第11話 灰色の狼少女

 その日はガンマも合流して訓練を行い始めて数ヶ月も経ったある日の出来事だった。

 私の魔力探知範囲内に非常に魔力が不安定な上に莫大魔力を保持した存在が急に探知されたのだった。

「どうされましたか、主様」

 と、ベータ。

「いや、私の探知範囲に異様な存在が急に入ってきてね」

「なる程、どう致しますか?」

「何か問題があると困るから、まずは実際に見に行ってみようと思う」

「解りました、ではお付き合い致しましょう」

「いや、二人はこのまま訓練を続けておいて」

 そう言って私は夜の帳の落ちた森の中を、探知した存在の元へと駆け始めたのだった。


 急ぎ向かった先には一人の狼型獣人の少女の姿があった。

 しかし、その姿は身体の半分以上が腐り崩れている有様であったのだ。

 明らかに腐肉病の症状である。

 そんな状態でたった一人の少女がこんな処にいる事に違和感を憶えつつ、私は近づき声を掛けた。

「大丈夫かい?」

 と、声を掛けつつ近づいていくと、彼女の状態が見えてくる。

 長いこと食事にありつけていないのだろう、身体は痩せ細り今にも折れそうな程の在り様であったのだ。

「殺して、私はもうダメ」

 と、灰色の毛並みの狼の獣人の少女は言う。

「君は運が良いと言えるだろう。

 何故ならば死ぬことがないからだ」

 と言いつつ私は彼女の腐肉病の症状を治すべく莫大な魔力を放出しいつも通りに腐肉病を治していく。

「身体が治っていく」

「死ぬ必要が無くなっただろう?」

「うん」

「帰れる家はあるかい?」

「無い、捨てられた」

「そうか、なら一緒に暮らすかい?」

「解った一緒に暮らす」

 私はガリガリに痩せ細った彼女を抱き抱えると森の中を突き進んだ。


「ベータ、ガンマ。だたいま」

「主様その子は?」

「この子が私が探知した存在の正体だったよ。

 腐肉病に掛り捨てられてしまったらしい」

「なる程…」

「今後どうするのかは決めていないけど、取り敢えずは動ける様になるまでは世話をするつもりだ。

 申し訳ないのだけれど、僕が面倒を見切れない範囲の事、色々と頼めるかい?」

「解りました主様」

「ガンマもお願いできる?」

「主様の仰せのままに」

「と言うわけだ、当面の間は私とこの子達で君の面倒を見る事になるけど大丈夫かな?」

「ありがとう」


 そして数週間後。

 元々身体が頑丈な子だったのだろう。

 食べ物をちゃんと食べさせて上げると見る見る内に痩せ細っていた身体は瑞々しさを取り戻し、ボサボサだった頭頂部の耳や尻尾の毛並みは美しい灰色の毛並みを取り戻していた。

 そんな身体の不調を治す為の時間の中、彼女とは様々な話をした。

 私達がどんな活動をしているのかと言うことを。

 その結果彼女は私達一緒に活動するにいたる。

 そして彼女にも新しい名前デルタの名前を与える事になり、今はベータ・ガンマと共に訓練に励んでいるのだが。

 デルタの戦闘能力には目を見張るものがあった。

 元々狩りが得意と言う事もあって隠密行動にも長け、即戦力としてアルファと行動を共にする様になるのもあっという間であったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る