到着する。土曜日ということもあってか人が多い。家族連れやカップル、そして私たちのような友人同士。

 ただどの人たちも瞳をキラキラ輝かせている。

 映画を観ることを心の底から楽しみにしているようだった。私もこの人たちと同じような瞳をしているのかなと思うと、ちょっぴり恥ずかしさを覚える。

 館内には大きな宣材ポスターがずらりと並ぶ。

 選択肢にあがっていた映画のポスターもある。

 さてはて、どちらにしようか。

 上映時間としてはどちらも同じような時間。流石人気作なだけある。

 だからこそ、尚更どちらでも良くなってしまう。

 すべて唯華に一任してしまえば良かったと今更になって後悔する。


 「こっちにしようか」


 恋愛映画を指差す。

 目の前にポスターがあったから。それだけの理由。それ以上でもそれ以下でもない。けれど、ある意味運命だとも思う。うん、そうだ。そういうことにしておこう。


 「じゃあ、そっちにしちゃおっか~」


 唯華は特に嫌がる様子を見せることもなければ、喜ぶ様子もない。本当にどちらでも良かったのだと伝わる。

 ポップコーンを一つと飲み物を二つ購入する。

 紙コップからひんやりとした感覚が伝わる。

 私たちはチケットを発券して、入場する。中央の席だ。スクリーンから近くもなければ遠くもない。なんとも言い難い席である。まぁ、悪くはないのかな。

 もう予告映像が流れていた。すみません、すみません、とぺこぺこ頭を下げながら席へ辿り着く。

 座って一息吐いてから周囲を見渡す。

 どこもかしこもカップルに占領されている。

 ここまでカップルだらけなのも珍しいよなぁと思う。恋愛がテーマなだけあるなぁと感心する。

 カップルが多いせいか、若干空気が甘い。甘くて苦いものを口に含みたくなる気分。

 弛緩した雰囲気とでも言えば良いだろうか。

 朗らかな感じで、なにをしても大抵のことは許されるというか、そもそも気にも留めない。そんな雰囲気だ。

 もちろん、だからってなにかするわけじゃないのだけれど。


 「食べないの?」


 唯華はポップコーンを一摘まみして尋ねてくる。


 「じゃあ食べようかな」


 折半して買った物なので遠慮もなにもないのだけれど。ただただ忘れていた。映画館の雰囲気を楽しんで忘れていた。

 苦いものじゃないけれど、塩っぽいもので中和してしまおう。


 「はい」


 唯華は摘まんでいたポッポコーンを私の口元へ持ってくる。

 あーん、か。

 良くもまぁ、そういうことを堂々とできるよなぁと思う。私だったら爆発しそうになるのに。

 唯華にとって私とはただの友達であり、幼馴染であるのだなぁと思い知らされる。


 「あむっ」


 ポップコーンを食べる。

 ただの塩味のポップコーンなはずなのに、どことなく甘さを感じた。気のせいだとは思うけれど、どうも気のせいには思えなかった。

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