☯脳筋陰陽師の秘密

ランドリ🐦💨

第1話 秘密を告白

 青い新品の畳が香る和風の一室で、陰陽師は式神として契約した元あやかし少女と相対していた。


 ここは補助金をじゃぶじゃぶ注いで全国に作られた、陰陽師用の宿泊施設である陰陽房。


 陰陽師資格を提示すれば、無料で宿泊できる場所だ。


 陰陽師は先日と同じく若草色の着流しを纏い、ふっくらとした座布団の上で胡坐をかいて座っている。崩し気味の姿勢とは違い、その黒い目は式神少女を真剣に見つめている。


 あやかし少女改め式神少女は、先日とは違い所属を明らかにするために紅白の巫女服を身に纏っており、陰陽師と合わせてふっくらとした座布団の上で正座を横に崩した座り方で、いわゆる女の子座りだ。

 その背中まで伸びる濡れ烏の髪の頂上には、何故か小さくなった巨大魚が乗っていて時折ズレ落ちないように胸ビレを動かし、位置を修正している。少女の頭上に張り付いている姿は小さなアンコウのよう。


 見つめられて居心地が悪くなったのか、先に口火を切ったのは式神少女だ。


 時々赤くきらめく黒い瞳で、陰陽師を覗き込むようにして問いかける。


「話って何~?」

「あー……そのだな。契約時には契約屋の爺さんが居て、言えなかったんだが……」


 歯切れの悪そうに答える陰陽師の言葉を遮るように、畳に手をついて座布団から勢いよく乗り出した式神少女が断言する。

 勢いが良すぎて頭上に乗っていたアンコウ君が、逆様になって落っこちて突然の視界反転に驚き、畳の上で跳ねている


「契約した毎日三食とおやつは譲れ無いよ~!」

「うぉっ!? 落ち着け。えー静まり給え~。その件ではない」

「落ち着いた~」


 かじりつきそうなほどの急接近にのけぞった陰陽師は、両手の平を向ける事で制止しながらうろ覚えの力ある言葉で落ち着かせる。


 その言葉に式神少女はスンと、落ち着きを取り戻した。


 落下して跳ねるアンコウ君をひと撫でしてから頭に置いてあげると、再びふかふかの座布団の上に今度は正座する。


 式神少女が再び清聴の姿勢に戻ったことを確認した陰陽師は、小さく咳払いをすると自らの身の上を語った。


 陰陽師曰く、俺の名は小林 金太で小林寺の次男として生まれたとの事。

 小林寺は基本的に長男が術を受け継ぐ為、俺は何の術も使えない事。

 代わりに打ち込んでいた少林流戦闘術で、資格試験を突破した事。

 長男は資格試験に落ちたので、黒子という補助役をしている事。

 その為実家に居づらいので、陰陽房を家代わりにしている事。

 陰陽房は長期滞在不可の為、各地を旅して転々している事。

 「しょうりんじ」ではなく「こばやしでら」だという事。


 それらを聞いた式神少女はアンコウ君と一緒にひとしきり顎が外れそうなほど口を開き驚いた後、首をかしげて再確認する。


「え~っと、金太は術を使えないの~? 陰陽師なんだよね~?」

「いかにも俺は陰陽師だ」


 姿勢を正して正座で陰陽師を名乗る術を何一つ使えない金太へ、更に直角まで首をかしげた式神少女は問いかける。アンコウ君は再び滑り落ちた。


「術を教えてもらっちゃダメなの~?」

「俺の持っている資格は、第二種陰陽師資格といって結構上澄みなんだ……。上澄みなら不要だろうと、各種講習への参加資格が無い。次男だからコネも無い」

「えぇ~……」


 正座同士で向かい合う陰陽師を生暖かい目で見つめる式神少女と、畳の上を横向きにぐでんと転がるアンコウ君。


 そんな少女に陰陽師は改まって告げた。


「俺が術を使えないことは秘密だ。タダとは言わない、三食おやつ以外にも旅先で色々と美味いものを口止め料に御馳走するぞ」

「わかったよ〜! 美味しいものをよろしく~!」

「こちらこそ、よろしく頼むぞ」


「美味いもの」や「御馳走する」という言葉に目を輝かせた式神少女は、差し出された陰陽師の手を今までにない速さで握り返し、契約外の口約束に同意した。何か縛られているわけでは無いが、本人が喜んでいるのでこの口約束は履行されるだろう。


 二人以外はアンコウ君だけがこの口約束を聞いている。

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