第2話 新たな命

「シュウェアー様、元気な男の子で御座います!」

「ああ、早く抱きたいわ」

「少々お待ちください、今すぐにお渡し致しますので」

 その日、メンシリヒ王国の地方を治めるヴァクストゥム男爵家で一つの新しい命が生まれた。

「随分と大人しい子ね」

「はい、ですが健康面では特に問題はないものと思われます」

 男爵家の一室でメイド達が仕事をする中、産婆と話し合う母親…シュウェアー・ヴァクストゥム男爵夫人に抱かれる赤ん坊は、産声を上げるでもなく周囲を興味深そうに眺めていた。

 そんな時部屋のドアを控えめに開ける存在が居た。

「お母様、私の弟が生まれたと聞いてきたの」

「リーヴァ此方にいらっしゃい、貴方の弟よ」

「はい、お母様」

 トテトテと歩いて近づいていく幼い少女。

 母親からリーヴァという愛称で呼ばれる彼女の名前はカンケリーヴァ・ヴァクストゥム。

 ヴァクストゥム男爵家の一人娘で最近二歳になったばかりの女の子である。

 しかしながら、しっかりと教育が行き届いているのか二歳児ながらしっかりとした言葉遣いをした聡明さが窺える女の子であった。

「わあ!ちっちゃな手!」

 元気いっぱいなカンケリーヴァの声を聞き微笑みを浮かべるのは周囲のメイド達であった。

 カンケリーヴァは徐に指を弟の手へと差し出した。

 するとその手を反射的に握られてしまう。

「あ」

「ふふ、お姉ちゃんに触られてこの子も嬉しいみたいね」

「本当お母様?」

「ええそうよ」

 そんな時バタン!っと大きな音を立てて一人の男性が部屋へと訪れた。

「貴方もう少し静かに出来ないのかしら?」

 部屋に訪れたのはこの男爵家の主、ジャン・ヴァクストゥム男爵であった。

「ああ、すまん。

 男の子が生まれたと聞いてな。居ても立っても居られず」

「取り敢えず抱いてみますか?」

「おお、そうだな」

 こうして、ヴァクストゥム男爵家に待望の男児が生まれたのだった。


 メンシリヒ王国の南東に存在する田舎町を治めるヴァクストゥム男爵家。

 メンシリヒ王国の首都に向かうよりも、エルフの国である隣国ノードオストに向かう方がよっぽど近い程の田舎町である。

 そんな地方領主の元に生まれた存在が、この世界に変革をもたらす存在になる事などこの時は誰も知る事なく、幸せな時間は過ぎていく。

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