第8話 二人目のエルフ

「あれがそうなのかい?」

「えー、そうよ。

 一見すると野盗にしか見えないかもしれないけれど、あれが今回腐肉病患者を運んでいる集団よ」

「ふむ…前回も野盗染みた連中が君を運んでいたみたいだし、これがテトラグラマトン教団の常套手段なのかも知れないね」

「えぇ、その可能性は否定しきれないわ」

「となると、何処かで前回のような手練れが合流するかもしれないかもしないから、出来るだけ早く片付けるとしよう」

「解ったわ。

 襲撃ポイントはあらかじめいくつか見つけてあるから先回りして待機して起きましょう」


 襲撃自体はアルファと二人がかりだったこともあってすんなりと終わらすことが出来た。

 しかも今回は尋問する相手を確保する事も出来た。

 前回の様に手練れの存在が無かった為確保出来た様なものだ。

 今は森の中をアルファと共に移動中で、私が檻を持ち、アルファが気絶させて確保した野盗(テトラグラマトン教団の手の者の可能性あり)を担いでいる形だ。

 夜闇に紛れ移動する事数時間。

 私達はいつも利用している元開拓村の家に辿り着いた。


「尋問は任せてしまって良いかな?」

「えぇ、任せて頂戴。

 私が何処に連れ去られ様としてたのかも解るかも知れないから、手加減をするつもりはないわ」

「じゃ、私は治療に専念させて貰うよ」

 私は肉の塊になってしまっている目の前の腐肉病患者を治療するべく魔力を放出する。

 そして、莫大な魔力を用いて魔力暴走を抑え込んで現れたのは、またしてもエルフの美少女だった。

 銀髪銀眼に泣き黒子がある可愛らしいエルフの少女がそこに居た。

「ここは?」

「身体の具合はどうかな?」

「え?身体が…治ってる」

「勝手ながら君の身体を治させて貰ったよ」

「あ、有り難う御座います。

 このご恩は一生忘れません!」

「うん、その辺りの話しは改まってする事にして。

 まずはこの服をどうぞ」

 私はアルファの時の失敗を元にして予め服を用意して置いていたのだった。

 男性女性両方に対応出来る様に色々と取り揃えてある。

「え?きゃっ」

 と、可愛らしい声を上げて蹲るエルフの少女。

 アルファの時とはエライ違いだ。

 っと、そんな噂をすればなんとやら。

「!貴方は」

「お…」

「それ以上は言わないで貰えるかしら。

 この身はもう既に一度死んだ身。

 今はこの人に新しくアルファと名前を貰って活動しているわ」

「解りましたアルファ様」

「知り合い?」

「はい、なので私の方で話しをさせて戴いても良いでしょうか?

 尋問の結果はまた後で」

「そういうことなら席を外そう。

 ゆっくりと話しをすると良い」

 私はそう言って席を外した。


 暫くすると。

「話が終わりました」

 と、アルファが私を呼びに来た。

「解った、彼女はどんな感じ?」

「取り敢えず、今後一緒に活動する事に了承を貰いました」

「そこまで話しを進めたんだ」

「はい、つきましては彼女にも新しい名前を与えて貰えないでしょうか?」

「いいよ」


 アルファに呼ばれた先には服を着た銀髪のエルフの少女の姿があった。

「では、改めまして。

 私の名前はゲヴァイト・ヴァクストゥム。

 この近隣を治めるヴァクストゥム男爵家の嫡男だ。

 アルファから話しを聞いたよ。

 何でも君も新しい名前が欲しいとか」

「はい、私もアルファ様同様死んだ様な身の上です。

 今後活動する上で新しい名前を戴けたら」

「ふむ、では今日から君の名前はベータだ」

「ベータ、私の新しい名前」

「さて、新しい名前を貰って感慨も一入ひとしおだろうけど、此方の話しを進めさせて貰おうかな。

 このまま尋問の内容を聞いても問題はない?」

「はい、問題無いかと思います」

「それじゃお願い」

「はい、まず尋問の結果ですが、幾つかの固有名詞を聞き出せた程度で芳しい情報はありませんでした」

「ふむ、口が硬かったのか、それとも本当に何も知らなかったのか」

「その辺りの事はこれからも引き続き調べていきたいと思います。

 では、話しの続きを。

 先ず彼等の正体は聖堂騎士団の下級騎士と従者の一団と言う事でした」

「聖堂騎士団…以前アルファが入手したテトラグラマトン教団と名乗っている所へ連れて行かれて送られる途中だった事から類推するに、関連性がありそうな感じではあるね」

「はい。

 共に宗教色を色濃くする名前ですのでその可能性は高いかと。

 また、下級騎士という線から話しを続けましたところ、聖堂騎士団には上級騎士とその従士なる存在も居る事が判明しました」

「ふむ、私が遭遇した手練れの男達がそれに当たるのかな?」

「現状ではそのように予測する事が出来るかと」

「まー、現時点ではどれも予測の域を出ないか。

 他には何か分ったことはあるかい?」

「申し訳ありませんが、引き出せた情報は以上です」

「ふむ、今後も尋問を続けて情報の確度を高めていくしかないか」

「はい、仲間を集めるのと並行して、これらの情報を集める事にも尽力したいと思います」

「アルファ、あまり根を詰めすぎない様に気を付けてね」

「えぇ、解っているわ。

 そう簡単に尻尾を掴ませて貰えないことは今回の件ではっきりしたわ。

 気を長くしてやっていくつもりよ」

「じゃ、私はそろそろ屋敷に戻る事にするよ。

 ベータの事は任せても?」

「任せて頂戴。

 それに知らない仲じゃない事は、さっきの反応から察しているでしょ?」

「そうだね、それじゃ後は任せたよ。

 あっそうだ、尋問した相手は始末した?」

「はい、抜かりなく」

「問題は無さそうだね」

 そう言って、私は屋敷に戻るために走り出した。


「王女殿下」

「今はアルファよ、ベータ」

「…申し訳ありません。まだ慣れないもので。

 それでアルファ様、先程の話しは本当なのでしょうか?」

「少なくとも、私達の様な腐肉病患者を集めている組織が居る事は確実よ」

「そうですか」

「だけれど、今の段階では何を目的としてそんな事をしているのかも、どの程度の組織の規模なのかも、何も分らない状態。

 そんな中だけれども本当についてこれる?」

「腐肉病になって親に捨てられ、全てを諦めていた中で、こんな奇跡に巡り会えることが出来たのです。

 私は、あの方に報いたいと思っています」

「えぇ、それなら問題ないわ。

 当面は彼と共に訓練に励んで貰う事になると思うわ」

「解りました」

「覚悟しておきなさい?

 彼、ものすごいスパルタだから。色々と仕込まれるわよ」

「…解りました。」

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